研究課題/領域番号 |
20K03628
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分12010:基礎解析学関連
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
佐々木 格 信州大学, 学術研究院理学系, 准教授 (50558161)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 解析性 / 量子場 / Bogoliubov変換 / accretive作用素 / 場の量子論 / スペクトル解析 / 量子場の数学的解析 / 量子場の散乱理論 / ボゴリューボフ変換 / 対相互作用模型 / Pauli-Fierz模型 / 対角化 / 基底状態 / 量子場の数理解析 / 作用素解析 |
研究開始時の研究の概要 |
量子場は,光や電子などの素粒子や,原子の集合体である物質を記述するための基礎となる数学的概念である。量子場に関連する物理量は,すべて生成・消滅作用素と呼ばれる正準(反)交換関係を満たす作用素から作られる。本研究のテーマの一つであるBogoliubov変換は生成・消滅作用素を正準(反)交換関係を満たす別の作用素にうつす変換である。いくつかの量子場の模型は,Bogoliubov変換によって対角化される。また,Bogoliubov変換で対角化できない模型についても,この変換を用いてその量子場の解析を行うことが可能であり,本研究の目的はそのような一般的構造を明らかにすることである。
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研究実績の概要 |
2023年度は対相互作用模型の基底状態エネルギーおよび基底状態の解析性の研究を進展させた。対相互作用模型はBogoliubov変換によって対角化されることが, [MSU] Matsuzawa, Y., Sasaki, I. & Usami, K. Explicit diagonalization of pair interaction models. Anal. Math. Phys. 11, 48 (2021) によって示されていた。これによって抽象的な2次の相互作用を含む模型が,具体的なユニタリ変換によってある1粒子作用素の第2量子化作用素の形に変換できる。したがって,その基底状態エネルギーや基底状態の形をある解析可能な形に特定することができる。 そこで,次に問題となるのは,その基底状態エネルギーや基底状態を計算することができるのかということである。物理学においては摂動法という級数展開法によって様々な物理量の期待値が計算されるが,その級数の収束については通常議論されないし,摂動級数の一般項を書き下して級数の収束を示すことは容易なことではない。我々は,この問題に取り組み,基底状態エネルギーや基底状態の解析性を示すことに概ね成功した。具体的には,結合定数を複素領域に拡張し,m-accretive, m-sectorialといった作用素を考え解析することとなったが,具体的な級数展開はせずに複素領域における正則性を示すことで解析性を証明した。ここで作られた(おそらく)新しい数学的な技術は,m-accretive作用素に対するHeinzの不等式である。この研究成果については現在論文執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述の対相互作用模型の解析性の研究は昨年度から引き続き行なっているものである。 昨年度まではレゾルベントの級数展開を用いた解析性の証明法をとっていた。しかしこれでは,結合定数に対する収束半径が我々が予想するものより30%ほど小さくなってしまうことが判明した。我々が求めるものはこの模型に対する完全な解析性の結果であったため,方針を変更して解析性を示す代わりに,複素領域に対する正則性を示す方向に方針を変えた。これによって,非常に見通しが良くなり,また数学的にも洗練された結果となった。具体的には,双極近似のPauli-Fierzに対する解析性は非常に煩雑であったが,今回の方針転換により,非常に見通しが良くなり,しかも予想に反して,これは結合定数が複素領域のある帯状領域で正則であることが示された。これは,収束半径が有限であったとしても,無限に解析接続することができることを示している。 また,副産物として必要であったm-accretive作用素に対するHeinz型の不等式は,純数学的にも興味深いものである。他には,Bogoliubov変換を真空に作用して得られるベクトルに対する評価式を導出した。ある条件下ではこれはフォック空間内で収束することが知られていたが,なぜかこれに対する評価式が得られていなかった。今回執筆中の論文でこれを発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
対相互作用模型の基底状態や基底状態エネルギーの解析性の研究は予想に反して時間を要してしまった。これを早く執筆し,完成させて次の問題に進む予定である。 次に予定している問題は(1)特異な条件下での対相互作用模型の対角化 (2)一粒子ハミルトニアンが零固有値を持つ状況での対相互作用模型の対角化 (3)熱浴中にある量子場の模型の平衡への緩和 (4)非可換な2次の相互作用をもつ対相互作用模型の対角化である。 (1)について:結合関数が一粒子ハミルトニアンの-1/2乗の定義域に入らない場合は上述の[MSU]に含まれない場合で,この場合に模型を対角化する問題は次に考えられる問題である。これについて部分的な進展はあるが,ハミルトニアンを対角化するようなユニタリ変換を構成するまでには至っていない。(2)について:Bogoliubov変換は豊富な応用を持つ数学的技術であり,近年でも量子多体系に対してBose-Einstein凝縮の研究でも用いられている。その際に用いられたのは1粒子作用素が零固有値を持つ場合であるが,これは[MSU]には入っていない。そのため,このような状況が含まれるように[MSU]を拡張しておくと今後の研究に便利であろう。(3)について熱浴と相互作用する量子場の系の解析には,下に非有界なリュービル作用素の解析が必要となる,したがって,相互作用系のスペクトルも下に非有界となる。したがって,これを解析するためには下に非有界な作用素に対するBogoliubov変換の理論を新たに作る必要がある。(4)[MSU]においては,すべての相互作用場は非可換であると仮定される。この仮定を除去することができれば,更に応用範囲は広がる。相互作用場が1つのみの場合は対角化できることが知られているため,これを適切に繰り返すことで非可換な場に対する拡張が得られる。
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