研究課題/領域番号 |
20K03757
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分12040:応用数学および統計数学関連
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
池田 幸太 明治大学, 総合数理学部, 専任准教授 (50553369)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 応用数学一般 / 中心多様体縮約理論 / 時間遅れ微分方程式 / 応用数学および統計数学関連 / 中心多様体理論 |
研究開始時の研究の概要 |
脳内では神経細胞であるニューロンが情報の伝達と処理の役割を担っている。多数存在するニューロンは互いに結合し、神経インパルスの形成により情報の入出力を行う。本研究課題では特に2つの現象に着目し、数理モデルの解析を行う。まず、ニューロンの発火における活動電位の伝播を記述する反応拡散系を対象とし、スパイクトレインを表すパルス型進行波解の性質の解明を目指す。次に、脳波の一種であるガンマ波に着目する。その性質を再現するフォッカープランク方程式を取り上げ、パルス型の空間形状を持つ時間周期解の性質を数理的に明らかにすることで、ガンマ波の性質を解明する。
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研究実績の概要 |
研究課題1ではパルス解の集団運動に対する中心多様体縮約理論の確立を目標としている。目標達成には、以前の研究における基底空間を修正する必要がある。具体的には、方程式の特殊性を考慮して方程式に含まれるデルタ関数の一部を消去し、L2空間を基底空間として取るのである。しかしながらデルタ関数の影響が一部に残存しているため、既存の中心多様体論を修正無しに適用することはできない。そこで、樟脳船に関するモデル方程式を改めて取り上げ、デルタ関数を含む系における中心多様体縮約理論をL2空間で構成することを目標とし、これに成功した。この結果では、樟脳濃度の挙動を表す関数を事前に構成することが手掛かりであったが、系の線形性により可能となった。FHN方程式にもこの線形性が存在するため、本研究結果が適用可能と考えられる。この結果をまとめた論文が学術雑誌に受理され、既に出版済みである。実は、縮約方程式が以前よりも詳細な情報を有するため、樟脳粒の集団運動に現れるクラスターの特徴付けが可能となった。さらに、研究課題で本来対象としたFHN方程式に対しても同手法が適用可能であることも形式的には確認済みである。 研究課題2については、パルスの位置を表す関数が満たす時間遅れ項付き微分方程式における時間周期解の存在を保証することが当初の目標である。既存の理論により時間周期解が存在することを保証した結果を既に得ている。この結果をまとめた論文が学術雑誌に受理され、既に出版済みである。一方、時間遅れパラメータを固定した上で抑制的な相互作用パラメータだけに注目するとノコギリ型の時間周期解が現れる。この解はいわゆる特異摂動解として特徴づけられるため、時間遅れ方程式における特異摂動法が必要となる。現在、この解の構成する解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題1に関して2022年度に発表した結果は、パルス幅の時間変化を考慮した中心多様体理論の確立と適用という目標に対して大きく資するものと考えている。FHN方程式等の反応拡散方程式系に現れるパルス解は、拡散係数などのパラメータに対して適当な極限を取ることで不連続点を有する解に収束する。そのため、対象となる方程式には自然とデルタ関数が現れる。既に形式的な計算を通じて、実際にFHN方程式にも適用可能であることが分かっている。特に2022年度に行った解析によって、パルス幅のみのダイナミクスを用いることによって、単一パルスが安定な進行波解に収束する様子を捉えることに成功した。 研究課題2については、特異摂動解として捉えられる解の発見により、申請時には想定していなかった新たな局面を迎えている。2022年度中に、時間遅れ方程式と特異摂動法の関連を調べた。時間遅れ方程式の専門家と共同でのセミナーの開催や研究議論を通じて情報共有を行った。2021年度に得た「サンスター」等の重要な概念を通じて、いわゆるリヤぷノフ・シュミット分解が可能となる知見を得た。これは特異摂動解の構成に資するものであると考えている。 一方で、当初の研究計画はから大きく予定変更せざるを得ない部分も少なくない。本研究を推進する上では海外の研究協力者からの理論の提供が必須であった。海外出張が制限されている現状のため、計画変更はやむを得なかった。
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今後の研究の推進方策 |
研究課題1について、2022年度に発表した中心多様体縮約理論をFHN方程式に適用する。既に行った形式的な計算により、縮約方程式の導出が可能であると予想している。現在パルスが2個存在する状況において、各パルスの位置とパルス幅のみで構成された力学系を導出するための解析を行っている。まずはこの解析を終わらせることが目標であり、FHN方程式に対する縮約理論の本質的な問題を抽出する。次に、樟脳粒のモデル方程式におけるクラスターの不安定化が、FHN方程式でも起こるかどうか検討する。縮約方程式の違いを考察しつつ、パルス波の集団運動の定性的な性質を調べることが目標である。 研究課題2について、FP方程式から縮約して得られた時間遅れ項付き微分方程式において、時間周期解のより詳細な特徴づけを行う。具体的には、「サンスター」の概念を導入した上でいわゆる特異摂動法の適用を目標とする。この理論においては、近似解周りでの線形化作用素に対する共役作用素の0固有関数の性質が重要な役割を果たすことが知られている。そこで、2023年度はこの固有関数の性質を明らかにすることが目標である。
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