研究課題/領域番号 |
20K02588
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09020:教育社会学関連
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
児島 明 同志社大学, 社会学部, 教授 (90366956)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2020年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 移民第二世代 / 教育主体化 / 新しい公共性 / 教育主体 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、移民第二世代が成長のなかで自らのマイノリティ経験をさまざまに解釈・再解釈しながら再資源化し、次世代を育成するための文化資本として活用していく過程を描きだし、そのことが教育の領域における「新しい公共性」の創出にいかなる意味をもちうるのかを検討する。第二世代を所与の文化の影響を一方的に受けとるだけの客体ではなく、自らのマイノリティ経験の再資源化を通じて固有の立ち位置から文化を創造していく主体として捉え、その過程を当事者の視点から具体的に描くところに本研究の最大の特色がある。さらに、文化創造の主体として第二世代が地域の教育実践にいかなる影響を及ぼすのかを解明する。
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研究実績の概要 |
日本社会における移民第二世代が次世代の教育に関する認識をどのように形成し、いかなる実践につなげていくのかを解明することが本研究の課題である。2023年度は大卒学歴を有する3名のブラジル系移民第二世代へのインタビュー調査に基づき、第二世代が教育を職業として選択するに至る経緯および選択後の状況と課題について検討した。得られた知見は以下の三点である。 第一に、調査対象者の教育達成には重要な他者の存在が大きく影響していた。親自身の学歴が限られたものであっても、移民を選択した親の苦労や期待に応えようと学業に励む第二世代の姿は、海外の移民研究でも同様に確認されている。逆に、親が学歴取得の価値に無頓着である場合、第二世代が進学意識を形成するのは容易ではないが、学校教員をはじめとする周囲の大人の励ましと支えがそれを可能にしていた。 ただし、大学進学時点では、こうした自らの経験はいまだ個人の成功譚の枠内にあり、次世代の教育ニーズとして明確に認識されるには至っていなかった。その意味で、大学進学により拡大した世界(ゼミ、留学、ボランティア、アルバイト等)での多様な他者との出会いは、自らの経験を集団の経験として枠づけ直すと同時に、当該集団における自らの社会的位置を自覚する重要な契機となっていた。これが第二の知見である。 第三に、こうした自らの社会的位置の自覚は、調査対象者たちにとって個人的な経験を越えたエスニックな教育ニーズの存在について認識を深める契機となり、働きかけるべき対象と内容を考慮する際に自らの経験をどのように評価したうえでおこなうかの判断に指針を提供していた。ここで、3名が共通して、エスニックな教育ニーズにあくまでも職業として応えることを強調していた点は重要である。ホスト社会側にそうした雇用の受け皿が限られる現状にあって、3名はそれぞれの仕方でその環境づくりに果敢に挑戦していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の申請当時には予想できなかった新型コロナウイルス感染症の拡大とその長期化によって移動に大きな制約が生じ、移民第二世代の教育支援現場でのフィールドワークや当事者へのインタビューが滞ってきたのが、研究にやや遅れが生じていることの最大の原因である。 しかしながら、新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行した2023年度には移動に関する障害はほぼなくなり、2021年度から継続している山陰地方B市でのフィールドワークも2月に1回程度の割合で実施することができた。このフィールドワークでは、ブラジルを中心とした外国にルーツを持つ子どもや青年の支援団体における参与観察や聞き取り調査を重ねており、進学や就職の機会が限定的な地方都市における移民第二世代の進路形成上あるいは就職・転職をめぐる経験の特徴について理解を深めてきている。地域の特性が第二世代の進路意識や教育観・職業観の形成に構造的な制約を強いる側面がある一方で、地域を生きることに対する第二世代の主体的な意味づけが、支援をめぐる新たな協働の空間を生みだす可能性も別の一面として見えてきた。こうしたローカリティをめぐる第二世代の経験についてさらに調査を継続し、理解を深める必要がある。 他方、継続している第二世代へのライフストーリー・インタビューの分析からは、次世代の教育に対する認識の形成と第二世代自身の教育経験との密接な関係が浮かび上がってきている。とりわけ2023年度に扱った、教育を職業として選択した第二世代の事例からは、教育観の形成過程のみならず、それを実現するためのSNS等のコミュニケーション・ツールがコロナ禍をきっかけに急速に普及したことが職業としての教育の成立を可能にしていることが明らかになった。第二世代が創出する新しい公共性を理解するためには、こうしたコミュニケーション・ツールの活用の実態にも一層目を向ける必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策については、概ね以下のように考えている。 まず、移民第二世代の教育主体化過程と次世代育成実践との関連を、コロナ禍が社会環境に及ぼした影響及びそれぞれの第二世代が生きる地域の教育機会や職業機会の特徴を考慮しながら多角的に解明するためのライフストーリー・インタビューを継続して実施する。研究課題にふさわしい対象者の選定については、過去のインタビュー協力者のネットワークやフィールドワークを継続中のB市で築いてきたネットワークから助力を得ながら、機縁法的に増やしていく予定である。インタビューは基本的に対面での実施を予定しているが、育児により外出が難しい、海外在住であるなどの理由で対面での実施が困難な場合も考えられるため、状況に応じてオンラインでのインタビューも取り入れながら調査を進めていきたい。 それと並行して、B市において移民第二世代が暮らす環境を多角的かつ詳細に把握するためのフィールドワークを継続する。B市は大都市圏と比べて規模が小さく、移民の急増も比較的最近の現象であるため、第二世代の教育をめぐる課題が可視化しやすく、また支援をめぐる取り組みや諸団体の連携の過程や現状・課題も把握しやすい。継続的なフィールドワークによって地域の主要なアクターとの間に信頼関係を築いてきているため、その関係を活用しながら、移民の増加を契機に地域のなかに構築されてきた諸々のネットワークの存在と機能について整理を試みる。B市は、移民第二世代の生活機会という観点からは構造的制約の多い場所である一方で、生活の組織化のために利用しうるネットワークや諸資源の蓄積がみられる場所でもある。そうした諸々のネットワークや資源のありようを丁寧に確認しながら、第二世代の教育観の形成や教育実践の展開に関する動態的な把握を試みたい。 以上の調査結果を統合し、最終的な報告書を作成する。
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