研究課題/領域番号 |
20K02075
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
佐藤 恵 法政大学, キャリアデザイン学部, 教授 (90365057)
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研究分担者 |
水津 嘉克 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (40313283)
伊藤 智樹 富山大学, 学術研究部人文科学系, 教授 (80312924)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 支援 / 自己 / 物語 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、福祉・医療に関するいくつかのトピックを設定し、支援が行われている現場に対して、主に質的調査を用いながら自己物語論的分析を行う。 フィールドとトピックは、病いや障害、犯罪、家族など、自己の再構成に直面する人間の経験に関わるものである。 それらの事例の分析を通して、自己物語形成の有効性、発生条件、および限界をより精密に検討すると同時に、物語の聞き手としてピア(仲間)や専門職、あるいはそのようなカテゴリーには含まれないが彼らの日々の生活と密接に関わる人々(地域住民、ボランティア 等)の特徴に関する分析を進める。
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研究実績の概要 |
本研究は、支援現場に関する新しい社会の変化をとらえながら、それに対して社会学がいかなる貢献ができるかを問う。福祉・医療に関するいくつかのトピックを設定し、支援が行われている現場に対して、主に質的調査を用いながら自己物語論的分析を行う。 理論的には、自己物語論を中心として、医療社会学や犯罪社会学、障害学、家族社会学などとの接合を図る。自己物語論を中心に据える理由は、これらの支援が行われるのは、しばしば人間が自己の形成に困難を覚えるような経験に関わっており、そうした困難に対する人々の反応としての語り、および、聞き手としての支援者(ピア=仲間、専門職、一般市民等)との相互作用を射程に収められる点で、最も適した理論枠組みと考えられるからである。 フィールドとトピックは、病いや障害、犯罪、家族など、自己の再構成に直面する人間の経験に関わるものである。それらの事例の分析を通して、自己物語形成の有効性、発生条件、および限界をより精密に検討すると同時に、物語の聞き手としてピア(仲間)や専門職、あるいはそのようなカテゴリーには含まれないが彼らの日々の生活と密接に関わる人々(地域住民、ボランティア等)の特徴に関する分析を進める。 本年度は、研究協力者たちとの研究会において、各自の研究テーマに関する報告と意見交換をさらに進め、成果発表の準備を整えた。具体的には、難病(全身性強皮症)セルフヘルプ・グループにおける当事者の支え合いに関する事例調査、精神障害ピア・サポーターとして活動している人のインタヴュー調査、犯罪・非行経験者の更生保護施設におけるスタッフのインタヴュー調査、市民成年後見人の活動に関する資料分析およびインタヴュー調査について、データの分析と検討を行った結果、発見的な論点・主張について見定めつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はこれまで、福祉・医療の領域におけるいくつかの支援現場に接近しながら、自己物語論の射程をより明確にしていく作業を進めてきている。 自己物語論は、語り手が自分自身の自己イメージを作っていく作業、なおかつそれを「物語」(出来事の時間的連鎖)として言語化していく過程(もしくは、言語化がとん挫する過程)に照準する。何らかの支援が行われる際、被支援者がどのような自己イメージをもつのかという点は、決定的に重要である。たとえば難病患者の場合、当事者が「医療的手段とともに長く生きる私」という自己イメージをどの程度もてるのかが、その人が支援と結びつく度合い(制度的サービスの利用の仕方と積極性)に直接関係する。 自己イメージは支援の場において非常に重要だが、それは実際にはしばしば曖昧で流動的である。しかるに、そうした繊細な部分にアプローチしようとしたとき、従来の社会学は、特定の意思をもつ「主体」としての個人を理論上の前提項もしくは所与としておく傾向、あるいは逆に特定の状況や場面の分析のみに終始して、行為としての帰結、あるいは社会的文脈との関連に頓着しない傾向をもっていた。これに対して、「物語」概念は、特定の意思が固まる以前の位相(意思がゆらぐ位相も含む)を、個人とその他者との間でやりとりされる言葉の水準でとらえて分析するとともに、流通する同型の物語や専門家などによる影響も視野に入れた分析を可能にする。 そうした視点に基づき、本年度は、支援実践に関するデータ分析に加えて、理論的に整備が必要と思われる「共同体の物語」概念(ジュリアン・ラパポート)について、国内外の先行研究をレヴューし、整理と検討を行い、順調な進捗をみた。 本研究は引き続き、「自己」と「物語」という社会学の基礎的な概念を結びつけながら、その分析力と適用範囲を明確にしていく。
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今後の研究の推進方策 |
本研究においては、自己物語論の彫琢と前進をはかるにあたって、机上の理論ではなく、実際の支援現場をフィールドとする研究によって行うことを中心的な推進方策とする。既存の理論枠組みを現代的な諸現象に適用しようとするのではなく、フィールドでの出来事、あるいは人々の言葉から浮かび上がる問いを導出し、理論を彫琢しながら、これに応えるのが本研究のスタンスである。 具体的には、本研究が明らかにしようとする点は、次の二点である。第一に、支援において自己物語形成の有効性や、発生条件、および限界を考えていくために役立つ事例を示し、それがどのような意味において有効、あるいは限界があるのかを明らかにすることである。自己物語論は「自己物語を語ることを称揚する」と誤解されがちであるが、実際には、自己物語論の最大の魅力と意義は、ある自己物語が成立したりしなかったりするプロセス、成立/不成立の境界部分を把握するところにある。そのような把握の作業をさらに進展させていく。 本研究が明らかにする第二の点は、自己物語形成に関与する聴き手としての他者を事例に応じて特徴づけることである。これまでの研究の進捗状況においては、ピア・サポート、セルフヘルプ・グループの重要性が明らかになってきているが、本研究では、医師や看護師、ソーシャル・ワーカー、あるいはケアワーカーなど、さらには一般市民にも射程を広げながら、それぞれの聴き手としての特性を浮かび上がらせる。 以上の具体的なねらいをよりよく達成するには、異なる領域や事例を横断した比較が有効と考えられる。フィールドワーク、インタヴューの他、事例によってはドキュメント資料収集も組み合わせながらデータを収集し、それらを比較分析していく。 その上で、本年度は各研究協力者たちとの打合せを重ねて、最終的な成果である図書出版の内容を詰める予定である。
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