研究課題/領域番号 |
20K03787
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
手塚 真樹 京都大学, 理学研究科, 助教 (40591417)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 量子カオス / Sachdev-Ye-Kitaev模型 / 量子誤り訂正 / 準位統計 / 量子多体系のダイナミクス / エンタングルメント / 量子計算 / 多体局在 / エンタングルメント・エントロピー / 相互情報量 / スペクトル構造因子 / 量子多体系 / ホログラフィー原理 / スクランブリング |
研究開始時の研究の概要 |
物性系で実現可能な強相関模型で、ブラックホールを含む重力系とホログラフィック対応を持ちうるものに関する理論研究が近年急速に進んでいる。特に量子系のスクランブリング(量子情報の非局所化、状態の熱化)や、カオス的なダイナミクスとの関係が興味深い。また、相対論的なフェルミオンに相当する、フェルミエネルギー近傍の電子が線形分散を持つ物質が多数発見されてきている。本研究は、重力系と対応しうる量子多体系のスクランブリングやカオス的ダイナミクスについて複数の具体的な問題設定で調べ、物性実験での実現方法を提案する。
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研究実績の概要 |
本研究は、重力系と対応しうる量子多体系のスクランブリングやカオス的ダイナミクスについて複数の具体的な問題設定で調べ、物性実験での実現方法を提案しようとするものである。第4年度の実績は主に以下のものである: (1)量子ブラックホールとホログラフィック対応をもつ量子系であるSachdev-Ye-Kitaev (SYK)模型に対して、ランダムな全対全相互作用をもつ2N個のフェルミオンのかわりに、N個のS=1/2量子スピンを考え、そのx, y成分の間にランダムな相互作用を考えた模型について、固有エネルギースペクトルや固有状態の波動関数の統計的性質を調べた。スペクトルの端の数個の固有状態を除いて、SYK模型と酷似するふるまいを示すことを明らかにした。 (2)SYK模型と、重力系に加えた物質に相当する複素フェルミオンとの結合を導入した量子多体系を考え、固有エネルギーの準位統計の結合定数依存性を明らかにした。さらに、結合を瞬間的に導入した後の時間発展を調べ、SYK模型側が充分に大きいときには、系のエンタングルメント・エントロピーが、複素フェルミオンの個数で決まる上限に短時間で到達することを見出した。 (3)量子系の一部分に埋め込まれた量子情報が非局所化(スクランブリング)する量子誤り訂正について、スパースSYK模型や、SYK模型にフェルミオンのホッピング項を加えた模型、カオス的ダイナミクスをもつ量子系としてよく調べられているスピン系等、ハミルトニアンに基づく時間発展の場合にHayden-Preskillのプロトコルによる情報復元の精度の上界と下界を計算した。量子カオス的な系であってもスクランブリングの程度には大きな差異があることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までに投稿中であった論文2篇が出版されたほか、「研究業績の概要」に示した(1)-(3)の成果に基づく論文3篇がいずれも年度終了後の2024年5月上旬までに出版決定に至った。マヨラナフェルミオンの全対全ランダム結合という、大規模な系の実験的実現が困難な模型であるSYK模型に対し、必要な結合の個数の削減、フェルミオンの追い越し符号を必要としないスピン系版の提案などを行ったのに加え、追加の物質との相互作用についても、国際共同研究により解析的・数値的アプローチを組み合わせて理解を深めることができており、おおむね順調に進んでいると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
エンタングルメントの生成速度と関係する量として、近年、縮約密度行列の固有値スペクトルから定義される、熱容量に類似した量であるエンタングルメント容量が注目されている。これを、本研究で調べてきたような量子多体系のカオス的ダイナミクスと関連して系統的に調べる。また、本研究で調べてきたSYK型模型等のダイナミクスについて、現存するか近い将来に実現が予想される規模の量子計算機を念頭に、どの程度の大きさの模型をどの程度の精度で実装すれば、重力系の特徴をとらえた現象がみられるのかについての定量的な評価を引き続き目指す。
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