研究課題/領域番号 |
20K02132
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
水津 嘉克 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (40313283)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 物語論 / 死別論 / 排除論 / 死別 / 死別経験 / 自死遺族 / 生きづらさ / スティグマ / 排除 / 「死別」経験 / 物語論的アプローチ / 社会学 / 自死問題 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、社会学のなかではなかなか日の当たらない「死別」経験をめぐる研究を前進させるためのものである。 そのなかでも自死による「死別」経験を経た人たちにとっての「生きづらさ」とはどのようなものなのか、またその困難性に遺族の方々がどのように対峙し日常を営んでいるのかに関して、周囲の人々との関係性も視野に入れながら、彼らの語り(トランスクリプトと手記データ)にもとづき物語論的視点から社会学的に検証する。 同時に、「死別」経験に関する国外での議論や支援実践に関する成果物を積極的に導入し、先に論じた物語論的アプローチがもつ理論的弱点を補強していくことを目的とする。
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研究実績の概要 |
今年度は本来であれば研究期間の最終年度に当たっており、研究課題の総まとめとしての単著を書き上げる作業を続けた。 2022年度から継続して行っているのが,いわゆる「二人称の死」が何故われわれにとって特別な経験(エピファニー)となるのかに関して、その内実を社会学的に探り、その根拠を明らかにすることである。 具体的な作業としては以下の二点になる。一点目は、昨年も課題としてあげていた「重要な他者」に関しての先行研究群を確認したうえで、概念の定義を厳密にする作業である。 二点目は上記に加え、自己「物語」論の文脈における「外在化」の再検討である。「外在化」は社会学において様々な用いられ方をする概念であるが(もともとはヘーゲル、マルクスにまで遡ることができる)、本研究課題「困難さを伴う「死別」経験に対する物語論的アプローチを用いた実践的研究」においては、困難な経験を自己「物語」として語るための重要な論点として、単著草稿をまとめるなかで新たに重要な概念として定義する必要性が生じてきた。「外在化」をめぐるアイデアは,P. バーガー & T. ルックマンの著作によって日本の社会学で知られるようになり、物語論が日本で広く知られるきっかけになったM. ホワイト& D. エプストンによる『物語としての家族』(1990 = 1992)においてももっとも重要な概念として採用されている。論者はM. ホワイト& D. エプストンとは異なる文脈において,この概念を改めて採用したいと考え作業を進めている。 そしてもうひとつ現実的な作業として進めているのが,研究成果を単著として発表するため、論文の章立ての見直しを含めた全体の構成の再調整である。ここまで、既に大まかに全体を6章あるいは7章構成で草稿を作成し,全体を見通す作業を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」で言及した課題に沿って作業を進めている。とりわけ「外在化」に関しての議論の必要性は、今年度に入ってからその問題に改めて気づいたものであり、現在改めて先行研究にさかのぼり確認と整理・再検討の作業を進めているものである。「外在化」をめぐる議論は、物語論者やいわゆる構築(構成)主義的な議論ではよく参照されるものであるが、その多くはP. バーガー & T. ルックマンを参照するにとどまっており、更に言うならばその参照のあり方は非常に曖昧である。例えば、これも先にあげたM. ホワイト& D. エプストンは、クライアントが専門家に対してオルタティブなストーリーを手紙として書く試みをもってして「問題のあるストーリーを外在化」可能であるとしているが、この主張自体に論者は強い疑問を持っている。 また、既存の構成主義的な議論において「外在化」の議論とともに参照されることが多いのがM. フーコーであるが、「外在化」という考え方がヘーゲルから、さらにいうならば弁証法的な知的伝統からきているものであることをふまえるならば、これまでの構成主義的な物語論者は極めて(安易な)折衷主義的議論を展開してきたとみることもできる。 「外在化」という概念は、論者にとって、困難な経験に相対し、語りの頓挫や自己「物語」の中断に相対した人たちが如何にしてそれに対処するのか、そして再度他者とのコミュニケーションを試みるのかを説明するにあたり非常に重要な概念である。引き続き注意深く作業を進めていきたいと考えている。 「研究実績の概要」では触れなかったが、もう一点再検討している論点として、分析手法の妥当性の検討に関しても(全面的なものではないが)検討が必要な課題であると捉えている。また議論の妥当性を担保するため分析データを分厚くしていく試みも続けていく。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の作業の最優先事項は、繰り返しになるが「外在化」をめぐる既存の議論を整理し、それを研究課題の中に組み込んでいくことである。「現在までの進捗状況」でも触れたように「外在化」の議論は本研究の軸の一つとなるはずであり、本研究課題の質を担保するものでもある。一昨年度からの課題に言及するならば、「重要な他者」という概念の再検討と本研究における位置づけの作業も同様に重要なステップとなる。 また研究の仕上げとして今年度改めて検討したいと考えているのが、分析手法の妥当性の検討に関する問題である。本研究の主なデータはインタビューデータやテキスト化した手記集など、一般的に「質的データ」と呼ばれているものであるが、「質的データ」の分析をめぐる定番の答は現在でもない。分析に説得力をもたせるためには(全面的なものではないが)質的データをどうとらえるのかの再考が必要であると捉えている。また議論事態の説得力を増してくためには分析データ自体を分厚くしていくことも引き続き必要であると考えている。 そして本研究課題(とりわけ単著として発表を予定しているもの)に直接結びつくわけではないが、ケア労働の議論との接合を検討することも、将来的な展開もふまえ重要な課題の一つであると考える。ケア労働には介護や看護、そしてその先の看取り(死別と喪失)という経験が含まれる。本研究がその領域での議論に何らかの形でわずかでも貢献できるならば、その成果は単に自己「物語」論の理論的な側面を精緻化させるのみならず、ケアという非常に身近なわれわれの日々の経験に対して、社会学という学問が貢献していく可能性を拡げていくことに繋がるのではないかと考える。 課題は山積みであるはあるが、残りの一年間鋭意作業を進めていきたい。
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