研究課題/領域番号 |
20K02944
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09050:高等教育学関連
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研究機関 | 八戸工業大学 |
研究代表者 |
岩見 一郎 八戸工業大学, 感性デザイン学部, 教授 (70803675)
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研究分担者 |
高瀬 慎介 八戸工業大学, 大学院工学研究科, 教授 (00748808)
橋詰 豊 八戸工業大学, 大学院工学研究科, 准教授 (60803236)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 英語プレゼンテーション / 国際会議 / 英語教育 / 工学研究 / 第二言語習得 / 複言語 / アイデンティティ / 言語社会化 / 国際学術会議 / プレゼンテーション / 熟達 / 第二言語習得研究 / 工学研究活動 / 国際学会 / 複言語話者 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,国際学会で研究発表を行う工学研究科の大学院生のコミュニケーション能力発達に焦点を当てる。研究発表に向けて準備する中で、学生達は様々な機会に海外出身者と交流を行う。彼らが交流活動で利用するのは日本語,英語,場合によっては交流相手の母語である。それらを自己の中に共存させ,多様な言語体験を相互に関連づけて新たにコミュニケーション能力を作り出すことが必要で,これは複言語主義的と考える。本研究では,事前準備の学際的支援プログラム,国際学会での研究発表及び学会参加者との交流等を観察・記録し,学生達の複言語話者としての熟達,アイデンティティの変容について正統的周辺参加論の視点から考察する。
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研究実績の概要 |
本研究の当初の目的は、国際学会で英語での研究発表を行う工学研究科の学生の複言語話者としての熟達,アイデンティティの変容を明らかにすることだった。しかしコロナ禍のために、対面式の国際学会が開催されなくなり、社会的観点から捉えた第二言語習得研究のためのデータ収集ができなくなった。 代替案として、(1)オンライン形式の国際学会での発表、(2)その事前指導と事後振り返り、(3)英語プレゼンテーション能力育成のためのオンライン授業、(4)本学開催の英語プレゼンテーションワークショップでの取り組み、(5)その事前指導、(6)英語圏の大学教員等とのメール交信で、学生を観察したが、指導成果として、英語の使い手、国際学会の新参メンバーとして、若干の変容を確認できた。例えば、国際学会(WCCM2022)で研究発表を行った学生は、質疑応答で行き詰まることがあったが、より簡略な表現への言い換えを質問者に要求している。指導実践での英語での交流が奏功したと考えられる。 意義は、指導実践に学生が前向きに取り組み、僅かだが指導成果が見られたことである。英語教育と工学研究が交差するこの取り組みは、研究代表者の自発的な試みであり、正規の授業科目ではなかったが、学生は英語プレゼンテーション能力向上に継続的に努めた。上述の学生は、事後アンケートで、質疑応答での対応の難しさ、英単語力不足等の課題はあるものの、事前練習が研究発表の後押しとなった旨のコメントをしており、指導実践を肯定的に受け止めていることがわかった。 重要性は、通常の英語科目の枠組みとは異なる次元で英語指導ができたことである。学生が、指導実践以前に上記のオンライン授業を受けたり、英語での発表前の事前練習に参加したりする経験はなかった。様々な経験から、英語での学術交流のやりとりで最低限機能できるようになったことは工学研究教育の一環として特筆できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究活動を行う学生が身につけるべき英語は、生活言語ではなく、学術交流の道具として使える学習言語である。また,学生が研究活動を通して様々な言語話者である研究者と学術交流をすること、就業後に主にアジア圏の就労者と連携することを想定すると、必要なのは、多様な言語、文化、社会的背景の海外出身者と対等な立場で交流を行う能力とその姿勢であり、多様な言語体験を相互に関連づけて新たにコミュニケーション能力を作り出すことが求められると考えていた。 しかしながら、工学系大学の教育現場で学生に対する指導実践を行う中で、置かれた教育環境、地域の実情、社会の情勢等で、軌道修正を余儀なくされた。研究代表者が自ら英語プレゼンテーション能力育成のための授業を行うとともに、英語ネイティブ指導者が常駐していない現状を踏まえ、英語教育専門の一般財団法人と委託契約を結び、所属する英語ネイティブの外部講師を当てていただき、オンライン授業を年間10~12回を行った。また、国際学会での研究発表については、実際に行なった事例もあるが、コロナ禍のために、それらは全て国内でオンライン開催された学会での発表であり、学生は学内に留まって自己のPCを使って、研究発表を行った。英語圏以外の非日本語母語話者との交流は稀で、市内に住み日本語を学んでいる海外出身者と電話で交流した事例のみである。 今後は、国際学会での研究発表をさらに推進するとともに、海外出身者との交流の機会が模索したい。今年度は、本学に留学経験のある中国新疆ウィグル地区出身者で他大学において教鞭を執られている工学研究者と専門研究内容、外国語学習を話題として学術交流する予定である。また、台湾の工科大学との大学間連携も始まることになっており、それらの新しい学術交流では、本研究課題の指導実践の経験が活かされることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の指導実践は、工学系大学の英語教員として英語教育の在り方を見直すきっかけとなり,英語教員としての意識の変容に繋がっている。研究代表者が所属する大学英語教室では、かつてグローバルな技術者育成のための英語教育の試みの柱として、専門教育との連携を意識した英語教育体制の構築を挙げたが、この学内連携路線はさらに推進していくべきと考える。大学英語教育の越境型の取り組みは「脱自己完結型の英語教育」とも呼ばれる(重森臣広ほか、2010、「英語教育における「開放性」-学部の専門性にもとづく脱自己完結型英語教育の考察-」、『立命館高等教育研究』第10号)が、これは英語教育がこれまで守ってきた境界線を踏み越えて、他の科目群や領域との連携を基礎に、英語教育の新しい可能性を切り拓く努力の現れでもあり、本研究課題の指導実践はこの越境型の取り組みの一例と捉えることができる。 一方、研究代表者が英語教員としてこの指導実践に取り組んできた最大のメリットは、コミュニケーション重視の学校英語教育の枠組みに収まっておらず,またテスト中心主義の英語教育から脱却していた点である。学生にとっての最大の関心事は,国際学会(あるいはそれに代わるもの)で質疑応答も含めた研究発表が成就できるか否かであり,それに向かう姿勢は真摯である。英語が必ずしも得意とは言えない学生にとって,国際学会での研究発表及びそれに向けた取り組みは,試験のための勉強とは,異質のものである。それは、本学大学院の使命・目的として謳われている「学術の理論および応用を教授研究し、その深奥を究めると共に、学術研究を通して深い教養と豊かな人間性を涵養し、広く文化の進展と社会の発展に寄与すること」に繋がる。 本研究課題の指導実践は、研究分担者である工学研究科の教員、他の英語指導担当者等との連携をさらに深めながら、指導内容を精査しつつ、進化・発展させたい。
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