研究課題/領域番号 |
20K02139
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 城西国際大学 |
研究代表者 |
魚住 明代 城西国際大学, 国際人文学部, 教授 (90228354)
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研究分担者 |
廣瀬 真理子 城西国際大学, 国際人文学部, 客員特定研究員 (50289948)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2020年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | ドイツ / オランダ / キリスト教民主主義 / 社会福祉行政 / 大陸型福祉国家 / 家族主義 / 民間非営利団体 / 公私関係 / 福祉国家 / 民間福祉団体 / 欧州大陸 / 社会政策 / 持続可能性 |
研究開始時の研究の概要 |
ドイツとオランダは、福祉国家の類型論において、キリスト教民主主義を基盤とした欧州の「大陸型」福祉国家として位置づけられ、しばしば両国の類似点が指摘されている。しかし福祉政策の展開や社会的背景の相違に着目した比較研究は、多いとは言えない。 本研究では、文献研究や現地調査をもとにして、ドイツとオランダにおける福祉の展開や、福祉の担い手としての中間団体の働き、家族・ジェンダー観の変化等を踏まえた、多角的な比較を行い、其々の国における施策の成果や改革に向けた課題を明らかにしていく。この比較研究を通して、日本の社会保障改革への示唆を見出したい。
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研究実績の概要 |
本研究は、大陸型福祉国家として分類されるドイツ・オランダの特徴を明らかにすることを目的としている。国と民間非営利団体の関係性に着目して、文献研究と現地調査をもとに両国の比較を行ってきている。2023年度はドイツでの現地調査を実施し、近年の福祉改革の方向性を見極めるための情報を得た。具体的には、ミュンヘン市のフリュステンリード区の高齢者支援センター(ASZ)を訪問して聞き取り調査を実施した。1990年代以降、都市と地域の民間非営利団体が高齢者支援のネットワークを形成して連携している様子を確認することが出来た。行政と民間非営利団体、市民ボランティアの活動を通じて「共助」への期待が高まっている。他方で、近年の急速な教会離れがもたらす活動財源の縮小などの問題も明らかになった。ドイツでは高齢化の進展に伴い、在宅支援サービスが充実しており、地方自治体の財政負担増と地域間格差の拡大という問題点が明らかになった。 オランダに関しては、文献研究により地方分権化の文脈に沿って、近年の福祉国家改革の主要な柱のひとつともいえる就労促進事業に関する基礎自治体の積極的な役割と、生活保障面について社会保障法改正の基礎自治体への影響について焦点を当てた。そこでは、最近次々と展開される法改正にもとづいて、新自由主義へと傾斜する改革を推進する基礎自治体の側面が見出せるいっぽうで、基礎自治体に住民の最低生活保障制度の権限と責任が以前よりも強まっており、独自の政策が展開されている側面も明らかにされた。この背景には、第二次世界大戦以降、オランダの社会福祉行政の地方分権化がたんに中央-地方関係だけでなく、民間非営利団体を加えた三者の間でのパートナーシップの組み換えにより行われてきたことがある。そこで次に、その変遷過程について、家族や地域集団への影響に注目して、オランダの社会福祉行政の特徴を明らかにすることを試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画である大陸福祉国家の特徴とその多様性を見出すためのドイツ・オランダの比較研究は、現地調査の計画についてはコロナ禍やウクライナ戦争によって渡航が不可能な時期もあったため、当初の計画からするとやや遅れていると言わざるをえない。 しかし、それぞれの国に関する文献研究とオンライン研究会での議論は、欧州全体を概観する作業となり、福祉国家の類型論に新たな視点を加えることにも繋がった。また本研究の研究期間中に偶然に直面したコロナ禍とその対策にも研究テーマと深くかかわる課題を見出すことにもなった。特にコロナ禍に直面して、福祉国家改革において社会保障制度を充実させるような「揺り返し」を重視する欧州の議論から得られた知見は貴重である。ドイツでは、福祉の供給に関して、直接対面をしない形式で支援サービスを各戸に届ける工夫が広くなされていたことを確認し、パンデミック終了後の福祉供給に変化がみられたことが興味深く次年度の研究において注目したい点となった。 またオランダでは、政府内に設立された諮問委員会が、政府の雇用・労働市場改革に対する批判的な見解を示し、それまでとは異なる方向で労働者の生活保障の充実をめざす改革が提案されたことなどは注目すべき点といえよう。
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今後の研究の推進方策 |
日本でも欧州でもコロナ禍は一段落したといわれるようになった。スムースな渡航が可能であれば、オランダでの調査を行い、ドイツでも追加も調査を実施する予定である。具体的には、研究計画にあげた研究者や基礎自治体、また民間非営利団体などを対象にして、地方分権化と社会福祉行政の公私関係について、文献研究からのみでは得られない、現実に直面した「大陸型福祉国家」の実態と課題に、分析・検討を加えたいと考えている。 またEUの独立機関(Eurofound)が近年実施した調査においても、北欧型やアングロサクソン型など他の福祉国家の類型に比べて、大陸型福祉国家の類型のなかでは個々の国の異質性が大きいことが明らかにされている。今回のドイツとオランダの比較研究を、さらに他の大陸型福祉国家に照らし合わせて、その多様性を分析して日本の政策との比較研究に役立てたいと考えている。
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