研究課題/領域番号 |
20K01660
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07040:経済政策関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
田邉 勝巳 慶應義塾大学, 商学部(三田), 教授 (90438995)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 貨物自動車 / 燃費 / 対距離課税 / 外部費用 / 貨物車 / 走行税 / 外部不経済 / 自動車関係諸税 |
研究開始時の研究の概要 |
昨今の技術革新により、自動車の燃費は改善され、ガソリンや軽油を燃料に用いない自動車が普及しつつある。これは、燃料税収の低下を意味する。道路財源不足は日本のみならず、世界各国で共通の問題である。一方、欧州では貨物車に対する走行税の導入が進展している。加えて、日本の交通社会資本の多くは高度成長期に整備され、インフラの老朽化と今後の更新費用の確保が重要な政策課題である。貨物車は騒音や環境だけでなく、道路・橋梁の維持運営費に与える影響が普通車より大きいが、現在の税体系では十分に反映されていない。本研究は、望ましい貨物車の取得・保有・走行段階の税負担割合や、走行税の移行が与える様々な影響を分析する。
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研究実績の概要 |
本研究は、貨物自動車に対する走行距離に応じた課税(以下、対距離課税)の導入を含む社会的に望ましい税水準、税体系を検証するものである。 国土交通省の自動車燃料消費量調査によれば、貨物自動車の多くは軽油を燃料としている。軽油引取税は走行段階における税であり、走行燃費が一定であれば、利用量(走行距離)に応じた課税が行われていると言える。一方、欧州においては、貨物自動車に対する対距離課税が既に導入されている。 こうした背景を踏まえ、本研究の目的は貨物自動車を中心に、自動車関係諸税の社会的に望ましい税体系、特に燃料税を代替する対距離課税の導入を検証することである。その前段階として、軽油の需要関数を推定し、税収中立的な対距離課税を導入した場合の需要量や税収、二酸化炭素の排出量の変化を求めた。 本年度の主な研究実績は以下のとおりである。第一に、引き続き既存研究のサーベイを広範に行った。具体的には、貨物自動車、軽油の需要関数に関する実証分析、自動車のリバウンド効果や燃費に関する実証分析、自動車における最適課税に関する研究、自動車の外部費用に関する研究などである。これらに加え、政策として実際に導入されている諸外国の対距離課金導入の動向を確認した。第二に、軽油需要関数の推定に関して最新のデータに更新し、モデルや説明変数を再検討した。また、データを年度だけでなく、四半期・月次データに細分化するモデルで同様の分析を試み、その問題点を検証した。また、最も重要な説明変数の1つである軽油価格に関連して、軽油販売の流通経路から、分析に用いる軽油価格の妥当性を検討した。第三に、軽油車の保有率に関する簡便な実証分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は日本の貨物自動車に対する税体系が適切か、特に欧州で導入が進む対距離課税への導入を考慮した社会的に望ましい税体系を議論するものである。現時点における進捗状況は以下のように整理できる。 第一に、既存研究のサーベイに関して、日本における貨物自動車に関連する市場、産業の現状、軽油の流通経路の現状などを整理した。加えて、貨物自動車、並びに貨物自動車の消費燃料である軽油、並びに関連する研究としてガソリンの需要に関する実証研究、自動車における最適な課税に関する研究を広範にサーベイし、議論を整理した。 第二に、年度別の都道府県パネルデータを構築し、貨物自動車の主たる燃料である軽油の需要関数を推定した。この推定結果を利用して、ある一時点における燃料税収が同じになる税収中立的な対距離課税を導入した場合のシミュレーション分析を行った。本分析は社会的に望ましい税体系の議論と直接的には関係しないが、外部費用に応じた走行距離税の導入は社会的受容性が低いことが予想されるため、現実的な政策として実施される可能性は少なくないと思われる。 分析の結果、軽油車はガソリン車に比べて走行燃費の改善の程度は低いため、この対距離課税への変更が税収に与える影響は大きくはない。なお、揮発油税と合わせた税収中立的な対距離課税を導入する場合、軽油車は値下げとなる。これらの試算は強い仮定に基づく点に留意が必要である。また、都道府県別のパネルデータでは貨物自動車の異質性を十分に反映できていない点も注意が必要である。 需要関数の推定において、利用可能な公表データに国土交通省の自動車燃料消費量調査があり、パネルデータを構築できるが、本データを用いた同様の需要分析は良好な結果を得ていない。また、その他利用可能なデータが分析に適用できるかの検討も行っている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は燃料税から対距離課税への移行を念頭に置いた、社会的に望ましい自動車関係諸税について、貨物自動車を中心に検証している。現在までの研究の進捗状況を踏まえ、今後の研究の推進方策を整理すると、以下のようになる。 第一に貨物自動車の利用段階における需要関数を改善し、頑健性を検証する。これに関連して、貨物自動車の保有に関する分析を進める。燃料税から走行距離税に移行した場合の保有動向への影響を分析できるモデルを検討する。これを踏まえて税収中立的な対距離課税の導入シミュレーション分析を行う。軽油引取税のみを考慮する場合、揮発油税を含める場合、保有税などの他の自動車関係諸税を含める場合の対距離課税を導入するシミュレーション分析を行う。 第二に、貨物自動車を中心とした外部費用の分析を行う。自動車における外部費用には道路混雑、事故、騒音、大気汚染、地球温暖化など様々な要素が指摘されている。これらに加えて大型貨物車は道路の維持補修費に与える影響も大きいと考えられる。先行研究の原単位や測定方法を整理し、これらを適切に金銭評価することが重要である。これらのデータは貨物自動車の社会的に最適な税体系だけでなく、税収中立的な対距離課税のシミュレーション分析でも重要な知見を与えると推察される。
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