研究課題/領域番号 |
20K02960
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09050:高等教育学関連
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
光本 滋 北海道大学, 教育学研究院, 教授 (10333585)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
|
キーワード | 大学改革 / 東大闘争 / 学生参加 / 自治活動 / 大学設置基準 / 国庫助成運動 / 技術職員 / 教育要求 / 1968年 / 大学開放 / 高等継続教育 |
研究開始時の研究の概要 |
「1968年」の大学改革は、欧米では新しい社会批判の理論や社会運動の生成などとも絡めて旺盛に研究されている。日本でもこの時期、各大学でとりくまれた改革は大学の課題をほぼすべて取り上げており、改革の方向としても優れたものを豊富に含んでいた。にもかかわらず、大学はその成果を継承し発展させることができていない。それはなぜなのか。この問いに答えるために、本研究は、「1968年」を歴史的な参照点とし得ていない、日本の高等教育研究の水準が何によってつくりだされたのかを検証する。そのために、同時代の大学改革の内実を明らかにし、理論・実践の到達点と高等教育論の展開に資する視点および課題を明らかにする。
|
研究実績の概要 |
(1)2023年度は、資料の利用に関する大きな進展があった。2024年3月、柴田章ほか東大闘争資料収集委員会が6000点余りの収集資料の整理・電子化を終え、「東大闘争電子資料」として公表した。このことにより、多くの新資料および資料原本にアクセスすることが可能となった。また、東大闘争資料収集委員会による資料の整理・考察は、本研究にも有益な視点をもたらすものとなった。研究代表者は、これまでの研究経緯から東大闘争資料収集委員会への協力を要請され、未整理資料の整理、委員会が課題とする1968-69年当時の新聞等の報道の検証のための基礎資料作成をおこなうこととなった。 (2)東大闘争資料収集委員会のメンバーらとともに、堀尾輝久(東京大学名誉教授)から、1968-69年当時の東京大学の状況、教員の動向、確認書の影響、改革の評価等に関する聴き取りを実施した(2024年1月22日)。聴き取りの内容は文字起こしをおこなった。 (3)近年刊行された大学教育史、学問史等に関する書籍の収集をすすめ、「1968-69年以後」の改革の評価に関する記述の整理をおこなった。近年においても、1968-69年は大学に大きな変化をもたらしたと記述されることは少なくない。しかしながら、当時の大学自治論の展開、学生の参加制度を中心とする制度面の改革の意義を評価するものはきわめて少ない。このことが何を意味するのか解明することは、本研究の課題である。 (4)今日の大学改革に関して数点の論文・論説を執筆し、発表した。2023年12月におこなわれた国立大学法人法の改正は、政府が指定する特定の国立大学法人に運営方針会議の設置を義務づけた。研究・教育組織の改廃に関する教育研究評議会・教授会の実質的な審議権の剥奪を目的とする本改正と照らし合わせて、「1968-69年以降」の教授会に対する批判の意義を解明する必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
以下のようなことが重なり、研究が遅れている。 (1)2023年度、国立大学協会事務局が所蔵していた文書が東京大学文書館へ移管された。東大文書館の所蔵文書となることにより、資料の目録が作成され、資料を体系的に把握しやすくなる。反面、閲覧までの手続きや時間がかかるようになり、多くの資料に総当たりする資料調査は困難になる。 (2)本研究はこれまで、教育制度・教育実践に関する研究的な知見を有する大学院生を研究補助者として雇用することにより、資料の収集・整理、インタビュー記録の作成等をおこなってきた。しかしながら、自身の研究との兼ね合いから本研究の補助業務に時間を割くことのできる院生が少なくなっている。 (3)2023年度は所属機関の分担業務、学外の業務(学会の運営、地方教育史の編纂)が増加した。 (4)対面での資料収集、研究会の開催等は、ほぼ2019年以前と同様に実施できるようになった。くわえて、オンラインを活用した会合をおこなうことにより、移動時間や旅行の負担などを軽減することができるようになった。ただし、オンラインの会合のメリットを生かす上でも、コロナ危機による空白の影響は依然として大きいと言わなければならない。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は、1968-69年において、東京大学における学生と大学との対立をクルーズアップし、これを「大学紛争」としてとらえる見方に疑問を呈し、大都市圏以外の地域の大学等の動向に目を向けることを企図していた。しかしながら、「東大闘争電子資料」の整理・公表を通じて、東京大学の1968-69年の「闘争」のとらえ方に変化が起きつつある。そのなかでは、自主活動・自主研究の経験が卒業後の社会生活に生かされ、その結果が1970-80年代の科学研究の発展に結びついたのではないかという指摘もされている。これらを立証することはたやすくはないが、重要な視点である。 本研究は当初、東京大学のような「全国大学」ではない大学の改革の検討を通じて「1968-69年」の意義を再評価しようと考えていた。しかしながら、2年余りの間、資料調査ができなかったことによる研究の遅れを最終年度に挽回することは困難である。また、このような作業を進める上でも「全国大学」の動向の理解を深めることは重要である。このような理由から、新資料が公開されたことにより可能となった東京大学の改革の再評価に軸足を移すことを含めて、研究のとりまとめの方向を再考する。 東京大学の改革に関する研究は、1968-69年と、それ以降とで分断されている。ここに、上記のような視点を取り入れることで、いくつかの架け橋となる動向を見出すことができるかどうか検討したい。
|