研究課題/領域番号 |
20K03317
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分10010:社会心理学関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
福川 康之 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (90393165)
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研究分担者 |
高橋 雄介 京都大学, 教育学研究科, 准教授 (20615471)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 行動免疫 / コロナウイルス / Covid-19 / 感染嫌悪 / 二重過程モデル / 知能 / 双生児 / 行動遺伝モデル / 感染予防 / 進化 / 行動遺伝学 / 適応 / COVID-19 / 国際比較 / 双子研究 / 感染症 / 感情 |
研究開始時の研究の概要 |
「行動免疫」とは,人が進化の過程で備えるようになった情報処理システムである.人の生存や繁殖を脅かす感染源(保菌者)とみなす対象(外国人や高齢者などの外集団や汚染環境)に出会った際に生じる嫌悪感情や回避行動は,少なくとも部分的には行動免疫の機能の発現と考えられる.本研究の目的は,この行動免疫に関して,国際比較と遺伝的特性に関する検証を行うことである.行動免疫の文化的・生物的基盤を明らかにすることで,パンデミックにおける逸脱的行動,外国人との文化的摩擦,高齢者の孤立や虐待,放射線被ばく食品の不買運動など,行動免疫との関連が推察される課題を解決するうえで有益な知見を得ることが期待できる.
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研究実績の概要 |
2023年度は,二重認知システム (Wason & Evans, 1974),行動免疫,年齢差別(エイジズム)の関係を検討した. 日本人大学生を対象としたウェブ調査によって,以下の指標を得た.1)感染嫌悪:感染脆弱意識尺度日本語版(福川他,2014)の因子の一つで,病原菌への感染に対する不快感に関する意識を測定する尺度である.2)情報処理スタイル尺度日本語版(内藤他, 2004):合理的および直感的な思考スタイルそれぞれを測定する尺度である,3)日本語版Fraboniエイジズム尺度短縮版(原田他, 2004):高齢者への差別意識(エイジズム)を測定する尺度である. 得られたデータに不備があった対象を除き,最終的に139名(男性45名,女性94名:18~27歳)を分析対象とすることとした. データを分析したところ,女性の感染嫌悪は男性よりも高かった(p < .01),一方,男性の合理的思考スタイルは女性より高かった(p < .05).また,男性では合理的思考スタイルが年齢差別と負の相関があるのに対し(r = -.30,p < 0.05),女性では感染嫌悪が経験的思考スタイルと負の相関があることが示された(r = -.25,p < 0.05). つづいて合理的・直感的という2つの思考スタイルが,それぞれ感染嫌悪とエイジズムとの間の因果関係を媒介する,という仮説を,構造方程式モデリングの手法を用いて検証した.ブートストラップ法による分析の結果,因果モデルの適合度指標は,それぞれCFI=0.683,TLI=0.669,RMSEA=0.073 (95% CI = 0.068:0.078) となり,仮説で想定したモデルが必ずしもデータに適合していないことが示された. 本研究の結果は,感染脅威とエイジズムのような差別を結び付ける,より洗練された認知モデルを構築する必要性を示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
行動免疫とは,人が進化の過程で備えるようになった情報処理システムである.人の生存や繁殖を脅かす感染源とみなす対象(外国人や高齢者など)に出会った際に生じる嫌悪感情や回避行動は,少なくとも部分的には行動免疫の機能の発現と考えられる.新型コロナウイルス感染症のパンデミックは,感染症の蔓延が行動免疫の活性化を通じてさまざまな不適応行動を生じさせることを改めて思い出させるものであった. 「行動免疫の文化的基盤」に関しては,これまで,コロナ禍における行動免疫とコロナ前のそれとを比較するなどにより,行動免疫がどのような条件で活性化するかを検討してきた.例えば,オンライン調査の結果,以下の結果が得られた.1)コロナ前よりコロナ後は易感染性(感染症への罹患しやすさの自覚)と感染嫌悪(病原体が付着しやすい状況に対する不快感)のいずれも高い.2)易感染性と感染嫌悪はいずれもコロナ状況と無関係に女性が男性より高い.3)コロナ後は男女とも高齢者ほど感染嫌悪得点が高い. 他方,「行動免疫の生物的基盤」に関しては,日本人の双生児データを用いて,行動免疫システムの個人差を測定するいくつかの指標とパーソナリティ特性との関連に関する多変量遺伝分析を進めた.その結果,行動免疫に関わる個人差とパーソナリティ特性の個人差の間に有意な表現型相関はほとんど確認されず,それらの間の関連性のほとんどは環境要因を媒介したものであることが明らかとなった.加えて,同じく双生児標本から得られたデータを解析し,以下の結果が得られた.1)病原嫌悪には51%,道徳嫌悪には39%の遺伝率が確認され,それらの遺伝要因は完全に同一であった.2)行動免疫とパーソナリティ特性との関連を検討したところ,嫌悪感受性とBigFiveの間の表現型相関と弱く正に相関することが明らかとなった.
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」で示した通り,2023年度に検討した二重過程モデルは,行動免疫の発現メカニズムを十分説明するものではなかった.ただし,いくつかの指標や指標間の関連には性差が認められたことから,今後行動免疫の発現メカニズムに関する研究を進める際には,性別に配慮することを検討している. 一方で,コロナ禍という不慮の事態に影響を受けたものの,「行動免疫の文化的基盤」に関しては,2023年度までに当初の目的と同等の研究をおおむね実行することができた.そこで最終年度となる2024年度は,2023年度の結果を含めた全体的な研究成果を,国際学会等で発表することとしたい.2023年度の研究状況は,コロナ禍の頃と比べてかなり改善された.このため,対面式の学会にて研究成果を発表することで,本研究の意義を世界の研究者に紹介するとともに,今後の発展的な研究に向けたアイディアを得られることが期待される. 他方,コロナウイルスへの感染リスクが減じつつある状況のなかで,一時は制限されていた唾液による生物学的マーカーを用いた行動免疫の研究も容易となった.白血球の働きのように,ヒトは本来,ウイルスやバクテリアによる健康被害を回避するための身体的な免疫システムを備えている.しかし,このような身体・生理学的な免疫システムと行動免疫のような心理学的システムとの関連は十分検討されてこなかった.そこで2024年度は,「行動免疫の生物的基盤」を検討する際の一つのアプローチとして,行動免疫の活性と唾液マーカー,特に免疫グロブリンの活性との対応を確認する.本研究ではこれまで,主として遺伝のような究極要因を想定したアプローチで検討を続けてきた.これに唾液のような至近要因からの検討を加えることで,「行動免疫の生物的基盤」に関して,一層十全な知見が得られることが期待される.
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