研究課題/領域番号 |
20K02454
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09010:教育学関連
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研究機関 | 上越教育大学 |
研究代表者 |
稲垣 応顕 上越教育大学, 大学院学校教育研究科, 教授 (90306407)
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研究分担者 |
瀬平劉 アントン 九州大学, 基幹教育院, 准教授 (50754438)
大久保 明子 新潟県立看護大学, 看護学部, 教授 (70279850)
坂井 祐円 仁愛大学, 人間学部, 准教授 (70351244)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2020年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | いのち教育 / 生命尊重 / 道徳教育 / 宗教的情操教育 / スピリチュアルケア / グリーフケア / ナラティブアプローチ / 臨床教育学 / 宗教教育 / ナラティブ教育学 / 死生学研究 / 道徳 |
研究開始時の研究の概要 |
日本の文化的宗教的な思想背景をもつ「いのち教育」について、その理論と実践方法を構築し、これを臨床教育学の観点から包括的に考察していく。「いのち教育」を日本の精神文化や宗教感覚に基づいた全人的ケアとしての教育実践として捉え、これを学校教育に限らず様々な臨床教育場面で応用・実現していくための実践方法を構想していく。 主には次の4つの研究活動を基軸とする。① 関連する国内外の文献資料の集積・解析 ② 理論と実践方法の構築(教育思想研究・事例調査研究) ③ 大学講座の開講(リレー講義) ④ 実践フォーラムの開催(教育・医療・福祉・心理・宗教等の諸領域の交流)
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研究実績の概要 |
本研究では「いのち教育研究会」の名称のもと定例会の活動をオンラインで続けている。2022年度は定例会を4回行った(第10回~第13回の定例会にあたる)。 第10回では、心身めざめ内観センターを主宰し、仏教心理学会の会長をしている千石真理氏を講師に招聘し、吉本伊信が開発した内観療法について、その形成過程や実践のあり方について基調発表をいただいた。内観療法は、仏教のいのち観に基づく心理療法であり、いのちの捉え方について宗教的情操との関連が指摘された。 第11回では、公立中学の元教員で校長経験もあり、退職後は金融教育に携わっている諏訪部寛栄氏から、学校現場において生徒にいのちについて教え、ともに考えるとはどういうことなのかについて、基調発表をいただいた。第12回では、いのちのケアネットワークの代表で社会福祉士でもある森川和珠氏と、信州大学准教授で教職養成課程に関わり道徳教育の研究者でもある河野桃子氏のお二人を講師に招聘し、小さな子どもたちへのグリーフケアの実際や理念、そして道徳教育の文脈におけるいのち教育の可能性について、基調発表をいただいた。第11回、第12回の定例会を通して、学校現場では道徳教育がいのちを教える場になると考えられているが、そもそも人間の生活そのものがいのちを考えること、生と死の境界を考える契機になることが示された。 第13回では、埼玉医科大学総合医療センター緩和医療科の教授であり医師である儀賀理暁氏を講師に招聘し、学校現場におけるがん教育の実践と理念について基調発表をいただいた。がんについて考えることは、健康の問題を考えるにとどまらず、今を生きているということの意味について、大人や子どもの境界を取り払って深めていくことであることが示唆された。 学校現場でのいのち教育の必要性について教員対象に聞き取り調査を実施したが、予備調査の段階で多くの問題点が露呈した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、いのち教育の実践に至るための理論構築についての考察を中心に進めている。そのために、臨床現場での実践知が、いのち教育という課題にどのように開かれているのかを明らかにしようとすることを当面の目標としてきた。3年間の研究を通して、本研究の成果を書籍化してまとめようと考えていたが、研究分担者のいのち教育に対するスタンスについて議論を重ねてきたが、うまく整理できないままでいるため、本研究の目標を遂行しこれをまとめることが難しい状況にある。 しかし、教育現場、医療福祉現場の双方から、とりわけスピリチュアルケアの問題や、宗教的情操の問題が取り上げられ、生命尊重の超越的な根拠について、いのちは生のみならず死をも包括する概念であることなどが、定例会の活動を通して指摘され、確立するなどで、いのち教育の理論に関わるおおよその輪郭が見えてきているのも、この3年間の研究成果ではあった。 そこで、研究自体はやや遅れてはいるものの、実質的な成果として、いのち教育の理論構築の提言を行うことは十分に可能な状況にはなっている。また、いのち教育について発展的に考えるための方向性も見出すことができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
具体的に臨床実践として、いのち教育が行われているという実際について考えることが重要であり、そのために現場での教材やプログラム開発などの資料を収集していくということがまず挙げられる。これらの実践のいくつかの事例の中から、実践知を取り出してこれを明らかにし構造化していくこと、そして、そのためには、いのちという概念の思想的な背景について明らかにすることが必要になってくる。 今後の研究の推進方策としては、これまで定例会等で基調発表をいただいた講師と連携し、いのち教育のあり方や理念についての議論と対話を重ねていくこと、そして、こうした議論や対話の成果を、学術的な体系として整理していくことが必要になってくる。この体系化を行う上で、次の5つの観点が挙げられる。 ①実践に関わる臨床現場の各領域における「いのち」の捉え方およびその異同 ②「いのち」とはどこから来てどこに向かうのか ③自他の「いのち」の尊重と、尊厳死・自死の問題 ④死者へのケアや生と死の境界としてのいのちの捉え方と教育の場での扱い方 ⑤グリーフケア・スピリチュアルケアとの関連性、そしてスピリチュアル教育・マインドフル教育との関連性について これら5つの観点を通して、「いのち教育」の現状と問題点、およびその可能性について構造化していくこと、さらには、いのち教育の対象者とは誰なのか、という問いについての考察を深めていくことを、推進方策の目標としたい。
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