研究課題/領域番号 |
20K02091
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
|
研究機関 | 島根県立大学 (2022) 流通経済大学 (2020-2021) |
研究代表者 |
恩田 守雄 島根県立大学, 地域政策学部, 客員研究員 (00254897)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
|
キーワード | 相互扶助 / 再分配的行為 / 小口金融 / 互助慣行の移出入 / 互助慣行 / 互助ネットワーク / 自生的社会秩序 / 社会的移出入 / 島嶼共同体 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は以下の三点を行う研究である。かつて日本と戦前戦中関係があった南洋群島(北マリアナ、ミクロネシア他)を中心に関連する東・東南アジア地域の互助行為を国際比較し、その共通点と相違点から各国の互助ネットワークの特徴を明らかにする。また個々の国や地域の互助制度の普遍性と固有性の構造を解明し、日本及び他の地域(特に戦前戦中日本が関与した地域)からそれらが相互に移出あるいは移入したという「社会的移出入」(制度の相互浸透)の仮説を検証する。さらに島嶼地域の「互助社会」の通底にある共通する構造原理を抽出し、互助ネットワークに基づく「島嶼共同体」の可能性を社会学的政策提言として検討する。
|
研究実績の概要 |
2022年中は依然として新型コロナの影響により、海外調査ができない状態が続いた。このため既存調査を見直し、かつて日本が南洋庁(支庁)を設置したパラオとポンペイの互助慣行の調査のうち、頼母子や無尽という日本の伝統的な小口金融とその互助慣行の「移出入」に着目した研究成果を日本社会学会で報告した(11月12日)。その後2023年から南洋群島の地域でも、海外渡航者の受け入れが徐々に可能となった。このため南洋庁の支庁が置かれたヤルート(現在マーシャル諸島共和国のジャルート環礁ジャボール島)と首都のマジュロ環礁で、3月14日から24日まで聞き取り調査を実施した。 日本の田植えなど労力交換のユイ(互酬的行為)、道路補修などの共同作業や共有地(コモンズ)の維持管理のモヤイ(再分配的行為)、冠婚葬祭のテツダイ(支援<援助>的行為)という伝統的な互助慣行の等価物は直接見られないが、広く互助行為について現地に行かないとわからない言葉を通していくつか知見を得ることができた。一つはlale dronで、これは相互扶助を意味し冠婚葬祭の手助けでよく言われる。 小口金融に関わる言葉としてkadlalがある。調査したジャルートとマジュロには日本統治時代にパラオとポンペイで「無尽」として伝えられた「ムシン」はないが、地元ではkadlalという言葉で行われていることがわかった。これは一度に受け取りの順番が決まり、利息がつかずメンバーが同一金額を受け取る点でムシンと同じである。この言葉は地元固有のものというより、戦後アメリカ軍から入ってきたと言われている。もともとkadは「投げる」lalは「下へ」の意味をもち、掛金を「地面に投げる」ギャンブルで使われた言葉が元になっているが、マーシャル人がこのkadlalを少額のお金を出し必要なモノやコトに使う共助の仕組みにした点は、パラオやポンペイとも共通すると言えるだろう。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度と21年度に続き南洋庁が置かれた南洋群島への現地調査は22年度も新型コロナウイルスの感染拡大に伴う海外渡航の自粛により中止せざるを得なくなった。このため直接現地人から互助慣行について知る機会がなかった。このまま3年続けて現地調査ができない状態になるかと危惧されたが、2023年から日本入国制限の緩和に伴い諸外国での受入制限が撤廃される中、3月にマーシャル諸島共和国で現地調査を実施することができた。 2020年度に調査を断念したサイパン島とテニアン島、ロタ島、21年度に同様調査ができなかったヤップ島とは異なる調査地にした背景には、南洋庁の支庁が置かれた最東端に位置するヤルート(現在のジャルート)が日本から最も遠く、今後の新型コロナウイルスを含めた状況変化に対応するため、始めに行くことがより困難なところから調査したほうがいいと考え、残りの現地調査全体のスケジュールも勘案しての判断がある。 なお2022年現地調査ができないとき、既存の南洋群島の調査をふまえ「互助慣行の移出入」の仮設の提示とその再検討による研究成果について、日本社会学会で「南洋群島の小口金融―パラオとポンペイを中心に―」というタイトルで報告した。 このように当初予定していた調査スケジュールの進捗状況から、「やや遅れている」という評価をした。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年3月に実施したマーシャル諸島共和国の調査結果とその研究のまとめは翌年度になるため、その結果を受けて互助慣行について日本社会学会で報告する予定である(10月)。マーシャル諸島ではパラオやポンペイで行われている「ムシン」がない点、すなわち日本人が現地でマーシャル人との接触がありながらなぜ「移入」がされなかったのかという点については、小口金融にとどまらず、日本の規律志向や強い凝集性に基づく集団主義を背景にした互助慣行の「移入」がそれほど見られない点も含め、さらに検証が必要と考えている。 引き続きこれまで行くことができなかったサイパン島とテニアン島、ロタ島、ヤップ島に加え、今後チューク島の現地調査を行うが、特に次年度はチューク島とヤップ島での調査を予定している。なお関連調査として東南アジアでこれまで断片的にしか情報を得ていなかったラオス、カンボジア、ミャンマーでの現地調査も視野に入れながら、日本と南洋群島との比較にとどまらない、東南アジアも含めたアジアから南洋群島の互助慣行の特質を浮き彫りにしたい。
|