研究課題/領域番号 |
20K01960
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07090:商学関連
|
研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
平林 紀子 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 名誉教授 (30222251)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
|
キーワード | 大統領 / アメリカ政治 / 選挙 / ドナルド・トランプ / マーケティング / 広報 / メディア / 政治 / 米国 |
研究開始時の研究の概要 |
資源と技法、戦略的重要性において「政治マーケティング」を先導する米国大統領政治の最新事例として、2016年大統領選挙から2020年再選選挙までのDonald Trump第一期政権の特性を、マーケティングの視点と分析枠組みを用いて分析する。選挙と統治におけるマーケティングの戦略的統合機能、ブランディングの観点から見た政権や政策、関係構築の特性、デジタルマーケティング時代の有権者やステークホルダーとの関係構築のための戦略広報の三点に焦点をおき、90年代以降の米国大統領政治とマーケティングがいかに呼応しあうか、また経営戦略技術が公共の政治に及ぼす影響を、現「経営者大統領」の事例で検証する。
|
研究実績の概要 |
第1の焦点「Trumpの選挙と統治におけるマーケティングの戦略的中心性」については、Trump自身のマーケティング指向を忠実に反映する政治運営の装置を検証。注目点は、①政策コンセプトと議題における基盤支持層いわゆるMAGA層重視の一貫性、②議員選挙候補選定や党要職人事への影響力行使を通じた共和党トランプ党化の徹底(立法府支配)。 第2の焦点「選挙と統治におけるブランディングの特性と成否」については、Trumpの政権(政策・業績)ブランドとパーソナルブランドに分け、2024年大統領選挙に向けた変化要因を分析。①支持層属性は、Trump政策人柄に忠誠的な層(Maga共和党員)の確実な保持に加え、20年選挙では離反した無党派や中道層の一部を「指導力」で呼び戻しつつある。②Cosgroveの「ブランドヒエラルキー」に従い政策ブランドの変化をみると、下位productと中位platformの階梯における一貫性は変わらないが、上位価値house階梯では、2024年共和党予備選を通じて「レーガン保守」と訣別し、Deep State 思想(反エリート主義・移民排斥)の極右的価値を中心にポピュリズムと排外主義を特徴とする独自の「MAGA保守」ブランドの構築、あわせて共和党ブランドの再定義に成功。③パーソナルブランドは「差別化」および「顧客が強い関係性」を体験し続けることで安定している。刑事民事の法的訴訟は、現時点までは支持者の対Trump関係尺度としての「感情温度」に大きく影響しないものの、投票行動では共和党支持者内の約2割、無党派と中道の離反を招く可能性がある。 第3の焦点「選挙と統治における関係構築手段としての戦略広報」については、法的案件も含めて圧倒的なメディア露出を通じた存在感の誇示に加え、ポストSNS、AIの本格導入を見据えた保守派デジタル広報網の高度化を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第1の理由は、新型コロナウィルス蔓延の長期化という当初予期しなかった事態によって、選挙運動のあり方や政策優先順位など、研究課題内容と直接関わる政治環境が一変したことで、調査分析項目およびその優先順位を再検討する必要があった。 第2の理由は、コロナ禍で数年度にわたり海外渡航が不可能になり、学会・研究会・実務研修・現地の研究者レビューや現地関係者の聴き取り調査など、研究進展に可欠な米国現地での情報収集の機会が大幅に減少または遅延になった影響が長引いている。 第3の理由は、現職大統領が選挙に負け政権一期で終わる可能性は想定内であったが、Trumpおよび共和党が選挙結果を受け入れず「選挙の不正」を主張し、Biden政権発足3年経過の今でも、共和党支持者の七割が政権の正当性に疑念をもつ異常事態は予見しえなかった。選挙と政権の分析枠組みは、正常な政権移行を前提として両者を比較するからである。また選挙と政権のマーケティングを比較する分析視点は、大統領の交代によって修正を余儀なくされる。当初計画ではTrumpのみに焦点を絞って、2020年までの第一期政権と2020年選挙、さらに2022年議会選挙を経て2024年大統領選挙の再出馬を射程に入れた今後の選挙戦を分析する予定であったが、その後計画を修正し、Trumpに重心を置きつつも、TrumpとBidenの双方について各々の第一期政権の比較、さらに2022年中間選挙後の議会党派構成の変化をふまえ、Biden民主党とTrump共和党の政党内外の力学の変化を射程に入れ、政党ブランド構築を含めた重層的分析に重点を移した。2024大統領選挙は実質的にTrump対Bidenの再対戦になるが、2020年と異なり「前職対現職」という異例の条件になるため、対有権者だけでなくステークホルダーの多い複雑な展開を考慮に入れて分析中である。
|
今後の研究の推進方策 |
前述の「現在までの進捗状況」に記述した3点の状況変化(研究がやや遅滞する理由)に伴い、当初の研究計画を一部修正する。 「新型コロナウィルス蔓延の長期化による政治環境の変化」については、何がどのように変化したかという分析を加えて、研究課題の優先順位を修正する。 また「コロナ禍の中での研究展開の制約」については、オンラインによる情報収集にシフトせざるを得ないことから、膨大なオンライン情報を組織的に収集し、効率的に分析するための有料の専門情報源サービスの活用とともに、2024年度での渡航再開および当初計画における滞米研修・調査期間の延長と、現地での効率的情報収集を助けるコーディネーターの時限つき雇用を検討中である。 第3の理由に関連し、研究観察対象を増やす必要があるため、現地での取材・面談の回数および期間の増加延長が見込まれる。
|