研究課題/領域番号 |
20K02604
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09020:教育社会学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
渡邉 雅子 名古屋大学, 教育発達科学研究科, 教授 (20312209)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2020年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 論理的思考 / 合理的行動 / 思考表現スタイル / 四カ国比較 / 教育文化 / 作文・小論文教育 / 合理性の比較研究 / 教育と文化の比較モデル / 小論文の国際比較 / 小論文の歴史 / 書く教育の国際比較 / 歴史教育の国際比較 / 比較教育 / 比較文化 / 作文教育 / 歴史教育 / 論文の書き方 / 思考の型の国際比較 / 論理的な書き方 |
研究開始時の研究の概要 |
論理的に書いたり話したりすることの重要性が喧伝されて久しい。しかし、<論理的>であることの中身については、実証的に明らかにされていない。論理的な正誤は形式論理のみで明らかになり、それ以外はレトリックの領域になるが、本研究で扱うのは、文化に根ざした論理、あるいはそれぞれの「社会で作られた論理」である。それを明らかにするために日本・アメリカ・フランス・イランの小論文の構造比較を行い、必要な情報がいかなる順番で述べられているのかをもとにロジックの比較を行う。さらに小論文創造の歴史と学校でいかに小論文に向けての書く教育が行われているのかの現地調査を行い、<学校で教えられている論理>のモデル化を行う。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、普遍的で世界共通と受けとめられている論理と論理的思考が実は文化的に構築されている過程とその主な型を日本、アメリカ、イラン、フランスの学校で教えられ頻用されている作文/小論文の型(構造)に焦点を当てて実証的に明らかにするとともに、論理と合理性の四つの型を教育文化のモデルの構築から特定することである。学校が伝える主流文化を教育「目的(価値対技術)」と目的達成の「手段(経験的知識対体系的知識)」のそれぞれの二項対立の指標の組み合わせから四つの原理を特定して教育文化のモデルを構築した。 経済原理(アメリカ)では「効率性」、政治原理(フランス)では「十分な審議」、法技術原理(イラン)では「真偽の決定」、社会原理(日本)では「共感」が主導的な観点となり、各国の書き方と思考の型が作られている。教育目的として技術を掲げる経済原理と法技術原理においては、「結果重視」で決まった結論に向けて目的論的に議論を進める。それに対して、価値を目的として掲げる政治原理と社会原理は、議論の「過程を重視」してその過程からそれぞれの原理の価値観を学ぶ。作文の型は思考の型を導くのに対して歴史教育の語りは過去の解釈の方法を通してものごとの起こるパターンを示し、推論の型を形成する。推論の型は、行為の合理化の方法と行為の評価基準を教える。経済原理と法技術原理では歴史を目的論的に捉え、「因果」を過去と未来の解釈の方法するのに対して、政治原理と社会原理ではものごとの「関係性」を重視する。 モデルの構築により各原理に特徴的な論理と合理性が明らかになるのみならず、原理間の関係も明らかになり、ある原理の視点に立つと「なぜ」そして「どのように」他の原理が非論理的、非合理的に見えるのかを解明した点に本研究の意義が認められる。それによって論理と思考法という見えないがゆえに深刻な文化衝突の原因を解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年は日本、アメリカ、フランス、イランの作文/小論文の型と論理の分析とその教育法、および歴史教育における時間意識と因果の概念の分析、大学入試問題の分析を通した四カ国の能力観の調査結果をまとめ、それを教育文化の四つの原理としてモデル化を行った。これらの調査とモデル化・理論化の結果を学術書として一冊の本にまとめ、2023年9月に岩波書店より『論理的思考の文化的基盤―四つの思考表現スタイル』を上梓した。これをもって調査、分析、モデル化、成果発表の研究一連の手続きが完了した。本書は、日本教育新聞の書評や学会誌の書評、インターネットの書評で取り上げられ初版刊行三ヶ月後には二刷が発行された。
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今後の研究の推進方策 |
学術書刊行の後には、四つの残された仕事に取り組んでいる。一つ目は、翻訳してもらったイランの作文教科書全12冊を研究の資料として残すための監修の作業である。二つ目は、四カ国のモデルをもとに教育の提言を行う本の執筆、三つ目は、四カ国の研究調査の結果を広く社会に還元すべく、論理的思考についての大学の教養の教科書の執筆、四つ目は日本語で出版した学術書の英語の翻訳本の出版である。教養の教科書の執筆には、実地の調査結果に加え論理学、レトリック、哲学、科学の論理についての文献調査が必要となりそれが終了していよいよ執筆ができる段階になったところである。
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