研究課題/領域番号 |
20K02179
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08020:社会福祉学関連
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
井上 信宏 信州大学, 学術研究院社会科学系, 教授 (40303440)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2022年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2021年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
|
キーワード | 地域福祉 / 持続可能 / ナラティブ / 生活史 / ソーシャルワーク / 持続可能性 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,社会資源の制約がある中山間地や地方都市において,持続可能な地域福祉の推進モデルが何であるかを明らかにすることを目的とする。 この目的を遂行するために,長野県下の市町村を調査地とし,①地域福祉を支えてきたリーダー層の〈地域のナラティブ〉に注目し,その類型化を試みる。②調査地の地域福祉を支援してきた社会福祉協議会職員や行政職員,医療・福祉の専門職の支援と〈地域のナラティブ〉の関係を明らかにし,地域福祉推進の目的共有のプロセスの類型化を試みる。③①と②を合わせて,多様な主体が地域福祉の推進に向けた協働関係を構築するアプローチを地域づくりアプローチとしてモデル化する。
|
研究実績の概要 |
▼本研究は、中山間地や地方都市において、持続可能な地域福祉の推進モデルを構築することが目的である。そのため、長野県下の市町村を調査先として選定し、①調査地の地域福祉を支えてきたリーダー層の〈地域のナラティブ〉に注目、それを可視化・類型化し、②調査地の地域福祉を支援してきた社協職員や行政職員、専門職の具体的な支援方法と〈地域のナラティブ〉の関係を明らかにし、地域福祉推進の目的や目標の共有プロセスの類型化を行い、③地域住民-社協・行政職員-専門職という多様な主体が地域福祉推進に向けた協働関係を構築するアプローチのモデル化を試みるものである。 ▼COVID-19感染症予防対策で聴取調査ができなかった2年間で、①「コロナと松本プロジェクト」を立ち上げ、地域福祉のリーダー層へのヒアリングに向けたプラットフォームを用意、②長野県社会福祉協議会の協力を得て、長野県下の市町村社会福祉協議会のソーシャルワーカーとの研究会を組織、持続可能な地域支援のあり方を調査する専門家集団を組織し、Zoomを用いて定期的な研究会を実施してきた。 ▼2023年度の研究実績として、①コロナと松本プロジェクトでは、コロナ禍での地域生活課題の聴き取り、アフターコロナにおける持続可能な地域づくりとケアの取り組みについて、長野県松本市のJo地区、Yo地区の協力を得ながら、地域福祉のリーダー層へのヒアリングを行った。そこから、〝繋がり〟を行政や専門家と協力しながら意識的に構築しようとするリーダー層の姿と、地域の未来を意識しながら持続可能な地域づくりを語る姿を見いだすことができた。 ②ソーシャルワーカーとの研究では、長野県栄村の小滝地区に調査に出向き、2011年3月の長野県北部地震後の復興作業において、300年後の未来を意識した取り組みをはじめた経緯を取材、未来のために現在やるべきことを考えるリーダー層の姿を明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
▼本研究の初年度となる2020年度は、COVID-19感染症予防対策で当初予定の調査研究が滞ってしまった。2021年度以降は、本研究の推進において、コロナ禍における日常生活の困難と不安、社会的な行動制限のなかで見えてきた地域生活課題に注目し、それを地域福祉のリーダー層がどのように解釈して、制約下における公共圏の再編を自らで行おうとしているのか、そのなかで、アフターコロナにおける持続可能な地域づくりを考え、具体的なアクションを起こしているのかに注目することに研究推進の方策を修正し、長野県下のソーシャルワーカーを組織してZoomを用いた研究会や文献調査を重ねるなど、聴取調査や現地取材を先送りして研究を推進してきた。 ▼2022年度からは、コロナと松本プロジェクトでリーダー層への聴取調査を再開し、2023年度からは、県下のソーシャルワーカーをハブとする担当地区での地域生活課題とその解決に向けた住民の取り組みの取材を開始し、リーダー層の〈地域のナラティブ〉を収集する作業を重ねて来た。しかし、2020年度、2021年度の両年にわたって、地域住民を対象とする聴取調査が頓挫したことで、本研究の進捗を損なうことになってしまった。 ▼2023年度の研究では、社会資源が限られた中山間地域において、一時的に拠点を移らざるを得なかった地域で復興のリーダーシップをとった者への聴取とそれを支えた地域の取材を通して、彼らが地域の300年前の歴史を学ぶことで「いまなすべきことは300年後の地域の人に、これまでの生業(米づくり)とそれを中心とする暮らし方を伝えることだ」という〈地域のナラティブ〉を共に作り上げていること、それらが地域の公共圏を構成し、地域の生産と再生産(ケア)を構築していることが見えてきた。 ▼これまでの研究成果をもとに、持続可能な地域福祉の推進モデルを考えるために、研究期間の延長を希望する。
|
今後の研究の推進方策 |
▼本研究の推進方策は、2020年1月以降のCOVID-19感染症予防対策下で見えてきた地域生活課題を手がかりに、社会的な行動規制下のなかで明らかになってきた当該地域の公共圏の再生をめぐって、地域福祉のリーダー層がどのような〈地域のナラティブ〉を語り、それをソーシャルワーカーや行政がどのように引き受けて、持続可能な地域づくりに乗り出しているのかに注目して進めることになる。 ▼2023年度の現地調査で明らかになったリーダー層の姿、すなわち、フルセット型の地域を目指すのではなく、〈過去から学び、未来に伝える〉ことを意識しながら、社会資源が限られた中山間地域で地域住民による互助に基づく公共圏を、持続可能な公共圏として再構築しようとする地域福祉推進をモデル化し、ほかの地域での利用可能性を検証する作業が必要となる。 ▼地域生活課題の議論においては、これまで「つながり」や「居場所」の価値の確認とそれらの保全の困難が指摘されてきたが、〈過去から学び、未来に伝える〉という〝学び〟のプロセスに関わることになった地域住民が行動変容を起こし、持続可能な地域づくりに乗り出すというモデルを示し、そのモデルの他地域への委嘱の可能性を探ることを「持続可能な地域福祉の推進モデル」として示すことを考えている。
|