研究課題/領域番号 |
20K03776
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
清水 寧 立命館大学, 理工学部, 教授 (30388128)
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研究分担者 |
新山 友暁 金沢大学, 機械工学系, 准教授 (00583858)
奥島 輝昭 中部大学, 工学部, 教授 (10434721)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 非線形ダイナミクス / 遷移ダイナミクス / カオス / マルコフ性 / 鞍点 / 遷移状態 / 動的安定化 / 準周期軌道 / 分岐 / 少数多体系 / 異性化過程 / 遷移状態理論 / 非アレニウス性 |
研究開始時の研究の概要 |
触媒反応・タンパク質の変性・核反応などを含む広い意味の化学反応の解析において、遷移過程がアレニウス則に従うという仮定は、理解の基盤となる考えである。しかし、個々の事例において、この仮定の成立条件を力学的視点からボトムアップ式に詳細に吟味すると、再検討をすべき余地が数多く残されている。本研究では、様々な原子種で構成されるクラスター系を少数多体非線形力学系と捉え、その遷移過程の統計的性質に着目する。特にアレニウス則といった通常の遷移状態理論の結論からのずれ(非アレニウス性)について、少数多体力学系としてのクラスター系の非線形動力学の立場から再解釈・再整理することを試みる。
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研究実績の概要 |
本研究では少数多体系における遷移過程が、通常の統計理論(遷移状態理論の帰結)と異なりうる理由(力学的起源)は「少数自由度性」と「非エルゴード性」にあるというシナリオに基づいて進めている。前者は熱浴の有限自由度性の影響が遷移確率に直接影響しうるからであり、後者は遷移過程が熱的環境下で発生するためには、相空間全体がほぼカオス的であること(系がエルゴード性を持つこと)が要請されるからである。 実際の分子系の異性化などの構造変化や化学反応では、「少数自由度性」「非エルゴード性」が無視できるという条件のもとで遷移過程が起こるが故にアレニウス規則等の熱的遷移が実現される。今年度は「非エルゴード性」の遷移過程に及ぼす効果を調べるためにモデル設計を行い、遷移状態近傍にトーラスが発生する機構をマシュー方程式の視点から調べた。 具体的には、前年度の成果をもとに、相空間のほとんどがカオスで占められた中で遷移が発生する分子系の典型的特徴を備えた「2自由度対称二重井戸系」を設計した。これは異性化反応を単純化したモデルであることを想定している。今回、この系の鞍点近傍の運動が、逆立ち振り子(カピッツァ振り子)の安定振動運動と同様に、マシュー方程式で記述されることに着眼したことがポイントである。このことからマシュー方程式のInce-Struttダイアグラムを利用し、モデル系の遷移状態にトーラスが発生するエネルギー領域(パラメータ領域)を特定できること示した。これは昨年度導いた発見的方法を、フロッケ理論からより系統的方法へと改良したことに相当する。この方法を多自由度系への拡張を試みる必要があるが、より一般的な分子系への適用ができるか否かの足掛かりと位置付けられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度の研究進捗の足枷は共同研究者との対面による長時間の議論の機会がコロナ禍の下で大きく制限されていたことである。今年度も規制は緩和されたとはいえ、出張条件や複数人での会合に対して一定の制限が続いた影響は無視できない。オンライン会合でのやり取りは手軽ではあるが、優先順位が低くなりがちでスケジュール調整が逆に難しく、結果的にインテンシブになりにくく効率的に進めるのは非常に難しい。その中でも今年度後半からようやく共同研究者間や関連分野の研究者との対面での議論の機会が増した(準備会合を経て年末に中部大学にて共同研究者だけでなく関連研究者も含め、時間の制限なく議論する機会をえた)。前年度から今年度前半までの進捗の遅れを取り戻すまでには至らなかったものの、こうした対面機会での議論は膠着していた研究を進展させるためのヒントとなり、上述の手法の理解につながった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度後半から共同研究者だけでなく学外の研究者との対面による意見交換の機会(立命館大学・中部大学・大阪電通大学の研究者によりミニ研究会)をつくることができ、そこでの交流から研究の新たな展開のヒントを得たことが度々あった。今後もさらに対面での交流機会の頻度を増やし、進捗の刺激とする予定である。具体的にはハミルトン系力学系を研究する国内の数学者・応用数学者を立命館大学・中部大学に招聘し、対面でのセミナー等による議論・交流を深める予定である。また関連する分野の学会などでの対面での交流を進める機会を増やすとともに、本プロジェクトの研究成果に関する対外的な発信にも努めたい。
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