研究課題/領域番号 |
20K03790
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
渕崎 員弘 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 教授 (10243883)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2020年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | ヨウ化錫 / ポリアモルフィズム / 非晶質状態間遷移 / 液ー液転移 / 秩序変数 / 密度 / 対称性 / エントロピー / CAESAR法 / 逆モンテカルロ法 / 液―液転移 / ポリモルフィズム / 熱力学 |
研究開始時の研究の概要 |
固相の融解を考慮した、より広い熱力学的見地から複数の液相(含準安定非晶質状態)出現の熱力学トレンドを明らかにし、エネルギー(またはエンタルピー)変化とエントロピー・温度積の変化の特徴的な比(以下、特徴比)として液―液転移の出現可否を定式化する。 ターゲットレンジから研究期間を3年に設定し、ヨウ化錫系を中心に理論・実験・シミュレーションの全方向から研究を展開する。結晶、および不定形多形の逐次出現可能性を熱力学的に示し、不定形多形間の特徴比を分類する。既存の不定形多形系の同分類との無矛盾性を確認し、液―液転移の出現有無に対する指標を確立する。
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研究実績の概要 |
本研究の目的はポリアモルフィズム発現の熱学条件を整理、考察することである。昨年度、熱学的に安定な液-液転移を発現する物質を俯瞰し、相転移(状態遷移)前後での各相(状態)間のエントロピー差を見積もる重要性をレヴューにまとめた。 液体や高分子系のエントロピー見積もりに対して数多くの実績があるGoddard法の非晶質状態への適用可能性について検討を行った。同方法の基本アイディアは不定形への適用を許しているはずであるが、実際は分子動力学法による拡散係数の見積もりが必要なため、非晶質状態に対してworkしない。即ち、理論として閉じていない。液体(非固体)分率の見積もりは同方法の核をなす部分であるが、複数の仮定を設け、希薄剛体球系問題に帰着させ、分率を得るための閉じた式を導出している。報告者は低密度から高密度に至る剛体球系の分子動力学法シミュレーションから定義に従った分率を直接求めたところ、半定量的に正しい値が近似式から得られることが判明した。即ち、複数の近似の粗さが打消されているようである。また、この過程で剛体球系拡散係数に対するSpeedyの経験式が密度によらず、ほぼ成立することも確認した。以上の結果をISSP Supercomputer Activity Report 2022にて報告した。 上述のレヴューでとりあげた物質として液-液転移を発現するPに着目した。実際の液相のエントロピー評価法を示すことを目的に実験で得られた構造因子に逆モンテカルロ(RMC)法を適用し、動径分布関数を得る方法を示し、国際会議(LAM18於広島)で報告した。この方法も最大のメリットは複数成分から成る液体の一つの構造因子からエントロピー評価に必要な部分動径関数を一度に得られる点である。デメリットはRMCを使うための適切な初期配置の推定が困難な場合がある点である。この点に関して新たなRMC法を提案したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究実績概要で述べた、ポリアモルフィズム発現の熱学条件を整理、考察する上で研究対象とする物質は、研究計画書に記した通り、ヨウ化錫であった。まず放射光実験により、理論に供するための実験結果を得る必要があった。これを得るために2020年に高エネルギー加速器研究機構(KEK)に申請した課題(2年間)は採択されたものの、コロナ禍において実際に実験できる機会は得られなかった。2021年度にあらためて課題申請を行い、この課題も採択されたが、使用する高圧発生装置の故障により、修理が完了した当該年度末まで実験ができなかったことは昨年度報告の進捗状況に記した通りである。このため、研究実績概要で述べたように対象物質をリンに変更し、研究を継続した。しかし、用いた実験結果が報告者所有のものでないということが主要因となり、国際会議発表に留まり、論文発表には至らなかった。本課題に関するヨウ化錫の最初の実験成果は2021年度末に得られ、2022年度は順調に実験が進められ、理論構築するために必要な実験データがほぼ得られた(今後の研究推進方策参照)。リンの成果を論文発表ができなかったため、研究計画の実施が実質的に1年「遅れた」と判断した。 一方で2023年になり、ヨウ化錫に関して予定していた海外との共同研究も実施でき、2022年度末の国際会議において最初の成果報告を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度から研究エフォートを見直した。立場上、運営面でのエフォートを減じることができないため、教育エフォートを引き下げ、その分を研究エフォートに回す。コロナ禍での遠隔教育実施のための資料作成、2020年度学部改組にともなう教育カリキュラム改訂に生じた新授業対応からほぼ解放されたため、教育エフォートの引き下げが可能となった。 現在、ヨウ化錫ポリアモルフィズムに関して新たに得られた実験的知見に対する理論的解釈を行っている。この結果、1985年に見出されて以来、その直接的な物理的原因が不明であった圧力誘起非晶質化現象に明確な解答が与えられそうである。この解答をサポートするための付加的な実験計画もたて、KEKでの6月実験にて実施することになっている。これらの結果は7月にEdinburghで開催される第60回欧州高圧国際会議で口頭発表される予定である。同時に論文として報告する計画である。 一方で上述のリンに関しては、ある程度の研究時間を割いたので論文としてまとめられる形に展開しようとしている。これまでは液-液転移前後のエントロピー変化のみの議論に留まっていた。エネルギー変化を見積もるには何らかのモデルの想定が必要だったからである。そこでP-P結合の強さを第一原理計算から推定した。液-液転移に際しての結合変化は既に先行研究があるので、その結果を用いればエネルギー変化が定量的に求められる。従って、液-液転移境界を理論的に推定でき、実験結果と直接比較が可能になる。 液体リンの構造解析研究から派生した問題の解決法としてシミュレーションを行う前の液体の初期配置の発生を必要としない逆モンテカルロ法を案出した。2023年度の目標は単純液体構造の復元が行えることを示す。その後、複数元素から成る液体、例えばヨウ化錫液体、への拡張を試みる。競争的資金を得る上で重要な課題となり得るであろう。
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