研究課題
基盤研究(C)
本研究では,他者の内的な状態を汲み取る能力である「心の理論」が,社交不安症の主症状である極度の対人緊張に与える影響を,実験的な手続きを用いて評価することを目的とする。児童青年期の対象者に,パソコン上で実施できる表情読み取りの課題や,他者の意図・文脈の読み取り課題を実施し,対象者の年齢や性別,自閉スペクトラム症傾向などの影響を加味した上で分析を行う。
心の理論(ToM)は他者の内的な状態や信念について推測する能力であり,社交不安症と関連することが報告されている。前年度までに,中学生,高校生,大学生を対象にアジア版Reading the Mind in the Eyes Test(RMET)を実施し,社交不安症状との関連性について調べたところ,年代にかかわらず,社交不安特性が高い者はそうでない者と比べて,他者の表情に対して敏感であり,読み取りの能力が高いことが示唆された。さらに,RMET得点は認知能力の影響を受けることが示唆されたため,本年度は学生の通学する学校の種別(国立/私立/公立,共学/男子校/女子校,中高一貫校,全日制/定時制/通信制)がRMETと社交不安症状に及ぼす影響について検討した。その結果,中学生と高校生のどちらにおいても,共学校の学生のRMET得点が男子校,女子校の学生よりも高かった。一方,社交不安得点も共学校では男子校よりも高くなることが示された。このことから,男女別学の学生は異性の視線を意識しない分,人から評価されることに対する不安を共学校の学生ほど感じなくて済むが,他者の内的な状態を推測する能力は,多様な学生のいる学校ほど育まれる可能性が示唆された。同様に,定時制や通信制よりは全日制,国立よりは私立と公立,中高一貫校よりはそうでない学校の学生の方が,RMET得点が高いことが示された。総じて,対人接触が多く,さまざまな人とかかわる機会があることが,心の理論の発達を促すものと考えられた。次年度は,認知能力がRMETに及ぼす影響について,さらに精緻に検討するとともに,ToMの発達が社交不安症状の低減を予測するかについて分析を行う。
3: やや遅れている
初年度に新型コロナウィルスの影響でデータの収集が出来なかったことから,研究期間を1年延長することとした。次年度は発達の影響を精査するためのデータを収集し,これまでの研究成果を取りまとめる予定である。最終報告のめどが立っているが,年度内にすべてのデータの収集が終わらなかったことから,「やや遅れている」と評価した。
これまでの協力者のうち,中高生だった1000名に改めて実験協力の依頼を行う。その上で,二時点データの解析を行い,時間経過による認知発達とともにRMET得点に変化があるか,また得点変化が社交不安得点の変化を予測するかを検討する。
すべて 2023 2022 2021
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件)
目白大学心理学研究
巻: 19 ページ: 15-27
European Journal of Education and Psychology
巻: 15 ページ: 79-96
10.32457/ejep.v15i2.1964
Journal of Behavioral and Cognitive Therapy
巻: - 号: 3 ページ: 205-213
10.1016/j.jbct.2021.01.003