研究課題/領域番号 |
20K02611
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09020:教育社会学関連
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研究機関 | 高知県立大学 |
研究代表者 |
鈴木 康郎 高知県立大学, 地域教育研究センター, 教授 (10344847)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2020年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 東南アジアの教育 / 道徳教育 / 道徳の教科化 / 小学校 / 価値多様化 / タイの教育 / マレーシアの教育 / インドネシアの教育 / 特別の教科道徳 / 東南アジア / 価値教育 / 多文化 / 共生社会 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は、日本で新たに「特別の教科」として教科化された道徳教育に着目し、既に教科として長く行われてきた東南アジア諸国の道徳教育をめぐる議論や実施体制を実証的に研究することにより、「教科としての道徳のあり方」を検討することにある。 対象はタイ、マレーシア、インドネシアの3カ国であり、その実施体制や教育実践の様相を現地調査を通して明らかにする。研究の成果として、教科としての道徳の実施について基本的視座を提供しうる。さらに、文化・人的交流の機会が飛躍的に増大する中で「国民統合と多様な価値の共存」という相反する課題に対応しようとする道徳教育のあり方について、新たな理論的視座を提供しうる。
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研究実績の概要 |
本研究は、日本で「特別の教科」として戦後初めて教科化された道徳教育に対し、既に教科として長く実施されてきた東南アジアの道徳教育をめぐる議論や実施体制に着目して実証的に比較検討することにより、教科としての道徳のあり方について、課題と展望を示すことにある。 2020年度は新型コロナウイルス感染症の世界的流行により現地調査に大きな制約があったものの、文献調査を通して各国道徳教育に関する法制度的枠組みや政策動向を整理し、比較の視点を明確にした。2021年度も主に文献調査により、道徳教育が実施される体制と教室における教育実践の関係性について、多様性への対応という観点から分析を行った。2022年度は感染症の状況が徐々に改善したため、現地研究協力者との連携体制を整備し、各国における道徳教育の実施体制に関する情報収集を行うとともに、インドネシアにおいて現地調査を行った。あわせて、価値観が多様化する社会において道徳教育を通していかに価値の共存を図るかという比較の枠組みについて理論的に再検討を加えた。 2023年度は、9月にクアラルンプールにおいて、国民小学校および国民型小学校での道徳教育の実践について現地調査を実施した。具体的には、道徳の教科書や教材の内容分析、授業観察、教員へのインタビューなどを通して、多民族社会における道徳教育の工夫や課題について考察を行った。12月にはタイのチェンライ県において、同県内の公立小学校および私立小学校数校での現地調査を行った。タイの道徳教育は仏教的価値を基盤としつつも、多様な宗教的背景を持つ児童への配慮という観点から各学校の実践にも特色がみられ、その実態を授業観察やインタビューから明らかにした。なお、2023年6月に開催された日本比較教育学会第59回大会では、これまでの研究成果の一部について発表を行い、フロアとの質疑応答を通してさらなる課題を共有した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度から2021年度にかけて新型コロナウイルス感染症の世界的流行により現地調査を断念せざるを得なかったが、タイ、マレーシア、インドネシアの道徳教育に関する法制度や政策の枠組みについて文献調査を行い、比較研究の視点を明確にした。2022年度は感染状況が若干落ち着いたため、インドネシアの一部地域において道徳教育の実施体制と教育実践の関係性について現地調査を実施し、多様性への対応という観点から実証的なデータを得ることができた。併せて、現地研究協力者との連携体制を整え、それぞれの国における道徳教育の実施体制に関する資料収集を行うとともに、多様化が進む社会において道徳教育を通じた価値の共存を探るための理論的枠組みについて再検討を行った。 2023年度は、9月にクアラルンプールにおいて、道徳教育の実態を探るべく現地調査を実施した。この調査を通して、多民族の子どもたちが共に学ぶ中でいかに道徳性を涵養しているのかについて貴重な知見が得られた。12月にはタイのチェンライ県において県内の公立・私立小学校数校での現地調査を実施した。タイの道徳教育は仏教的価値を基盤としつつも、各学校が置かれた地域の実情に合わせて民族・宗教の多様性に配慮した実践が展開されており、その実態の一端を明らかにすることができた。 また、2023年6月に開催された日本比較教育学会第59回大会では、マレーシアの小学校における道徳教育の予備的考察として、カリキュラムにおける道徳教育の位置づけと教育内容について発表を行った。これらの調査は価値の共存を模索する取り組みの一端を浮き彫りにするものであり、研究目的を達成する上で欠かせない成果であった。2024年度は、収集データについて分析を深め、東南アジア諸国の道徳教育の特質を比較考察することで、多様化する社会における道徳教育の可能性と課題を問うていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度となる2024年度は、これまでの現地調査で収集したデータの分析を進めると同時に、補足的な現地調査を実施することで、東南アジア諸国における道徳教育の特質を多角的かつ総合的に考察する。これを通して、多様化が加速度的に進行するグローバル社会の中で道徳教育が果たしうる役割と可能性、また克服すべき課題について理論的・実践的な示唆を得ることをめざす。 各国分析に際しては、道徳教育の法制度・政策の枠組み、カリキュラム上の位置づけとその変遷、教科書等の教育内容、および学校現場の実践動向について、資料分析を中心としつつ必要に応じて補足的な現地調査を実施し、各国の道徳教育の全体像を動態的に描き出す。 さらに、「多様な価値の共存」という視座から、各国の道徳教育の共通点と相違点を浮き彫りにする。具体的には、道徳教育の理念・目標における価値の多様性の位置づけ、多様な民族・宗教・文化的背景を持つ子どもたちへの教育内容・方法の工夫、および各学校の創意工夫に着目した実践分析を、国家・社会、学校・教員、子ども・保護者の重層的な視点から比較考察する。必要に応じて、これまで訪問調査を行った学校や地域において追加の現地調査を実施し、分析の精度を高める。 研究成果の発信については、これまでの国内学会に加え、東南アジアの道徳教育が直面する共通の課題と各国の対応を浮き彫りにするべく国際学会発表を視野に入れてまとめていく。これにより、多様化する社会での道徳教育の意義を問う本研究の知見を広く共有する機会としたい。これらを通して、急速に価値が多様化する現在の日本社会において、道徳教育の意義とあり方が改めて問われる中、本研究の知見を通した学校現場の実践への示唆を提供したい。
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