研究課題/領域番号 |
20K03764
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
永尾 太郎 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 教授 (10263196)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | ランダム行列 / 普遍性 / 2次元流体 |
研究開始時の研究の概要 |
ランダム行列は物理学の様々な問題に応用されてきたが, その基礎となるのは固有値や固有ベクトルの分布の普遍性である. ランダム行列の固有値分布は, 分子間相互作用のある流体の統計力学的分布の例を与えることがある. 標準的な非エルミートランダム行列の固有値は, 複素平面上に分布するため, 対応する流体は2次元平面上にあり, 厳密に物理量を計算できる2次元流体の例を与える. 最近のランダム行列理論の発展により, これらの2次元流体をさらに広いクラスに拡張することが可能であるという認識が深まってきた. 本研究では, ランダム行列の普遍性の理解を深めるとともに, 2次元流体の統計力学を進展させたい.
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研究実績の概要 |
ランダム行列の固有値分布は, 分子間相互作用のある流体の統計力学的分布の例を与えることがある. 標準的な非エルミートランダム行列の固有値は, 複素平面上に分布する. 一方, 対応する流体は2次元平面上にあり, 流体分子の位置はランダム行列の固有値の位置に対応する. 本研究では, ランダム行列の普遍性の理解を深めるとともに, このような2次元流体の統計力学を進展させたい. 標準的な非エルミートランダム行列においては, 固有値の位置すなわち流体分子の位置の相関関数は, 直交多項式(あるいは歪直交多項式)によって表される. ただし, この場合の直交多項式は, 実軸上の1次元領域における積分に対してではなく, 複素平面上の2次元領域における2重積分に対して直交する. 複素平面上で直交する多項式の性質として, 1つの多項式系が異なる領域で直交し得ることが挙げられる. 例えば, 古典直交多項式の一つとしてよく知られている Chebyshev 多項式は, 複素平面上の楕円面領域において直交するが, 楕円面領域の中心部からより小さい楕円面領域を除いた楕円環領域においても直交する. 今年度は, この直交性を用いることにより, 楕円環上の2次元 Coulomb 気体を解析した. 特に, 楕円環全体がその外縁の近傍に含まれているような細い楕円環の場合において, 楕円環が2つの焦点から離れているときには, 相関関数の普遍的な振る舞いが見られ, 楕円環が2つの焦点を結ぶ線分に近づくときには, 2つの焦点の近傍において普遍的でない振る舞いが見られることがわかった. 現時点での研究の主な目標の一つは, Chebyshev 多項式を一般化して Gegenbauer 多項式に置き換え, さらに一般化して Jacobi 多項式に置き換えた場合でも, 同様の性質が見られるかどうかを明らかにすることである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では, ガウス型の非エルミートランダム行列モデルを一般化した「古典直交多項式に関係するランダム行列アンサンブル」を構成して解析することを目標としている. 古典直交多項式とは, Jacobi 多項式あるいはその(漸近極限を含む)特別な場合として与えられる直交多項式のことである. 非エルミートランダム行列モデルに対応する2次元流体においては, ランダム行列の固有値の複素平面上での位置が流体分子の位置に対応し, 分子分布を複素平面上で直交する多項式により記述できる可能性がある. 特に, 直交多項式として古典直交多項式を用いることができる場合が重要であり,「古典直交多項式に関係する2次元 Coulomb 気体」と呼ぶことができる. 古典直交多項式の複素平面上での直交性をできるだけ一般的に示し, 対応する2次元 Coulomb 気体(あるいは非エルミートランダム行列モデル)を構成して解析したい. 実際, Hermite 多項式は複素平面上でも直交することが知られており, ガウス型の非エルミートランダム行列モデルの解析に用いられている. 研究代表者は, Hermite 多項式をより一般化した古典直交多項式である Gegenbauer 多項式についても, 複素平面上での直交性が成り立つことを示し, 対応する2次元流体を構成して解析した. 今年度は, さらなる進展として, 1つの多項式系が異なる領域で直交し得ることに着目し, 楕円面上で直交する Chebyshev 多項式が楕円環上でも直交することを示し, その性質を用いて楕円環上の Coulomb 気体を解析した. このように, 「古典直交多項式に関係する2次元 Coulomb 気体」についての研究の範囲が着実に広がっていることから, 研究はおおむね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では, 古典直交多項式の複素平面上での直交性を示し, 対応する非エルミートランダム行列アンサンブル(あるいは2次元流体)を構成して解析することを計画している. 今年度は, 複素平面上の直交多項式の性質として1つの直交多項式系が異なる領域で直交し得ることに着目して, 複素平面上での Chebyshev 多項式の直交性を一般化し, 楕円環上の2次元流体の分子相関関数を評価した. これまでは, Gegenbauer 多項式を Jacobi 多項式に一般化するなど, 主として直交多項式そのものを一般化することを考えていたが, 今年度の成果からの影響により, これからは1つの直交多項式系が異なる直交関係を満足する場合を積極的に利用することにより, 研究の範囲を拡大したい. また, 同じ直交多項式系が異なる直交関係をもつことが, 複素平面上の直交多項式においてどの程度一般的に成り立つことなのか, 数学的な考察も深めていきたいと考えている. また, 2次元離散測度上で直交する多項式を調べ, 対応する2次元離散モデルを構成して解析することを考えているが, 今後は, 同じ多項式系が異なる離散的直交性を満足し得ることにも注意して研究を進めたい. さらに, 直交多項式を用いた解析方法だけでなく, レプリカ法などの場の理論的な解析方法を進展させて, ランダム行列の普遍性についての知見を深めたい. 複雑ネットワークにおいて, ネットワークの結節点に直接に結合している結節点の数(次数)の分布がべき分布になることをスケールフリー性と呼ぶ. スケールフリー性をもつ隣接行列は, ランダム疎行列を一般化したスケールフリーランダム行列を構成することによって実現される. 本研究では, 場の理論的な方法により, 結節点を結ぶ辺が向きをもつ有向ネットワークがスケールフリー性をもつ場合について調べたい.
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