研究課題/領域番号 |
20K02890
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09040:教科教育学および初等中等教育学関連
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
溝口 和宏 鹿児島大学, 法文教育学域教育学系, 教授 (30284863)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 社会正義 / カリキュラム / シチズンシップ / 米国 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、近年の米国においてシチズンシップ教育の新潮流として高い注目を集めている「社会正義」の教育に係る取組の中で、とくに「社会正義の意識の醸成を図る社会科カリキュラムの展開方法」について国際調査研究を行うものである。 具体的には「社会正義(Social Justice)」の教育の展開を、代表的な実践校や実践者に見られる社会科カリキュラムの調整方法という視点から、中・長期に渡る意図的・計画的なカリキュラムの編成と、子供の学習状況の評価に基づく形成途上での柔軟なカリキュラムの調整・修正の過程と方法について、現地での調査研究の手法を用いて明らかにしようとするものである。
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研究実績の概要 |
2023年度においては、コロナ禍での海外渡航の緩和を受け、前年度末の3月19日~29日の日程で米国テキサス州オースチンとマサチューセッツ州ボストン及び近隣都市の学校を訪問して実施した調査で入手した情報の整理を行った。 テキサス大学オースチン校においては、人種問題の自覚と解決への意識の向上を図るため批判的人種理論など人文・社会科学の成果に基づくカリキュラム構成を志向する立場の論者である、アンソニー・ブラウン教授やシンシア・サリナス教授らと面会し、聞き取りを行い、そこで得られた、批判的人種理論をカリキュラムに取り入れることの必要性や具体的なカリキュラムや授業における内容構成や学習の方法、さらには評価のあり方に係る内容について整理を行った。マサチューセッツ州ボストンにおいては、社会の構造的問題に取り組むことのできる資質育成を図る立場から社会科のカリキュラム改革に取り組んでいる、マサチューセッツ大学のクリストファー・マーテル助教授、およびボストン大学のケイリーン・スティーブンス講師に面会し、カリキュラム編成やその実施に係る研究者や現場教師の考え方を調査した。両氏はともに以前、高等学校の歴史教師であった経験をもとに、とりわけ歴史カリキュラムの改革に取り組んでいることから、社会正義の教育の実現における歴史教育の役割と歴史カリキュラム構成の方法とその特色、さらには評価のあり方について調査した。 年度後半においては、こうした調査内容も踏まえながら、歴史カリキュラムによって社会正義教育の実現に迫ろうとするマーテル氏らのカリキュラム編成の論理やそうした考えに基づく具体的な歴史実践の具体について、社会系教科教育学会第71回全国研究大会にて「社会正義への意識醸成を図る米国歴史カリキュラムに関する研究―活動家アプローチによる市民性教育と社会正義教育の接合に着目して―」の題目で発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
採択当初の2020年度より米国での訪問調査を実施する予定であったが、21年度までは感染状況の拡大と海外への渡航制限のため調査実施は困難であった。その間、文献調査を中心に米国における社会正義の教育について社会科教育の領域での研究動向の整理を進めた。ようやく22年末に米国での訪問調査を実施できたものの、複数年度に渡って渡航することで実施しようとしていた調査の計画を、単年度で実施することとなり、渡航先での滞在期間の短縮化や対象者との面談の時間が十分に確保できないなどの面からも、計画の進捗が大幅に遅れることとなった。 これまで、米国における社会科を中心とする社会正義の教育カリキュラムの展開方法については、社会正義の教育として育成すべき資質・能力や、社会正義が求められる社会課題の捉え方において立場の違いや多様性が見られることは明らかにできている。例えば、人種問題への意識の向上を図るため批判的人種理論など人文・社会科学の成果に基づくカリキュラム構成を志向する立場や、同じく人種問題を扱うにしても、社会の構造的問題に取り組むことのできる資質の育成のため歴史のカリキュラム構成を志向する立場などがある。これらについては、渡米先での調査を通じ、資質・能力の異なりに応じたカリキュラム構成の考え方や方法、評価のあり方を確認するとともに、これらの論を踏まえ学校で実践を展開する教師の営為についても現地での学校訪問を通じて視察することができ、昨年度の学会発表にもつなげている。 しかしながら、滞在時間の不足などもあり、学校における継続的な授業観察や教師への聞き取り調査を十分に展開できていない。社会正義の教育を核としたカリキュラム編成を行うにしても、現場の社会科教師が各州の教育スタンダードの求める内容との整合性を図りつつ、どのようにカリキュラムを編成し展開できているのか更なる調査も踏まえながら検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
社会科における社会正義の教育に関するカリキュラム編成の方法とその論理について、これまで実施してきた米国の訪問調査では、人種問題の自覚と解決への意識の向上を図るため批判的人種理論など人文・社会科学の成果に基づくカリキュラム構成を志向する立場や、社会の構造的問題に取り組むことのできる資質育成のため、民主社会の形成に向けた市民による政治的社会的運動の歴史と方法に基づくカリキュラム構成を志向する立場について、それを主張する社会科教育研究者への面談を実施するとともに、それらの理論的な考えを基にしながら、学校現場において社会正義の視点を取り入れた社会科授業の実践を展開している現地の学校を訪問し視察することができた。 しかしながら、短期での訪問調査にならざるを得ず滞在時間の不足などもあり、学校における継続的な授業観察や教師への聞き取り調査を十分に展開できていない。調査を通じて、理論的なカリキュラム編成の考え方や実際のカリキュラム編成の事例については現地の学校の訪問を通じて視察し得たものの、上記の立場に見られる考え方を共有しつつ、学校現場でカリキュラムを編成している教師の自身の実践に係る情報をもとに、編成の実際と論理を明らかにしていく必要がある。米国での訪問調査の際に知己を得た大学の研究者を介しての教師への調査を進めているところである。 また、訪問調査の際には高等学校の実践を中心に視察を行なったところではあるが、カリキュラム編成やその実施に係る、より具体的な考え方を調査するためにも、実践者に対する調査においては、州のスタンダードや生徒に対する学力調査などの社会的制約条件や、生徒たちを取り巻く地域や学校の社会文化的環境などがある中で、どのように社会正義に係る教育内容や学習活動を展開しているのかという、具体の情報を把握することで、カリキュラムの実際について明らかにしていく。
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