研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、シュレディンガー作用素の平方根に相当するディラック作用素のスペクトル解析を考察した. 非コンパクト型対称空間上のシュレディンガー作用素に対するスペクトル分解定理(プランシュレルの定理)とは異なり, ディラック作用素に対するプランシュレル定理には極小放物型部分群以外の尖形放物型部分群に対応する主系列ユニタリ表現が現れる. 非コンパクト型対称空間上のディラック作用素の尖形放物型部分群に応じたスペクトル解析の理論の構築は, シュレディンガー作用素の各放物型部分群に付随する無限遠境界に応じた幾何学的散乱理論構築の土台となり得るものと考えられる. いくつかの特別な型の対称空間上における, ディラック作用素に対する一様レゾルベント評価と極限吸収原理について, 3つの研究集会で招待講演を行なった. また, 研究集会に参加した際に得られた文献情報をもとに, 前年度に得られたレゾルベント評価をより精密な評価に改良することができた. ディラック作用素に対するスペクトル解析の議論をもとにして, シュレディンガー作用素に対して各放物型部分群に付随する無限遠境界に応じた幾何学的散乱理論について考察した. 対称空間が複素型と呼ばれる特別な型の場合に, レゾルベントの境界値に対して無限遠漸近展開を考察し, 既存の結果として得られていた正則な無限遠境界上の散乱行列を無限遠境界全体に拡張することができた. また, この結果について1つの研究集会で招待講演を行なった.
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