研究課題/領域番号 |
20K01442
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分06010:政治学関連
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
村上 裕一 北海道大学, 公共政策学連携研究部, 准教授 (50647039)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
|
キーワード | 規制 / 信頼 / アカウンタビリティ / 合議体 / 科学技術イノベーション / 政策評価 / 日仏比較 / 広域的ガバナンス / 地方公共交通 / コロナ危機対応 / 独立性 / 環境規制 / 規制の虜 / STI政策 / 行政統制と委任 / 行政責任 / ルールメイキング / エンフォースメント / 条約レジーム / 民主的統制 / 委任 / 評価 / 調整 / 協働 / マルチレベル・ガバナンス / 裁量 / 権限 / 公益性 |
研究開始時の研究の概要 |
現代行政を分析するには、各政府・行政機構間の垂直的・水平的対立を抑制・協調に向かわせる国内外の様々な調整メカニズム、すなわち「マルチレベル・ガバナンス」(MLG)に注目することが有効かつ必要である。MLGは1980年代以降、欧州で流行した理論だが、国内外の現代行政で近年、地方や独立機関が存在感を増し、MLGの規範的意義が見直されるとともに、ガバナンスの単なる類型論を超えた分析手法の開拓が求められている。そこで本研究ではMLGに再注目し、事例を踏まえ「人や組織にどのようなdiscretion(裁量)(と権限)をどう配分すれば、民主的・公益的に望ましい政策を決定・実施できるか」を明らかにする。
|
研究実績の概要 |
今年度は下記の3観点から、マルチレベル・ガバナンスについて研究した。 (1) 信頼に値する規制の独立性と透明性について原子力規制を念頭に検討し、「規制の虜」を回避しつつアカウンタビリティを確保していくには、「政治」や政権、推進組織、規制対象者から一定の「距離」を保つ一方、非同質性と非支配性を兼ね備えた合議体がバランスのとれた専門的決定を下すことが必要だと論じた。こうした規制実績の積み重ねが、信頼を醸成する。東アジア各国やフランスの規制では、各々が追求する独立性の種類によって合議体の構成が異なることが明らかになった(「日本評価学会」と『北大法学論集』)。 (2) 科技イノベ行政の民主化と合理化について検討した。北海道立総合研究機構は、地方独法化で北海道庁から独立後、地元の実務者や関連業界のニーズにも敏感である必要性が高まった。そこで研究者は研究開発の説明責任を負うが、組織運営からはかなり自律的であることから、研究開発評価と研究開発法人評価の無用な衝突が回避されている(『都市問題』)。なお、関連して、規制が科技イノベに後れを取らないための官民協働のあり方(「北大・部局横断シンポジウム」)のほか、SDGs達成のための文理融合の公共政策(学)の方向性(『年報公共政策学』)についても検討した。 (3) 日仏比較により新しい地方行政について検討し、緊急事態対応などでは現状の二層制よりも三層制の方がスケールメリットもあって効率的ではないかということ、自治体間協力としての広域的ガバナンスには、日本の基礎自治体の特徴(平均の人口規模)を踏まえた、より効果的な権限・財源のインセンティブ付けがあるのではないかということ、自治体間協力を進めるためには、中央政府が都市と農村のコスト負担をめぐる対立に向き合い、広域的利益を掲げて対処すべきではないかということを指摘した(「21世紀地方自治制度調査研究会」)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マルチレベル・ガバナンス(MLG)では、官民の様々なアクターやルールがある種の組織・権限構造をなす空間において、人や組織、ルールの間でいかなる調整が行われている(行われるべき)か、もしくは裁量や権限の配分が行われている(行われるべき)かが問題となる。本研究では、実際のMLGの態様解明、政策のインプットとアウトカムを繋ぐ規範的研究、成果の社会実装に向けた望ましいMLGの条件抽出といったことを目的としていた。 2022年度は、2021年度に達成するに至らず以後の課題として整理した、①国内外における様々なMLGの一般理論の析出、②各行政・政策のインプットとアウトプットとアウトカムの「繋がり」の解明、③民主的合意形成や政治的リーダーシップと「公益的に望ましい政策の決定・実施」との関係性の検討といったことに取り組むことを計画していたところ、結果として、上記の通り、(1)規制の独立性と透明性を確保し、そうすることでその信頼性を高めるための組織設計、(2)科学技術イノベーション行政を民主的かつ合理的なものにする方策、(3) 日仏比較による、日本の実態に即した新しい地方行政のあり方の3つの検討に、取り組むこととなった。 引き続きパンデミックの影響は消えておらず、いまだ本格的な海外調査に赴くには至っていないが、その分、インターネットも活用しながら、有意義な文献・資料調査、各隣接分野の専門家との意見交換、理論的検討などに注力でき、その一部については成果発表に漕ぎ着けることができた。依然として取り組みが拡散しているようにも見えるが、政府間・官民間の垂直的・水平的な関係や調整のあり方に注目するMLGの一般理論を導き出すという最終目標からすると、各取り組みから得られた成果の1つひとつが最終年度の取りまとめによって重要な構成要素になるものと考えている。 以上を総合して、「おおむね順調に進展している」とした。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年度も引き続き、政策のインプットとアウトプットとアウトカムとを繋ぐことによる規範的研究、すなわち、MLGが民主性や公益性の観点から望ましいという議論があることから、事例で、MLG(=インプット)がいかなるアウトプットやアウトカムに繋がったかという因果関係を捉え、ガバナンスを構成する様々な利害関係者(官・民、各政府レベル、縦割り・横割りの各組織など)がどのようにdiscretionをshareしたときにより望ましい政策的アウトプットがなされたかの検討を続ける。 実際には、2022年度に取り上げた安全規制も科学技術イノベーションも地方行政も、何を政策のアウトカムとして捉えるのか、またそれをどう測定するのかという根本的課題があり、それについては当初からの課題であったインプットやアウトプットとの因果関係を明らかにすることと併せて、ここで検討したい。そのようにして、最終年度に向けて「人や組織にどのようなdiscretion(と権限)をどう配分すれば、民主的・公益的に望ましい政策を決定・実施できるか」を明らかにしていくことになる。 今年度の(1)規制の独立性と透明性と信頼性を確保するための組織設計、(2)科技イノベ行政を民主的かつ合理的なものにする方策の検討、(3) 日仏比較による、日本の実態に即した新しい地方行政のあり方の検討といった成果を踏まえると、より具体的には、①様々なMLGの規定要因の解明と一般理論の析出、②各行政・政策のアウトカム指標に関する検討、③インプット(民意やリーダーシップを含む)やアウトプット(行政・政策の活動)とアウトカムとの繋がりの解明といったことを、改めて今後の課題としたい。その際、国内外の各隣接分野の専門家の力を借りつつ、同時期に取り組む予定の行政官僚制研究や政策評価研究といった他のプロジェクトとの相乗効果が得られるように、引き続き工夫をしていきたい。
|