研究課題/領域番号 |
20K01798
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07070:経済史関連
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
須藤 功 明治大学, 政治経済学部, 専任教授 (90179284)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 大きすぎて潰せない(TBTF)政策 / 最後の貸し手(LLR) / アメリカ金融政策 / ペン・セントラル鉄道 / 州際通商委員会(ICC) / 連邦準備制度理事会(FRB) / システミック・リスク / 途上国累積債務問題 / 大きすぎて潰せない(TBTF)政策 / 大きすぎて潰せない(TBTF) / コンチネンタル・イリノイ銀行 / 連邦預金保険公社(FDIC) / 財務省・通貨監督官 / 連邦準備制度(FRB) |
研究開始時の研究の概要 |
2008年金融危機に直面してアメリカ金融政策当局はシステミック・リスクと認識し、大手金融機関の救済に迅速に舵を切った。それはいわゆる「大きすぎて潰せない」(TBTF)政策によるもので、その事後処理戦略については、1930年代の大恐慌と比較して一定の評価がなされている。このTBTF政策は、シカゴを拠点とする大手銀行のコンチネンタル・イリノイ銀行が1984年に経営破綻危機に直面した際、連邦預金保険公社が連邦準備制度や財務省と協調して救済したことに始まる。本研究は、金融機関の経営破綻と政策当局による救済過程の歴史的検証を手掛かりに、TBTF政策が登場し定着する社会経済的背景の解明を目指している。
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研究実績の概要 |
本研究は、アメリカ金融当局が金融恐慌に直面した際に、システミック・リスク回避を目的とする「大きすぎて潰せない(TBTF)」原理が、いつどのように形成されたのかを究明することを課題とする。その際、アメリカ巨大銀行のグローバル展開と経営危機を歴史的に跡付け、途上国累積債務問題がTBTF政策を条件付けた点とともに明らかにしようとするものである。具体的には、以下の2つの論点を提示して検証する点に特色がある。 第1は、TBTF政策の起点となったマネー・センター銀行の経営戦略を、途上国融資とユーロ・マネー取り込みに注目して跡付けることである。第2は、TBTF政策を導入するにあたっての金融政策当局の対応を、それぞれの役割に着目して検証することである。TBTF政策の策定・実施にあたり、連邦預金保険公社(FDIC)とは異なり、連邦準備制度理事会(FRB)は途上国の累積債務問題に神経を尖らせていたが、一方で財務省や連邦議会は大統領選挙を目前に控えて、同時期のクライスラー社などの救済と比較されることを怖れていた。本研究は、こうした状況下において途上国累積債務問題がTBTF政策の形成に及ぼした影響を資料に基づき検証するものである。 本年度も、新型コロナウイルスのパンデミックが継続したことで海外資料調査を本格化するには至らなかった。そこで、従来、TBTF政策の出発点として金融自由化による巨大銀行の経営破綻に焦点が当てられてきたが、それに先行した事件である、全米最大の鉄道会社で全米第11位の巨大企業のペン・セントラル鉄道の経営破綻(1970年6月)とその連邦政府による救済計画の立案とその破綻に着目し、1984年のコンチネンタル・イリノイ銀行救済と比較・検証する作業を行なった。公共性で共通するにもかかわらず、銀行と鉄道でTBTF政策の対象の違いを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究は、アメリカ金融当局が金融恐慌に直面した際に、システミック・リスク回避を目的とする「大きすぎて潰せない(TBTF)」政策の形成過程を究明することに主眼を置いている。この目的を遂行するため、連邦議会下院銀行委員会スタッフ、その他が収集したコンチネンタル・イリノイ銀行などの経営資料を入手するべく、主にアメリカ国立公文書館(NARA)および連邦議会図書館で撮影・収集する計画を立てていた。しかし,昨年度に続いて本年度も新型コロナウイルスのパンデミックの継続により、ようやく年度末にNARAでの資料調査・収集を始めた。 そこで本年度も、巨大金融機関に対するTBTF政策の14年ほど先行した、アメリカ最大の鉄道会社で、全米第11位の企業規模を誇ったペン・セントラル鉄道の経営破綻と連邦政府による救済計画の破綻を分析し、金融機関のTBTF政策と比較する研究に大半の時間を費やした。その成果は、アメリカ経済史学会発行の学会誌に論文「州際通商委員会の鉄道規制とその変遷(1887-1970年)―ペン・セントラル鉄道救済計画の破綻によせて―」、『アメリカ経済史研究』(第21号、1-24ページ、2022年12月、査読あり)として掲載した。 本論文では、州際通商委員会(ICC)による運輸産業の規制政策の歴史的展開の中でペン・セントラル鉄道救済計画の破綻を再考した。ICCは、トラックなど新たな輸送手段との競争に直面した鉄道会社のコングロマリット統合を容認しつつ、一方で全国の鉄道網を地域鉄道システムに統合すること(国家運輸政策)に活路を見いだそうとしていた。ペン・セントラル鉄道救済計画の破綻をICC規制政策の歴史的展開から照射することで、TBTF政策は「幻想」と化していたとの結論に至る。また、救済計画破綻によるコマーシャル・ペーパー市場への影響を除けば、金融市場への打撃が限定的であった。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度末から欧米各国でコロナ感染対策の規制緩和が進み、厳しい出入国管理も緩和されつつあった。このため、ようやく昨年度末にアメリカ国立公文書館(NARA)での資料調査・収集活動を開始することができた。この調査では、財務省国際問題担当副次官補文書の新たに公開された1986-89年部分に、途上国を中心とする対外債務リスケジュール関係の資料が大量に含まれていることがわかった。しかし、この調査では一部の資料を収集するにとどまった。 そこで、新型コロナウイルスのパンデミックにより中断していた、アメリカのNARAおよび大学図書館における歴史資料の調査・収集を本格的に実施する。本年夏季及び年度末の休業期間を利用して、連邦議会下院銀行委員会スタッフ、その他が収集したコンチネンタル・イリノイ銀行などの経営資料を、NARAで撮影・収集する。また、ニューヨーク連邦準備銀行総裁(1975-1979年)、FRB議長(1979-1987年)の要職にあったPaul A. Volcker Papersの一部はセントルイス連邦準備銀行のウェブサイトで公開されているが、本研究にとって最も重要と思われる文書類の多くが同サイトでは非公開であることから、現地プリンストン大学図書館での調査・収集を計画している。 なお、本年夏までに、アメリカ経済史学会第64回全国大会・自由論題報告(「ペン・セントラル鉄道の経営破綻と救済計画の破綻(1970年)――Too-Big-to-Fail問題に関連して」2021年9月)、日本金融学会歴史部会(「ペン・セントラル鉄道の救済計画と連邦準備制度――Too-Big-to-Fail問題に関連して」2021年10月)で発表した内容を論文として執筆し、学会誌等に投稿する。
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