研究課題/領域番号 |
20K01462
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分06010:政治学関連
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
久保 はるか 甲南大学, 全学共通教育センター, 教授 (50403217)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 環境行政 / 行政組織 / 行政調整 / 政策統合 / 漁業資源管理 / 再生可能エネルギー / 省間調整 / 環境政策統合 / オゾン層保護 / 政策形成 / 環境影響評価 / 調整・協議 / 気候変動 / カリフォルニア州 / 行政組織・官僚制論 / Reputation / 過小代表利益 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、典型的な過小代表利益である環境利益を代弁する環境行政組織がいかにして成立し、成長しうるのかについて、組織固有の特性や官僚個々人の行動分析、組織の対外的なパワーの源泉となるReputationの分析を通じて明らかにしようとするものである。英・独・カリフォルニアの環境行政組織との比較制度分析を行い、日本の環境行政組織の特質を明らかにすることによって、日本における既存の官僚制研究において手薄だった非組織化利益を代表する行政組織や官僚の行動原理を解明し、官僚制研究の視野を拡げることに貢献するものである。
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研究実績の概要 |
23年度に行った研究論文の執筆は次の通りである。前年度に執筆した「漁業資源管理の構造変化:二つの管理手法の相克と合流」(『環境法の開拓線』2023年)を基に、従来からの政策構造に依拠し歴史的に根付いてきた漁業資源管理の実施構造が、今次の水産改革による政策変更を受けて変化しうるかという観点から大幅に加筆修正し、英文雑誌Marin Policyに投稿した(How Will Fisheries Reform Change Japan’s Traditional Fisheries Resource Management System? )。内閣主導の政策に対する、実施を担う所管省の対応に着目した研究である。 二つ目に、「移行期の再生可能エネルギー政策:FIT制度と促進区域手法にみる政策調整・制度間連携」を執筆した。再エネの促進を図る仕組みについて、政策統合(他の政策との調整,制度間の連携)の観点から、近年用いられている促進区域・ゾーニングという手法に着目して分析した。これは、再エネの促進と第一次産業の発展・地域づくりとを組み合わせる政策調整を含む制度であり、地域エネルギーとの親和性が高い。近年のFIT制度が、制度間連携を強化し、制度のカバーする領域を広げていることを明らかにした。 筆者はこれまで、環境政策統合に関する議論について、行政府内における行政調整の問題と、環境に関係する諸政策への環境配慮の埋め込みという政策的観点からの分析の双方に目配りして研究を行ってきた。エネルギー政策は経産省エネルギー庁が独占する分野であったが、再生可能エネルギー分野において、環境省が地域脱炭素とゾーニングを政策のキーとして関与を広げていること、農水省がソーラーシェアリングとゾーニングをキーとして関与を広げている。それに伴う、行政調整、制度間調整とFIT制度にみる政策統合の現状を整理して示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、環境省を、「鉄の三角形」「政官スクラム」が構築されない典型的な過小代表利益である環境利益を代弁する行政組織として捉えている。加えて、環境利益の実現のためには他の省庁との調整・協議がかかせないという環境行政の性質が合わさって、政策立案過程においては、事業所管省が優位する構造が制約要因となっている。劣位に置かれる環境配慮や将来世代の利益などの非組織的利益の実現のために、環境行政官僚がどのような戦略的行動をとってきたかについて、本研究では、政策と組織の二つの観点からアプローチしてきた。これは、政策的な統合と、組織の編制や組織間調整による統合を分析する環境政策統合の議論と重なる。23年度は、このような観点から、再生可能エネルギー政策を事例に分析を行った。 再エネ政策は、環境省が関与するようになって間もない新しい領域である。政策面では、気候変動対策の一貫として再生可能エネルギーの普及拡大を位置付けるために、「地域脱炭素」「地域循環共生圏」をキー概念に、地域エネルギーの取組み支援を行っている。すなわち、環境保全と地域創生の二つの政策を統合させる政策であり、2018年第五次環境基本計画にみるように、近年、環境省は、自らが対策を講じることのできるフィールドとして、地域での環境政策の展開に注力している。組織の資源・権限を拡大させようとする「成長する組織」の特性を見ることができる。また、資源エネルギー庁が、FIT制度に、環境省や農水省の再エネ政策との連携を取り入れるようになっており、組織間調整において、環境省と経産省資源エネルギー庁との「紛争マネジメント」のルーティーン化が強まっている。他方で、洋上風力やカーボンプライシング、GXなど、内閣主導の気候変動防止・エネルギー政策において、経産省と環境省との調整・協議が見られないことも、近年の特徴である。このような変化の把握に努めた。
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今後の研究の推進方策 |
ここまで、事例分析から、近年の政治行政体制の変化が環境行政・環境政策立案に与えた影響・変化の把握に努めてきた。現在、次期エネルギー基本計画策定に向けた議論が始まっており、エネルギー政策への環境省の関与と再エネ政策の動向について、引き続き観察を続ける。 そして、これまでの事例分析から明らかになった変化を踏まえて、引き続き、環境庁/環境省における戦略的行動関する調査分析を行う。そのためのインタビュー調査を計画的に進めることとする。また、環境省に対する、環境保全という公益に資する政策立案を担うということへの信頼性(Reputation)評価の状況と変化を明らかにするために、環境省職員と環境団体とのパートナーシップの関係性の変化の裏付けとなる調査を行う。 環境政策統合に関する研究動向の把握のための文献調査も、引き続き行う。その際、日本との比較のため、ドイツ、イギリス、アメリカの環境行政・環境政策に関する議論に注視する。
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