研究課題/領域番号 |
20K03654
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分12010:基礎解析学関連
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
井上 昭彦 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 教授 (50168431)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2020年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | テプリッツ行列 / テプリッツ系 / 明示公式 / 多変量長期記憶モデル / 線形時間アルゴリズム / 有限予測 |
研究開始時の研究の概要 |
「予測理論における表現定理とその応用」の原形は研究代表者の2000年の論文により導入され、その後、研究代表者とその共同研究者が中心となって発展させてきた。特に最近は、この理論の多変量への拡張、ARMA (自己回帰・移動平均) 型連続時間定常増分過程の新生過程による閉形式表示とマルコフ埋め込み (進行中)、離散時間多変量 ARMA 過程の有限予測係数の閉形式表示、離散時間多変量 ARMA 過程のテプリッツ系の線形時間アルゴリズムの開発の見通し (進行中)、等の新展開およびその芽が、次々と生まれている。本研究では、これらを基に、この理論をさらに発展させる。
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研究実績の概要 |
(1) 研究代表者は、2023年2月出版の単著論文で、minimalityとよばれる性質を持つ多変量離散時間定常過程を考察し、そのブロック・テプリッツ行列の逆行列に対する新しい明示公式を導いた。さらに、その明示公式の次の二つの応用を示した:(i) 短期記憶多変量過程のテプリッツ系に対するBaxter型定理、(ii) 多変量ARMA過程のブロック・ テプリッツ行列の逆行列に対する閉形式公式とそれによりテプリッツ系を解く超高速アルゴリズム。 (2)(1)の二つの応用は、短期記憶過程に対するものであった。しかし、研究代表者のテプリッツ行列の逆行列に対する明示公式は、minimalityという弱い条件で成り立ち、特に、代表的な多変量長期記憶過程に対しても成り立つ。そこで、J.Yang 氏 (台湾 Academia Sinica) と研究代表者は、2021年度に、上記ブロック・テプリッツ行列の逆行列に対する明示公式を、多変量長期記憶過程に応用するプロジェクトを開始し、対応するテプリッツ系に対するBaxter型定理に関して、ある程度の成果を得た。 (3) (2)の多変量長期記憶過程のテプリッツ系に対するBaxter型定理は不完全なものであったが、研究代表者とJ.Yang氏は、2022年度に議論を大幅に改良することに成功し、完全なBaxter型定理を証明した。ここで鍵となったのは、ブロック・テプリッツ行列の逆行列の評価に関する局所的な観点の導入である。これらの成果は、研究代表者とJ.Yang氏の共著論文としてジャーナルに投稿済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究代表者のテプリッツ行列の逆に対する明示公式に関して、2023年2月出版の論文では、短期記憶過程に対するものに限られていた。しかし、明示公式自体は長期記憶過程に対しても成り立つので、より興味深い多変量長期記憶過程に対する明示公式の応用例を示すことができれば、この明示公式の有用性がさらにはっきりすることになる。このような状況下で、2021年度にJ.Yang氏と研究代表者により共同で行われた研究は、多変量長期記憶過程に対する応用という方向性において一定の成果を収めたものではあったが、不完全な結果でもあった。引き続き行われた2022年度のJ.Yang氏と研究代表者の研究は、この不完全さを解消し、多変量長期記憶過程に対する明示公式の応用としてとして完全なものとなった。すなわち、多変量ARFIMA過程のテプリッツ系に対するBaxter型定理を示した。この成果は、当初の計画では想定していなかったものである。以上の理由により、現在までの進捗状況は、当初の計画以上に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
以下の二つを中心に研究を進めていく:(i) J.Yang氏との共同研究を通じて、「ブロック・テプリッツ行列の逆行列の局所的な評価」という新しい観点が得られた。J.Yang氏との共同研究をさらに続けて、この観点をさらに発展させていく。具体的には、まず、短期記憶過程に対する既存の結果をこの観点から見直し、より精密な結果に改良する。(ii) 別の研究目的としてあげている「動的確率従属性解析の手法の開発とファイナンスヘの応用」の研究を続ける。基礎となる「過去の未来の交差性」に関して、よい見通しが得られているので、研究をさらに進め、論文にまとめる。
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