研究課題/領域番号 |
20K03692
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分12020:数理解析学関連
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研究機関 | 早稲田大学 (2021-2023) 千葉大学 (2020) |
研究代表者 |
野邊 厚 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (80397728)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | SIRモデル / Hamilton系 / 完全可積分系 / LambertのW函数 / 離散可積分系 / クラスター代数 / 保存量 / 厳密解 / 可積分系 / 一般化カルタン行列 / 双有理写像力学系 / 可積分性 / 正値ローラン性 / 代数的エントロピー |
研究開始時の研究の概要 |
本研究においては、これまでの研究で培われた手法を駆使し、クラスター変数の変異から正値ローラン性をもつ双有理写像力学系を系統的に導出する手法の確立を試みる。得られた双有理写像力学系の保存量、不変曲線、一般解およびワイル群対称性などについて考察し、可積分性をもつものを抽出する。同時に、こうして得られた離散可積分系にクラスター代数のGCM型による分類を適用し、アフィン型GCMと可積分系との関係を整理する。さらに、保存量やワイル群対称性などと従属変数の「次数」とを比較検討することで、代数的エントロピーと可積分性との関係を明らかにし、双有理写像力学系における可積分性の概念を明確化する。
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研究実績の概要 |
本年度は、代表的感染症数理モデルの一つであるSIRモデルおよびワクチン接種を考慮したその拡張モデル(SIRvモデル)の微分幾何学的構造について考察した。とくに完全可積分なHamilton系としてのPoisson構造およびシンプレクティック構造について詳しく調べた。SIRvモデルはVolterra格子の一種であることはよく知られていたが、Volterra格子が完全可積分系となる境界条件は周期境界条件または開境界条件であり、SIRvモデルはそのいずれの境界条件もみたさないため、完全可積分系としての出自は明らかではなかった。本研究においては、SIRvモデルはVolterra格子に非ゼロ定数の境界条件を課したモデルであり、さらにそのような境界条件のもとでVolterra格子が完全可積分系となる二通りの場合の一つであることを示した。また、SIRvモデルのPoisson構造とシンプレクティック構造を具体的に計算し、そのHamiltonianは周期境界条件を課したVolterra格子の二つのHamiltonianの線形結合で与えられることを示した。ただし、周期境界条件を課したVolterra格子は二通りPoisson構造をもつ双Hamilton系であり、その性質が完全可積分性を導くことに注意が必要である。さらに、第1種Abel方程式への変換を通して、SIRvモデルを完全微分方程式へと帰着させ、そのポテンシャルとシンプレクティック形式との関係を明らかにした。このような完全微分方程式への変換により、SIRvモデルの初期値問題の厳密解をLambertのW函数を用いて構成することが可能となる。また、この事実からSIRvモデルの不変曲線はLambert曲線となり、ある直線との交叉を通じてSIRvモデルの幾何学的離散化が可能であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画全体としては、コロナ禍の影響などもあり、当初の研究計画とは方向性に若干の違いが出ている。当初は代数的エントロピーを用いて力学系の可積分性を検証していく計画を立てていたが、COVID-19の感染爆発により感染症数理モデルが俄かに脚光を浴びたため、感染症数理モデルにおける可積分性の研究へと方向性を微修正し、SIRvモデルのシンプレクティック構造などの微分幾何学的特徴について詳しく調べることとした。このような形で微修正した研究計画であるが、想定以上に研究が進展し、さらなる課題が浮上したため、3年間の研究計画を5年間へと延長することとした。本年度は研究計画を延長した最初の年(全体の4年目)であるが、「研究実績の概要」で述べたように、年度当初に立てた計画に関しては概ね順調に進展している。しかし、国際学会における研究発表に関しては、海外への渡航が制限されていたことや昨今の世界情勢などもあり、想定通りに進んでいるとは言えない。一方、国内学会における研究発表や査読付論文誌への投稿に関しては概ね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画は残すところあと1年間である。研究計画最終年度においても、感染症数理モデルの可積分性を微分幾何学的観点から詳しく調べ、可積分性を保つ離散化手法の開発を進めていく予定である。とくに、「研究実績の概要」で述べたように、Volterra格子に非ゼロ定数の境界条件を課したモデルにはSIRvモデル以外にもう一つ完全可積分系が含まれている。このモデルについてはその感染症数理モデルとしての解釈が得られていないため、感染症数理モデルの観点からこの可積分格子モデルについて調べていく予定である。また、このモデルの厳密解については、SIRvモデルと同様に、LambertのW関数を用いて構成可能であると考えられるため、厳密解の構成やそこから自然に導かれる不変曲線を用いた幾何学的離散化についても考察したい。これまでに得られた研究成果については、現在査読付論文誌に数編の論文を投稿中であり、研究計画最終年度中の出版を目指していく。また、国内・国際学会における研究発表も積極的に行いたい。
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