研究実績の概要 |
向き付け可能閉曲面の微分同相写像のアイソトピー類のなす群を写像類群という。Dehn-Lickorishの定理やHumphriesの定理で知られるように, 写像類群は有限個のDehn twistで生成される。有限生成系が与えられると最小の生成系を与えようという問題が考えられるが、この問題に最初に答えたのはWajnrybである。彼は写像類群が2元で生成できることを示した。写像類群は1元で生成できないことが知られているので、Wajnrybの生成系は最小である。この研究以降、様々な写像類群の最小の生成系を与えようという研究が多くの数学者たちによりなされてきた。申請者は、この研究をより精密化し、『写像類群の最小の正規生成系を与えよ』という問題を考え取り組んだ。NielsenとThurstonの結果により、写像類群の元は、周期的、既約、擬アノソフの3種類に分類できることが知られている。ただし, 周期的な元からなる集合と既約な元からなる集合には共通部分がある。これまでに, この分類に従って以下のような写像類群の最小の正規生成系(1),(2),(3)が与えられている。(1)周期的かつ既約でない元からなる最小の正規生成系(Korkmaz), (2)周期的かつ既約な元からなる最小の正規生成系(Yildiz), (3)擬アノソフの元からなる最小の正規生成系(廣瀬-門田, 昨年度)。これらの結果に対し, 今年度では, 既約かつ周期的でない元からなる最小の正規生成系を与えた。正確に述べると、向き付け可能曲面の種数が8以上であれば、写像類群は既約かつ周期的でない2つの共役な元で生成できることを示した。また、写像類群の重要な部分群である超楕円的写像類群に対しても同様の結果を与えた。
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