研究課題/領域番号 |
20K02568
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09020:教育社会学関連
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
古賀 正義 中央大学, 文学部, 教授 (90178244)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2021年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 質的調査 / 特色高校 / コミュニケーション能力の変容 / デジタルネイティブ世代 / 機関間連携 / 内閉化した関係性 / スクールソーシャルワーカー / 自立活動支援 / 青少年育成指導者 / 排除型社会 / 社会情動的スキル / 社会関係資本 / コミュニケーション能力 / 自立支援活動 |
研究開始時の研究の概要 |
排除型社会が拡大するなか、不登校やひきこもりなど社会適応できない「困難を有する若者」をいかに包摂するかが問われている。特に、対人関係の拡張やコミュニケーション能力の改善は社会関係資源の獲得にとって重要課題であり、今日では「自立活動」と呼ばれる特別支援教育プログラムの方法や「人間と社会」といった体験型教科の新設などが試みられている。 本研究は、困難生徒を抱える「特別校」での広範なスキルトレーニング実践に密着し、聞き取りや観察の質的調査技法を活かして、今日家庭・地域の教育力だけでは達成しえない、社会的自立に向けた活動の方法論的な特質と有用性、また学校組織への導入のあり方や問題点などを分析したい。
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研究実績の概要 |
コロナ禍によって、残念ながら、当初想定していた調査対象の特色校での活動観察やインタビューなどインテンシブな質的調査研究はほとんど実施できなかった。しかしながら、特色校でのコミュニケーションスキルの育成にかかわる教育活動計画の実際や相談・支援活動によるスキルを欠いた孤立しやすい生徒への働きかけの一端は、アンケートや聞き取り調査から理解することができた。 具体的には、国の広報誌『法律のひろば』に投稿した「ひきこもり状態にある子供・若者の支援」(2021年8月)という論考に調査結果の一端を執筆している。この論考では、これまでの調査研究で「何でも相談できる人がいるか」「居場所はどこか」を尋ねた結果から、学校内で孤立しやすい生徒層と関係性を構築できる生徒層がデバイドしている実態を提示した。孤立層が生まれる原因が、過去の成育歴や問題体験と深くかかわっていることが指摘でき、単一的な原因論ではなく、複合的な原因を措定して支援をすべきことを論じている。 今回の調査対象である東京の特色高校(チャレンジ枠を有する学校)でも不登校経験者の入学がきわめて多く、通学・就学そのものが難しくなっていた。その背景にはたびたび家庭の揺らぎがあり、ヤングケアラーも少なくなかった。複合的重層的支援によって、医療・福祉・労働・警察などさまざまな援助の場を活用しないと、登校へのモチベーションは維持されにくいという。校内の相談チームの構築により、この高校では外部機関との連携や生徒の個別な指導・処遇を徹底させていて、こうしたチーム学校体制の中で「自立活動支援」が活かされようとしていた。 学校での対人関係構築の依存が強まるなかで、セーフティーネットとしての高校の意義は大きい。3月から聞き取り・観察調査も始めたが、初年次段階での自立活動支援の教育が試みられ、社会参加のための支援に関して今後への示唆ある調査といえた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍で学校への立ち入りを制限するケースが増え、高校でのフィールドワーク(観察や聞き取りなど)がほとんど実施できなかったのは残念である。いうまでもなく、これが研究の遅れを導く大きな要因であった。調査計画では、東京や高知などの地域で特色高校(発達障害傾向や非行傾向などを有する生徒を多数指導する特色ある高校群)における近年の「自立活動」支援の特質を明らかにし、とりわけNPOなどによって自立活動支援としてプログラム化されている訓練活動や個別面談指導などを観察する予定であったが、ほとんど行えなかった。 そのため、自立活動の基本的な理解に向けて、限られた人数ではあるが、担当の教師ならびに管理職、さらに養護教諭、カウンセラーなどへのインタビューで補填することを進めた。 調査計画をかなり変更したものの、いくつかの貴重な意見や支援の評価の声を記録することができた。具体的には、若手S教諭は「何かしら抱えている生徒」として背後にある家庭環境や対人関係への目配りが大事と指摘していた。また、中堅N教諭は「メンタルの弱い生徒」として適切なケアがないため発達障害傾向を抱え続ける生徒の発見を指摘していた。さらに、スクールカウンセラーは、自傷行為の多発など自我の歪みを訴える生徒の存在に注目していく必要を語っていた。 今後こうした多様な生徒への個別指導としてどのような自立活動が可能であるかを検証していく予定である。ちなみに、通級指導による取り出し型の指導形態が始まったのは2020年度からであり、調査に継続によってその活動の整理やシステム化を読み解くことが可能と思われる。継続してインテンシブな調査を実践していきたいと思っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の調査については、当方の他の終結する科研費研究との連続性を担保しつつ、着実に進めていく予定である。そこでの中心的なねらいは、「自立活動の支援を必要とする生徒をどのように見分けていき、具体的にいかなる個別プログラムを提供していくのか」、いわゆるインテークとリファーの関連付けと、こうした支援実践による改善生徒の事例を、インタビューや観察など質的な研究も交えた調査から明らかにするということである。 具体的には、昨年度末から東京の特色校・チャレンジ校で聞き取り調査を開始している。この特色校では、発達障害傾向を抱える生徒や家庭の不和によって援助の欠如する生徒などが多数入学しており、こうした背景の問題から当初1年次からも多数の退学者が出ていた実態がある。担当教師によれば、問題生徒の怠学傾向の理由はわかりにくく、問題の内実の理解そのものが困難であるという。そこで、「自立活動援助」として広範な教育活動を導入し、他者とのコミュニケーションが難しい生徒の社会背景や対人関係を把握しつつ、教師さらには養護教諭・スクールカウンセラーなどの相談チームで支援するという体制を整備している。 これによって、「ヤングケアラー」と呼ばれる家庭のケアに忙しくこれまでに十分な学習をすることができなかった問題生徒の存在や、内閉的なひきこもる生活に入り込み対人関係にかかわる外見などの恐怖を訴える生徒の存在などがこれまでになく明らかになってきたとされる。これまで見えなかった課題の背景やこれまでの経過が見えてきたという声があった。支援体制づくりに努力し、チーム学校として幅広い自立活動支援を重視した個別処遇型の活動を展開している実践事例といえ、今後こうした対象高校での調査事例を蓄積していく予定である。
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