研究課題/領域番号 |
20K02073
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
新原 道信 中央大学, 文学部, 教授 (10228132)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2020年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 「壁」の増殖 / 共存・共在の智 / 社会的マイノリティ / 探究型フィールドワーク / 臨場・臨床的 / 全景把握的 / 社会文化的な島々 / 国境島嶼 / 探求型フィールドワーク |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、“異物への過剰な拒否反応”である“「壁」の増殖”を、現代社会の焦眉の問題として捉え、この潮流に対するオルタナティヴとしての“共存・共在の智”を、“探求型のフィールドワーク”によって明らかにする。具体的には、研究期間内に、ブラジル北東部などでの調査を遂行し、ヨーロッパにおける“「壁」の増殖”の焦点となっているメリリャとセウタ、ランペドゥーザ等での調査からの知見と比較し、今日の「異端・異物を排除・根絶する力」を縮減するような〈“共存・共在の智”の存立基盤はいかなるものか、どのように伝達可能となるか〉という「問い」に応える。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、“異物への過剰な拒否反応”として世界各地で生起する“「壁」の増殖”の現況を把握し、この状況に対峙する〈“共存・共在の智”の存立基盤はいかなるものか、どのように伝達可能となるか〉を明らかにすることにある。「可視的局面」としての“「壁」の増殖”の現況把握および「潜在的局面」としての“共存・共在の智”の探求を可能とするため、“探求型フィールドワーク(Exploratory Field Work)”によるブラジル他での調査研究を遂行することを計画していた。 探求型フィールドワークは、18カ国、28地域での共同調査のなかで構築してきた調査研究の在り方(ways of being)であり、臨場・臨床的(clinical)かつ全景把握的(visionary)という対位的な特徴を持つ。臨場・臨床的の条件としては、「潜在的局面」の把握を可能とする調査地の言語・文化への深い理解が必要となる。全景把握的の条件としてはフィールドワークから個々の知見を位置づける社会理論が必要となる。 今年度は、いまだのこる「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」の影響を加味して、1)調査地の事前調査による“「壁」の増殖”の現況への理解と歴史・構造の把握、2)これまでの調査地であるアゾレス、カーボベルデ、メリリャとセウタ、ランペドゥーザ等における“「壁」の増殖”と“共存・共在の智”が対峙する状況についての理解のとりまとめ、3)オンラインで海外共同研究者とのカンファレンスを実施した。 加えて、本調査研究の基盤となっている日本・イタリア・ブラジルにおける地域密着型調査研究の深化を試み、具体的には、立川・砂川地区とサッサリ市サンタ・マリア・ディ・ピサ地区において、都市の内なる“社会文化的な島々”として捉えた相似形の地域密着型研究を推進した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「やや遅れている」と自己評価したが、その理由は、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」の影響の残存により、イタリアおよびブラジルでの現地調査を断念せざるを得なかったことによる。 しかしながら、下記の1)~3)については順調な進捗状況であった。 1)ブラジルにおける先住民・ヨーロッパ人・アフリカ人という三つの系譜の“衝突・混交・混成・重合の歩み(percorso composito)”、そこでの“共存・共在の智”の形成、アマゾンの開発による地域の解体・分断、ブラジル内および外部からの影響による“「壁」の増殖”の現況への理解のとりまとめ。2)これまでの調査地であるイストリア、フリウリ・ヴェネツィア・ジュリア、アルプス山間地、アゾレス、カーボベルデ、メリリャとセウタ、ランペドゥーザ等における“「壁」の増殖”と“共存・共在の智”が対峙する状況についての理解のとりまとめ。3)歴史・構造の把握と過去のフィールドワークの理解を組み合わせ、イタリア側と日本側で検討する(オンライン会議での研究報告と意見交換を実現した)。 本調査研究の主要なフィールドであるイタリアとブラジルでは、「新型コロナウイルス感染症」の影響が残存している。今後、海外でのフィールドワークをどのようなかたちで実現させるか、あるいは代替する調査研究をどのように行うかについての検討を行った。その結果、イタリアへのブラジル側研究チームの来訪を実現させ、この時期のイタリア来訪はかなわなかったが、WhatsAppやZoomなとのアプリケーションを駆使して、研究交流と意見交換を行い、オンラインでのやりとりによっても一定の理解を達成することは可能であることもわかった。それぞれで地域密着型調査研究を深化させることにより、“「壁」の増殖”と“共存・共在の智”の萌芽を探求するかたちで調査研究を組み直した。
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今後の研究の推進方策 |
過去の感染症拡大の歴史から学ぶなら、さらに発生したウクライナの状況を顧慮するなら、従来通りの海外でのフィールドワークの困難さがある、その一方で難民問題はさらに緊急性が予想される。本研究期間の収穫として、オンラインでのweb会議等を活用したコミュニケーションについては、急速に進化し、各地の時差を考慮しつつ、定期的に連絡をとりあうことが可能となった。その結果、海外の"フィールドに出られないときのフィールドワーク”を方法論的に錬磨させることで意見が一致した。 日本・イタリア・ブラジルそれぞれのフィールドで、“コミュニティを基盤とする参与的行為調査(Community-Based Participatory Action Research(CBPAR))”をすすめることで対応する。各々のフィールドにおいては、コロナウイルス感染拡大のもとでの、社会的マイノリティ(移民・難民、障がい者、老人・女性・LGBT・子どもたち等)への抑圧移譲・拒絶反応をめぐる現況把握と、そこでの“共存・共在の智”を探求することを追求し、それぞれの知見はオンライン会議等で交換していく。。 そもそも本調査研究は、国際共同研究――「社会文化的な島嶼」における地域密着型研究:国際的CBPRネットワークの構築(Community-Based Participatory Research in "Socio-Cultural Islands":Co-creation of International CBPR Network)の基礎研究である。日本・イタリアからブラジルへという海外調査の実現は難しくなったが、当初の調査計画の根幹である、各々のフィールドにおける〈調査研究/教育/大学と地域の協業〉を推進し、海外での十全なフィールドワークが可能となる時期に備えることは、十分な意義をもつ調査研究であると考える。
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