研究課題/領域番号 |
20K03678
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分12020:数理解析学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岸本 展 京都大学, 数理解析研究所, 講師 (90610072)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 非線形シュレディンガー方程式 / 微分型相互作用 / 非局所型相互作用 / 初期値問題の適切性 / 漸近挙動 / 解の一意性 / 短時間フーリエ制限法 / ゲージ変換 / エネルギー評価 / 周期境界条件 / 共鳴相互作用 / 解の非存在 / 関数方程式論 / 非線形分散型方程式 / 解の正則性 |
研究開始時の研究の概要 |
時間発展を伴う非線形偏微分方程式においては,対応する線形方程式の性質と非線形性による影響とのバランスに応じて多様な振る舞いの解が現れる.本研究では線形部が分散性を持つ非線形発展方程式において,共鳴型の非線形相互作用に内在する放物型性に着目し,その発現メカニズムや解の挙動に与える影響について精密に調べることを目標とする.このような共鳴相互作用による解の性質変化は物理現象のモデルとされる方程式においても確認されており,本研究が進展すればモデル方程式の導出に対する示唆を与えられるなど分野横断的な波及効果が期待される.
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研究実績の概要 |
本研究課題では非線形分散型偏微分方程式を扱っており,特に非線形性が解の局所的・大域的性質に本質的な影響を与えるような問題を対象としている.本年度はこれまでの研究成果を基にいくつかの国際共同研究を始動し,特に次の2つの研究について進展があった. 1. 非局所型・微分型の3次非線形項を持つシュレディンガー方程式(以下KDNLS)について,これまで示されていなかった数直線上の初期値問題に対する時間大域解の存在に関する共同研究をK.Lee氏(KAIST)と行った.Germain, Masmoudi, Shatahらによる時空間共鳴の理論をこれまでに整備したゲージ変換の理論と組み合わせることにより,空間遠方で減衰する小さい初期値に対して時間大域解の存在と漸近挙動が明らかになりつつある.非局所項を持たない従来の微分型非線形シュレディンガー方程式(以下DNLS)と比較して,非局所性によりゲージ変換後の方程式に空間遠方で非有界な関数を係数とする項が現れるため,直接評価とエネルギー評価を織り交ぜて慎重に処理する必要があった. 2. DNLSに対する初期値問題の解の一意性については,方程式の分散性に基づいた解の時空ノルム評価式と,ノーマルフォーム変換(時間変数についての部分積分による方程式の変形)を無限回行う手法とを組み合わせることが有効であることがわかっていた.本研究では,これら2つのテクニックを用いる箇所を上手く分離する方法を見出し,証明を大幅に見通し良くすることに成功した.これはD.Pilod氏(ベルゲン大学)およびR.Mosincat氏(フロリダ工科大学)との議論を通して得たアイデアであり,これまで無限ノーマルフォームが技術的に困難と考えられていた問題にも応用できる可能性がある.DNLSに関する研究成果は現在学術論文として取り纏め中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画の開始当初は,新型コロナウイルス感染症をめぐる情勢により国内外の研究者との共同研究が困難な状況であったが,前年度後半より研究目的の海外渡航を再開し,いくつかの国際共同研究を立ち上げるに至った.特にKDNLSに関するLee氏との共同研究は,本年8月の韓国での研究発表を聞いた同氏に持ち掛けられたものであるが,ここまでの研究で培ったゲージ変換の技法と同氏が専門とする時空間共鳴理論とが上手く融合した結果,これまでなされていなかった数直線上の初期値問題に対する時間大域解の漸近挙動の解明まであと少しのところに来ている.加えて,本年5月から6月にかけてのベルゲン大学訪問ではPilod氏,Mosincat氏と集中的に議論し,両氏が得意とする線形解の分散性を利用した非線形解の先験評価の手法を深く理解するとともに,ノーマルフォーム変換の理論との融合によるさらなる発展の可能性を見出すに至った.このように国際共同研究を通して,研究計画上の困難を克服し研究を加速させるための重要な知見やアイデアを獲得することができている.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では,複雑な非線形構造を持ち得る一般の問題に対して共鳴相互作用と適切性・非適切性の関係を明らかにすることを目標に挙げていた.しかし,これまでの研究でKDNLS等の明確な共鳴相互作用を持った方程式を深く解析し,初期値問題の適切性をはじめとする基本的な性質を明らかにしたことで,より発展的な問題に取り組む準備が整った.また,複数の国際共同研究を進める中で研究の幅が広がっており,これまで困難と考えていた問題に対しても現実的に挑戦できる段階に来ている.今後取り組むべき具体的な問題として以下を計画している. 1. KDNLSに関するLee氏との共同研究を継続し,可能な限り広いクラスの初期値に対して大域解の漸近挙動を解明する.特に,本研究の手法により負の時間方向にも大域解を構成できることが期待される.これは非線形共鳴による散逸効果が顕著な周期境界値問題とは全く異なり,実際に証明できれば画期的な成果となる. 2. ベンジャミン・オノ方程式の解の一意性について,現時点で最も広いクラスで証明したのは前述のMosincat, Pilod両氏の研究である.彼らはノーマルフォーム変換を2回施しているが,3回以上,特に無限回の適用は有効でないと考えられており,一意性を期待し得る最も広い空間である2乗可積分のクラスに到達するには新しいアイデアが必要だった.これに対し,本年度の研究実績2.で説明したDNLSの解の一意性の証明を簡略化する方法論が有効ではないかと考えており,両氏と共同でこの問題に取り組む. 3. プラズマの時間発展を記述するKDNLSの導出として,磁気流体方程式系から運動論的な考察に基づくリダクションを行う方法が知られているが,この導出過程の数学的正当化に関する共同研究をY.Hong氏(Chung-Ang大学)およびJ.W.Jang氏(POSTECH)と開始しており,次年度も継続して取り組む.
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