研究課題/領域番号 |
20K01577
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07020:経済学説および経済思想関連
|
研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
山崎 聡 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 教授 (80323905)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
|
キーワード | 厚生経済学 / 福祉 / 功利主義 / 平等 / 厚生主義 / ケンブリッジ学派 / 福祉国家 / ピグー / 経済倫理 |
研究開始時の研究の概要 |
ピグーの初期の倫理学的文献の考察を端緒とし、その後の膨大な経済学的文献に散りばめられている倫理学的要素を抽出することにより、彼の倫理思想を再構成する。ただし、(ある時期(例えば初期)において、とか、特定の文献において、というような局所的、静学的な分析だけでなく)時間を通じた思想内容の変容および変遷にも注意を払い、ピグーの通時的、総体的な倫理思想を描き出す。それにより「ピグーの経済思想の倫理的基礎は、功利主義なのか非功利主義なのか?どのような根拠からそのように判断されるのか?そしてその変容はあったのか?」という核心的な学術的問いに解答を与える。
|
研究実績の概要 |
ピグーによれば,厚生経済学の目的は,世界または特定の国の経済的厚生を増加させる可能性のある主要な影響を追究することだとはしながらも,国家が,自由,家族のアメニティ,種々の精神的ニーズなど,他の価値を考慮せずに,経済的厚生だけを排他的に追求すべきなどということは端からあり得ない.(功利主義では畢竟)効用という物差しにそぐわないものは考慮外とされるという指弾は,元来のピグーの意図から外れている. そのような「考慮外」云々の批判は,そもそも何故にピグーが厚生全体を経済的厚生と非経済的厚生とに便宜的に分けたのかという点,そして,殊更に両者の調和に配慮したという点に対して十分に踏み込めていないように思われる.彼は,経済領域において,我々の精神生活のどの部分が最も顕著に影響を受けるか,それがまさに経済的厚生であること,しかしながら,それのみを追求することで他の諸価値を毀損することが無いかどうか,殆どの場合は問題ない,と措定したのである.ここから必然的に導かれることは,経済的厚生を仮に排他的に追求するとしても,他の価値を害することは稀であり,むしろ間接的に増進さえすることが期待できるということである.こうした含意を鑑みれば,経済的厚生自体への限定ないしその価値としての狭隘さ云々を論うことは失当といわざるを得ない. 本年度は,昨年度の成果を拡張し,以上のような背景を踏まえ,理論的に福祉国家理念として数えられ洗練され得るピグーのさまざまな要素を探究し,また彼の福祉理論を現代の福祉理論に照らして検討した.ピグーに内在する諸論点として,①欲求充足と必要充足,②厚生増進のためのハイブリッド戦略,③ニューリベラリズムとの親和性,④能力開発を取り上げ,福祉国家の理念としての意義を論じた.次いで,現代福祉論の見地からピグーの厚生概念の再評価を試みた.以上を論文として公刊したことが大きな実績である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本事業のスタートとほぼ同時期にコロナ禍が発生し,少なからぬダメージを過去数年間被ってきた.特に,本事業においては,資料収集が要となるため,それが十分に実施できないことは進捗にかなり影響することは否めない.とはいえ,そうした制約はあるものの,一部,図書館間の相互貸借を活用する等,ダメージの最小化に努めた. 特に本年度においては,これまで本事業で蓄積してきた知見を論文として公刊するという「形」にできたことが大きい. また,年度末位から,一部の大学附属図書館は学外者の利用を認めるようにもなってきており,徐々にではあるが(コロナ禍が無かった際の)本来の事業運営が取り戻せつつあることもプラス要因として作用している.
|
今後の研究の推進方策 |
新型コロナが正式に5類に下げられたことにより,多くの大学施設,附属図書館などの学外者利用が元に戻りつつある.これによって,これまで十分に遂行できなかった資料収集が可能になり,本事業の大きな進捗が期待できる. また,今夏は,数年ぶりに国際功利主義学会の大会(於イタリア,ローマ)が実施される運びとなり,そこで研究報告を行うことも予定されている. ただし,不用意に感染してしまうと,場合によっては,後遺症も含め,研究事業の進行に悪影響が出てしまう懸念があることから,感染対策には十分に気を付けた上で出張および移動を行いたい.
|