研究課題/領域番号 |
20K01583
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07020:経済学説および経済思想関連
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
森岡 真史 立命館大学, 国際関係学部, 教授 (50257812)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | ネップ / カフェンガウス / 私有化 / 資本主義 / 社会主義 / 経済復興 / 工業統計 / リトシェンコ / コルナイ / 売手・買手関係 / 不足 / 購入競争 / 社会主義経済 / ユロフスキー / 農業社会化 / 土地社会化 / 貿易国家独占 / ソヴェト政府 / 利権供与 / ブロンスキー / 商工人民委員部 / 最高国民経済会議 / 私的商業 / 新経済政策 / ソ連経済 / 復興 |
研究開始時の研究の概要 |
十月革命後の資本主義の破壊と社会主義の建設の試みに何らの設計図もなかったように,ネップ開始後の市場と貨幣の再建においても依拠できる指針はなく,そのため,現実の政策の進展は,様々なジグザグを伴っていた。本研究の目的は,この複雑な過程において,市場と貨幣の必要性を確信し,市場と貨幣に強い敵意を抱く共産党の独裁的支配の下でそれらの再建に取り組んだネップ派経済学者の演じた役割に光をあてることである。
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研究実績の概要 |
2023年度はネップ期のソ連の代表的な非党員経済学者の一人であり,工業統計家として多数の統計資料集・経済雑誌の刊行を組織したレフ・ボリソヴィチ・カフェンガウス(1885-1940)の革命期の著作および内戦期に彼が中心的に執筆した私有化綱領について検討し,次の点を明らかにした。第1に,二月革命から十月革命にかけての期間には,カフェンガウスは,民主主義的改革を支持する一方で,ソヴェトの社会主義的指導者に,臨時政府および有産階級との協調を促していた。第2に,1917 年末から1918 年半ばにかけてのソヴェト政府の経済政策(銀行接収,穀物取引からの私的商業の排除,労働者統制と工業国有化)に関するカフェンガウスの批判的考察は,全体としてきわめて先見的である。第3に,1919年夏の復興綱領は,落ち込んだ生産の回復を至上の課題に掲げ,そのためにとるべき政策の基本原則を,私的所有と売買の自由を再建し,私的企業が経済的創意を発揮できる条件を創出することに求めるものであった。第4に,農業については,カフェンガウスは,革命による大土地所有の一掃を地主経営の長期的衰退を反映する不可逆的な変化ととらえたうえで,農業・小工業の発展には,農民による私的土地所有の確立と,共同体的土地所有の段階的解体が必要であると主張した。第5に彼は,農業と工業の均衡的・自生的な発展の観点から,社会主義的工業管理機関の完全な廃止と,私的所有に立脚する自立した工業企業およびその取引の場としての自由市場の復活が不可欠であることを強調した。これらは,十月革命後の経済崩壊の観察を通じてカフェンガウスが,私的所有と自由市場を破壊することの経済的不毛性と,独立した個人や企業が発揮する私的創意の意義の,深い理解に到達していたことを示すものであり,ネップ期における彼の統計家としての活動を検討するうえで,きわめて重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題は,ネップ期のソ連で市場と私的相違を重視する方向での経済政策の推進に大きな役割をはたした非共産党員の経済学者たち,なかでも,農業政策のリトシェンコ,工業政策のカフェンガウス,貨幣政策のユロフスキーの三人の市場およびソ連経済についての認識とその現代的意義を明らかにすることを目的としている。これまで,ソ連経済における市場的・商業的要素に留意しつつ,リトシェンコがネップ期に密かに執筆したロシア-ソビエト農業論およびカフェンガウスが革命期および内戦期に執筆したソビエト経済論について詳細な検討を行ってきた。この検討を通じて,両者が市場と私的所有の機能について透徹した理解を抱いていたことを確認できたことは,ネップ期の経済政策の見直しにつながる大きな成果である。 計画期間の最終年度である2023年度にさらに,ユロフスキーの貨幣論についての研究も並行して進めることを予定していた。しかし,2022年からのロシアのウクライナ侵攻が長期化し,ロシアが申請者の所属機関の規定で研究費による渡航が認められない「渡航中止勧告」対象国となったことにより,ロシアの図書館・文書館で調査が不可能となり,進捗に遅れが生じた。このため,研究期間を1年延長して引き続き本課題に取り組むこととなった次第である。
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今後の研究の推進方策 |
計画のうちで,進行が遅れているのは,ネップ期の貨幣問題の専門化であるレオニード・ユロフスキー(1884-1938)についての研究である.遅れの原因はロシアの図書館・文書館で資料収集が行えないことであった。しかし,幸いにも,最近になって,ロシアでの収集を予定していた文献の一部は図書館によって,外部からもアクセスできるデジタル資料としての公開が始まった。このため,ユロフスキーが内戦期に執筆した価格についてのモノグラフなど,ユロフスキーの思想を理解するうえで鍵となるいくつかの著作を読めるようになり,2024年度を通じてロシアでの調査が望めない場合にも,ユロフスキーについて研究を行うことが可能になった。そこで,2024年度には,すでに収集していた文献と,新たに利用可能となった彼の著作・論文をもとに,資本主義経済および市場を組み込んだ計画経済としてのネップ期のソビエト経済における貨幣の機能についてのユロフスキーの理論について検討を行い,論文にまとめる。
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