研究課題/領域番号 |
20K01564
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07010:理論経済学関連
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
宮城島 要 青山学院大学, 経済学部, 教授 (90587867)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | リスク / 時間整合性 / 社会保険メカニズム / 社会厚生 / 公平性 / 効率性 / 責任 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、各経済主体が無限期間を生きる動学的な経済環境において、社会的な分配の評価や意思決定のための基準(社会厚生基準)を構築する。社会厚生関数に効率性、公平性、時間整合性などの条件を課した場合に、どのような形状の社会厚生基準が得られるかを探求する。また、得られた基準を、気候変動政策や社会保障政策などの公共政策における制度設計に応用する。さらに、時間非整合的な個人の選好を集計する問題についても考えたい。
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研究実績の概要 |
2023年度はリスクのある動学モデルを用いて、2つの研究が進んだ。1つは、人々の無限の消費流列に対する選好を集計するモデルで、将来の消費にリスクがある場合の社会厚生評価の研究である。この問題では、いくつかの規範原理を導入し、それらを満たす社会厚生基準を特徴づけた。より具体的には、(1)リスクのないもとでのパレート条件と、人々が平等な消費をするもとでのパレート条件という二つの効率性原理、(2)コンスタントな消費流列での不平等を是正する衡平性原理、(3)異時点間において消費流列の分配評価が整合的になっている(矛盾があってはならない)ことを要請する時間整合性原理、(4)リスク下において、帰結がより良くなるような社会的プロスペクトを選ぶことを要請する優越性の原理、という4つの原理である。時間整合性により、人々の過去の状況まで考慮した評価が可能になり、また、優位性原理によってリスク下における合理的な意思決定となっている。衡平性原理やそれと両立する効率性原理によって、平等主義的な社会厚生基準を特徴づけられる。 もう一つの研究は、将来の資産に関するリスクがある動学モデルを用いた、社会保険メカニズムの導出である。不運で資産が下がった時に備えて、社会でリスクをシェアするための社会保険による再分配を考えた。人々は将来の備えをする際に、自らの動学的な効用を最大化するように貯蓄額を決定し、この決定を誘引両立制約として考えた。また、従来の功利主義的社会評価関数ではなく、効用のランクに依存的で、低い事後効用により高いウェイトをつける平等主義的な社会厚生関数を最大化するように、メカニズムを構築した。これにより、ウェイトによって、不運な人への再分配を調整できるような、従来と異なる税制を導出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
社会厚生評価の研究に関しては、優越性の原理を利用することにより、簡潔な形の社会厚生評価基準を導出することができた。これにより、不平等回避度と、異時点間のリスク回避度や消費平準化などを分離した基準を考えることができ、当初想定していた結果が得られたと考えられる。 社会保険メカニズムの設計に関しては、一般化ジニ社会厚生関数を用いることで、当初想定していたよりもシンプルな結果を導き出すことができた。この基準によって、それぞれの効用のランクに対してどのようなウェイトを置くかによって、最適な制度や資源配分が変わってくる。簡単なシミュレーションなどによって、ウェイトの変化に応じた最適な制度の変化を調べられるようになったことは、想定以上の収穫であったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
リスク下での動学的社会評価について、現状の優越性原理は、リスク下の意思決定理論分野でよく用いられる再帰性原理と相性がよくないことが知られている。この再帰性原理は現段階と将来段階でより良いリスク判断を整合的に行うことを要請する。制度設計などの応用問題において重要であり、社会評価基準が満たすべき性質だと考えられる。今後は、優越性原理を再帰性原理と両立形に弱め、どのような社会評価関数の形が導出されるのかを検討したい。また、将来の確率が分からない不確実性下においても、公平で合理的な社会厚生評価を行うための基準を考えたい。健康や温暖化問題など、人々の過去の行動がのちのリスクに影響する問題に拡張したり、双曲割引など時間整合的でない選好をもつ人々の選好を集計する方法を考えたい。 動学的な社会保険メカニズムに関しては、将来の資産に関するリスクしか考えていないため、労働所得も考慮したモデルを考えたい。人々の能力に違いがある場合、運と努力の二つの次元で不平等が生まれるため、人々の選択の責任を考慮した再分配制度を構築したい。また、現在の研究では二期間モデルを用いているが、無限期間モデルに拡張し、世代間の再分配問題や公平な社会保障費負担の問題も考えたい。現在考えている社会厚生関数は事後的平等を考慮した一般化ジニ基準であるが、他にも事後の平等を考慮する社会厚生関数として一般化功利主義社会厚生関数などがあり、社会厚生基準によってどのように分配制度が変わるのか、線形や非線形の税制の観点から詳しく検討したい。
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