研究課題/領域番号 |
20K01832
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07080:経営学関連
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
幸田 浩文 東洋大学, 現代社会総合研究所, 客員研究員 (60178217)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 日本四大売薬 / 日本五大売薬 / 富山売薬 / 近江日野売薬 / 大和売薬 / 田代売薬 / 伊佐売薬 / 備中売薬 / ファミリービジネス / 経営学 / スモールビジネス / 長寿企業 / 配置薬産業 / 医薬品産業 |
研究開始時の研究の概要 |
製薬・売薬業の史的展開を題材とする研究の多くは、古文書や史料を中心とした経営史や社会経済史からのアプロ-チによる文献研究であり、中にはその発祥の起源が伝説や神話、言い伝えなどの依拠する歴史読み物であることもままみられた。とくに当該地域つまり単一地域のみの社会経済史的な研究成果に留まっている場合がほとんどである。そこで、富山・大和・近江日野・田代売薬といったいわゆる「日本四大売薬」に加えて、山口県伊佐・岡山県備中、新潟県巻の売薬業全体を比較研究するとともに、スモ-ルビジネスとくにファミリ-ビジネス研究的視点でどのように整理できるかを試みる。
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研究実績の概要 |
これまで江戸・明治期を中心に、富山売薬独自の支援・保護・統制組織の役割と機能、ならびに行商人の売薬営業の実態について、2つの視点から考察してきた。①富山売薬の成立起源である江戸中期から幕末期までの行商圏構築を廻る、他の売薬地域との競合関係についての史的考察と、②富山売薬業界が明治政府の売薬規制政策に取ったさまざまな対 抗策とその経営組織形態に関する比較研究である。 本年度研究では、①明治期の売薬規制法制とそれに対する富山売薬業界の対応、②富山売薬業者が売薬税を緩和・回避するために組織した「富山広貫堂」創設の経緯、③結社禁止を契機に誕生した堂号組織「広貫堂」の組織形態、④新生広貫堂の成長・発展の過程、⑤無効無害主義から有効無害主義への転換期に誕生した「株式会社広貫堂」の組織形態について、広貫堂の創設から大正期に至る史的展開と同時期の富山売薬の進展過程解明を目的とした。 富山売薬は、江戸中期に創薬・創業し、明治維新を迎えるまで圧倒的な組織力と営業力を誇り、他を寄せ付けず成長・発展を続けてきた。だが明治維新により幕藩体制は崩壊、続く廃藩置県により富山売薬を取り巻く環境は一変してしまった。文明開化の影響を受けて西洋医学・薬学が入ってくると、明治政府は売薬容認から一転して洋薬重視を表明し、売薬の規制さらに排除へと法制を転換した。 富山売薬業界は各売薬業者の存続をかけて匿名・協同・産業・機械利用・購買といった様々な性格をもつ組合・結社を組織し、重税政策からの緩和・回避に努めた。その象徴的存在が広貫堂であった。独立自営の売薬業者が結合し、結社・堂号組織・株式会社と組織形態を時勢に適合させ、厳しい時の政府の薬事法制に柔軟に対応し維持・成長させてきた。本年度研究により、こうした厳しい環境の変化に進取の精神をもって解決策を模索しようとする富山売薬業界の姿勢を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
先行研究においてこれまで日本四人売薬地域を中心に、売薬商人の行商圏構築の史的腿開と売薬商人間の競合関係を中心に考察を行ってきた。研究初年度(2020)には、江戸時代中期に備中国(現在の岡山県)で興り、かつて「日本五大売薬」の1つに挙げられる時代もあった[備中売薬]を取り上げ考察した。 本研究では、第1に備中売薬がいつ、どこで、誰によって創薬・創業され、どのような販売方法で営業されるようになったのかを明らかにした。第2に備中国の名物売薬とされている振薬・熊胆丸・万輪丸・道三丸・紫金錠、そして犀角湯・たこ薬・傘の下の山来や成分・効能などについて整理した。第3に備中売薬の展開を元禄(1688)から寛政(1801)までと、文化(1804)から幕末(1868)までに大別し概説・考察した。第4に配置売薬の元祖・富山売薬の元祖と吁ばれる11代万代常閑と富山売薬の関係についての言説・伝説を繙き、その真相を明らかにした。 研究2年度(2021)には、備中売薬の明治維新から現在までの史的展開をそれまでの四大売薬の史的展開と比較することで「日本五大売薬小史」という形で整理することができた。具体的には、五大売薬地域の動向や特徴などを象徴する時代名称を付して区分し、それに沿って日本四大売薬と備中売薬の史的展開を比較対照しながら、改めて「日本五大売薬」の小史として整理することができた。 研究3年度(2022)は、前年度同様にコロナウイルス感染症の拡散により研究対象となった売薬地域への出張が予定通りに進まずやや遅れた。したがって、現地調査がままならず文献資料・史料などに大きく依存することになった。とはいえ、富山売薬業界を代表する「株式会社広貫堂」の組織形態について、同社に関する社史・資料を用いて広貫堂の創設から大正期に至る史的展開と同時期の富山売薬の進展過程を解明することができた。
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今後の研究の推進方策 |
第1に、明治期から現代にかけて富山売薬業界の象徴的存在である広貫堂は、独立自営の売薬業者(行商人)が結合し、結社・堂号組織・株式会社と組織形態を時勢に適合させ、厳しい時の政府の薬事法制に柔軟に対応し維持・成長させてきた。2022年度研究では明治期から大正期にかけて厳しい環境の変化に進取の精神をもって解決策を模索する姿を明らかにしたが、2023年度研究では大正期から現代にかけての広貫堂の成長過程を解明する。そうすることで、現在の富山県を代表する地場産業としての医薬品産業にも見出すことができよう。 第2に、明治期に売薬(配置家庭薬)業としての生き残りの道を選択した現在の配置家庭薬企業の事業承継・後継者育成問題を研究調査する。具体的には、①江戸期より現在まで続く配置家庭薬企業を考察することで、いわゆる長寿(百年)企業としての生き残りの要件を浮かび上がらせること、ならびに②末裔の代表的売薬(配置家庭薬)企業と方向転換した代表的製薬企業の経営学的視点から比較考察する。 第3に、①日本四大売薬地域から興った製薬・売薬業を今日まで企業として維持一成長させてきた原動力の解明、②末裔の製薬・売薬業として現在多くの製薬企業が所在する富山県、奈良県、佐賀県の代表的製薬企業の経営理念ならびにその流通システムに関する各社・各地域についての比較研究、③いわゆる長寿(百年)企業としての生き残ったスモールビジネスとしての売薬(配置家庭薬)企業の事業承継・後継者育成問題を中心に研究を進展させる予定である。
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