研究課題
基盤研究(C)
本研究では,他者の内的な状態を汲み取る能力である「心の理論」が,社交不安症の主症状である極度の対人緊張に与える影響を,実験的な手続きを用いて評価することを目的とする。児童青年期の対象者に,パソコン上で実施できる表情読み取りの課題や,他者の意図・文脈の読み取り課題を実施し,対象者の年齢や性別,自閉スペクトラム症傾向などの影響を加味した上で分析を行う。
心の理論(ToM)は他者の内的な状態や信念について推測する能力であり,社交不安症と関連することが報告されている。しかし,これまでの研究では,高社交不安者はToMも高いために過敏性が生じるとする「高度社会的認知能力仮説」と,ToMが低いために不安が生じるとする「社会的認知欠損仮説」の双方を支持する研究があり,明確な結論が導かれていない。本研究では,ToMを測定するための課題としてReading the Mind in the Eyes Test(RMET)を用いて,社交不安とToMの関係性を明らかにすることを目的とした。特に本年度は,昨年度報告した大学生データとの比較検討のために,中高生各500名のRMETデータを収集し,RMETに対する認知発達の影響性の検討を行った。はじめに,RMETの刺激ごとの正答率を算出したところ,中学生では18.2%~77.8%,高校生では24.8%~73.6%とばらつきが大きかった。正答数の中央値は中学生で36刺激中17(47%),高校生で19(53%)であり,高校生の方が若干高かったものの,5割の前後の対象者が50%以上の正答率を示した。学年(中学生/高校生)と性別を要因とする分散分析を行ったところ,社交不安症状とRMETの正答数は中学生よりも高校生で,男子よりも女子で高かった。社交不安症状の高低によって群分けを行い,抑うつ症状と自閉スペクトラム症傾向を統制した上で分析したところ,社交不安特性が高い者はそうでない者と比べて,また女子は男子と比べて,他者の表情に対して敏感であり,読み取りの能力が高いことが示唆された。これらのことから,RMETは認知発達の影響を受けるものの,年齢の別によらず,概ね高度社会的認知能力仮説を支持する結果が得られたと考えられた。
3: やや遅れている
新型コロナウィルス感染症の流行により,初年度にデータの収集が行えず,昨年度研究計画を一部変更したことにより研究は進展しているものの,全体のスケジュールとしてはやや遅れている。
今後は感染症対策も落ち着き,対面でのデータ収集に関する制限が緩和されることが期待されるため,知能検査等を含めた,より精緻な測定ができるようになると考えられる。一方で,スケジュールに遅れが生じているため,研究期間の延長や,「心の理論」を測定する課題を1種類に限定するなどの計画の変更を検討する必要がある。
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目白大学心理学研究
巻: 19 ページ: 15-27
European Journal of Education and Psychology
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10.32457/ejep.v15i2.1964
Journal of Behavioral and Cognitive Therapy
巻: - 号: 3 ページ: 205-213
10.1016/j.jbct.2021.01.003