研究課題/領域番号 |
20K03568
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分11010:代数学関連
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
斉藤 義久 立教大学, 理学部, 教授 (20294522)
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研究分担者 |
神保 道夫 立教大学, 理学部, 名誉教授 (80109082)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 量子群 / 楕円ルート系 / 量子包絡代数 / 箙多様体 |
研究開始時の研究の概要 |
近年,弦理論や可積分系等の分野で『量子トロイダル代数(QTA)』と呼ばれる代数系が注目されている.本研究では,楕円ルート系の理論,および幾何学的表現論の手法を用いて,QTAの構造論・表現論を純粋数学の立場から研究する. 楕円ルート系とは,特異点理論に起源を持つルート系の拡張概念で,QTAは楕円ルート系をルート系に持つ.現状で行われているQTAに関する研究はその多くが具体例の解析に基づくものであるが,本研究では楕円ルート系を基本に据え,QTAをより統一的な立場から研究することを目的としている.
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研究実績の概要 |
今年度に行った研究は以下の通りである. (1) 非被約な楕円ルート系に関する研究,(2) 楕円ルート系に付随するリー代数の研究 (1)について:昨年度から引き続き行った研究テーマである.昨年度までの研究で, (i)非被約な楕円ルート系の分類, (ii)楕円図形による分類結果の視覚化, 及び各ルート系の構造をより明確化, の2点に成功していたが,本年度はこれらに加えて, (iii)各ルート系の自己同型群の決定, (iv)対応するワイル群の構造の決定(楕円図形に付随する生成元と基本関係式の導出)を行った.今年度の研究により,非被約な楕円ルート系を調べるための基本的なデータは,ほぼ出そろったと考えている.また,本テーマに関する研究成果を国内外の研究集会(国内3件,海外1件)で発表した. (2)について:楕円ルート系に付随するリー代数としては, トロイダルリー代数が知られている. これは半単純リー代数に2変数のローラン多項式環をテンソルして, その普遍中心拡大として得られるリー代数で,本課題の主要テーマである量子トロイダル代数の古典極限にもなっている. ただし,トロイダルリー代数と関連するのは一部の楕円ルート系だけであり,『一般の楕円ルート系に付随するリー代数とは何か?』という問いに解答を与えることは,これまでは出来ていなかった.今年度はこの課題に取り組み,(i)アフィンリー代数の場合によく知られた『ねじれ構成』を楕円ルート系に拡張することで,全ての楕円ルート系に付随するリー代数を構成し,(ii)構成されたリー代数の一部に対しては,楕円図形に基づく生成元と基本関係式による表示を得た.特に, (ii)の生成元と基本関係式による表示は,構成されたリー代数の量子化(一般量子トロイダル代数)を構成する上で,基本的な結果であると考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度はコロナ禍以前の状況にほぼ戻ったと言って良く,複数回の国内外出張を行うことが出来た.特に,6月のドイツ,3月のフランスで行った海外研究者との共同研究は,非常に有益だった.研究発表も4件行い,関連研究者との活発な交流も行うことが出来た.また著作物に関しては,現在3編の論文を準備中で,うち2編は間も無く専門誌に投稿する予定である.年度内の投稿が間に合わなかった点に不満が残るが,本年度の成果は満足出来るものと言って良い. 具体的な内容に関しては,『研究実績の概要』の(2)で述べた『楕円ルート系に付随するリー代数の研究』に着手できた点が非常に大きい.半単純リー代数と2変数ローラン多項式環のテンソル積の普遍中心拡大としてられるトロイダルリー代数は,楕円ルート系をルート系に持つ.しかしながら,トロイダルリー代数に対応するのは一部の楕円ルート系のみである.既存の研究の中にも,一般的な楕円ルート系に対応するリー代数を構成する試みは存在するが形式的な拡張の範疇を超えるものではなく,いささか不満の残るものであった.実際,これらの構成では構成したリー代数に対して,ルートの重複度を計算することが出来ない.これは将来的に表現の構造(指標公式)を計算する上で,重大な問題となる.他方,報告者による『楕円ルート系に付随するリー代数のねじれ構成』では,ルートの重複度を完全に決定出来る.この点が既存の研究と今回の研究の決定的な差である. 本年度の研究への自己評価としては,(i) 国内外での共同研究・研究発表を十分に行うことが出来た点,(ii) 次年度以降の研究に繋がる新規性のある研究に着手したこと,の2点は満足のいく成果であると言えるだろう.しかしながら,コロナ禍による研究の遅延は否定できず.これを取り戻すことは出来なかった.従って,全体としてはマイナスの自己評価を与えざるを得ないと考える.
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今後の研究の推進方策 |
研究の最終年度である2024年度は,本研究で得られた成果を積極的に発表していく予定である.まず,執筆途中の2編の論文については早急に学術雑誌への投稿を行いたい.また,口頭発表については,国内2件(2024年6月と7月. いずれも招待講演)が既に確定しており,9月には海外発表を行う可能性がある. それ以外にも国内外での研究成果の発表を積極的に行って行きたい. 具体的な研究内容に関しては,次の2点を行う予定である. (1) 楕円ルート系に付随するリー代数の研究とその量子化:本年度に行なった『ねじれ構成に取るリー代数の構成』をさらに発展させ,(i) 全ての楕円ルート系に付随するリー代数の構成とその構造解析,(ii) (i)の成果の量子化,の2点を目標とする.ねじれ構成を用いて定義したリー代数のルートの重複度は計算は本年度で完了しているので,次年度は『楕円図形に基づく有限個の生成元と関係式による表示』を全ての楕円ルート系に対して完成させたい.また,この方向性の先に,全ての楕円ルート系に付随する量子代数の構成がある.現状,トロイダルリー代数に対しては,その量子化(量子トロイダル代数)が知られているが,それ以外のケースでは対応する量子化は知られておらず,新規性の高い研究になり得る. (2) 変形トロイダルリー代数に付随する可積分系の研究:これは,昨年度の研究報告書に『2023年度の課題』として挙げたテーマであるが,それ以外の研究が予想以上に進展したためにそちらに多くの時間を費やしていまい,当初の予定通りに研究を進めることが出来なかった.2024年度は途中で止まった研究を再開し,年度内に研究成果をまとめたい.具体的には2022度に構成した変形トロイダルリー代数の頂点表現を用いて,これに付随する可積分系の導出を行う.必要な理論構成はほぼ終わっているので,年度内に十分な成果が得られると考えている.
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