研究開始時の研究の概要 |
令和2・3年度は, 「KR加群は結晶基底を持つ」という予想の証明のために必要な, KR加群のベクトル列の帰納的な構成に関し, 研究を行う。令和4年度は, このベクトル列の帰納的な構成に関する知見を活かし, 比較的扱いが容易なKR加群に対し, 証明を与える。令和5年度は, 型によらない統一的な証明を与える。
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研究実績の概要 |
昨年度に引き続き, 拡大T系の一般化について研究を行った。ここで拡大T系とは, Mukhin-Youngにより得られた, 蛇加群が満たす短完全列である。研究代表者は, 蛇加群の一般化である「一般化蛇加群」を, 量子アフィンSchur-Weyl関手を用いて強双対データから構成した。またこの一般化蛇加群もまた, 蛇加群の場合同様拡大T系を満たすことを示した。これらの証明は元の蛇加群の場合においても, 別証明を与えるものであり, 興味深い結果である。加えてこれらの一般化蛇加群の場合の拡大T系について, 具体例をいくつも考え, 考察を行った。これらの一連の結果について論文として執筆し, 雑誌に投稿した。現在アクセプトを受けている段階であり, 近々出版される予定である。またこの結果について以下の研究集会で発表を行い, 周知に努めた。 ・Advances in Cluster Algebras 2024, 名古屋大学, 2024年3月 (国際集会) ・東工大表現論セミナー, 東京工業大学, 2023年6月 また近年得られたVaragnolo-Vasserotによる, critical convolution代数を用いた量子アフィン代数の有限次元加群の構成に関する研究に触発され, 同様の加群の構成が箙Hecke代数でできないかについて, 研究を行った。今のところまだ研究は発展途上の段階ではあるが, 非常に特殊な場合にはそのような構成が可能である, という感触を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
拡大T系の一般化という結果は, Kirillov-Reshetikhin加群の亜種が, 量子アフィン代数の有限次元単純加群の中で, とりわけ良い性質を持つことを示す結果であり, 大変興味深いと感じている。本研究成果が論文の形で出版が決まったこともその一つの証左であろう。これらのことから, 研究は順調に進展していると言ってよいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
Varagnolo-Vasserotの, critical convolution代数を用いた量子アフィン代数の有限次元加群の構成に関する一連の仕事は, 本分野へのインパクトが極めて大きいものである。研究代表者は, 今後この研究で用いられた手法を箙多様体などの他の代数に対して適用することで, 新たな結果を得ることを予定している。またそれとは別に, critical convolution代数と団代数との関係性についても強い関心を持っており, 特に団代数における変異の幾何的実現について, 研究を行っていきたいと考えている。
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