研究課題/領域番号 |
20K03807
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13020:半導体、光物性および原子物理関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
江藤 幹雄 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (00221812)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 量子ドット / クーロンブロッケード / 光電流 / テラヘルツ波 / ディッケ効果 / アハラノフ・ボーム効果 |
研究開始時の研究の概要 |
クーロンブロッケード領域にある量子ドットにTHz光を照射したときの光電流を理論的に研究し、量子ドット集合系を利用した高感度THz光検出器を提案する。まず、単一量子ドットにおける光電流を定式化する。次に、並列2重量子ドットの光電流におけるアハラノフ・ボーム効果の理論を作る。以上の準備を基に、量子ドット集合系におけるディッケ効果を明らかにする。光子の吸収・放出による量子ドット間のエンタングルメント生成によって光電流が増大する機構を調べる。量子ドット間の不均一性の影響や位相緩和を評価する。さらに、単分子デバイスやカーボンナノチューブの利用、表面弾性波、機械振動子との結合系についても研究を進める。
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研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、量子ドット集合系にテラヘルツ(THz)光を当てたときの光電流(photocurrent)の物理を理論的に研究し、高感度THz光検出器への応用を提案することである。当該年度は、並列2重量子ドット系におけるフォトン支援トンネル現象の計算、および同系における位相測定と近藤効果の数値シミュレーション、の2つの研究を行った。 昨年度、単一量子ドットにおけるフォトン支援トンネルを散乱理論によって定式化した。時間に依存するシュレーディンガー方程式から出発することで厳密な解析解を求め、先行研究で使われている密度行列の方法や非平衡グリーン関数法との関係を明らかにした。今年度は、その手法を並列2重量子ドット系に拡張し、フォトン支援トンネルとアハラノフ・ボーム(AB)効果による干渉効果の競合を明らかにした。THz光は一方の量子ドットのみに照射する状況を考える。量子ドットと外部リード間のトンネル結合を摂動として扱い、その無限次までを取り入れた形式解を得た。次に、THz光の強度が弱い場合について解析解を求め、AB効果を導出した。その結果、THz光を古典的に扱った場合においても、位相緩和によって干渉効果が弱められることを定量的に導いた。 実験で用いられる並列2重量子ドット系における位相測定、および近藤効果の数値シミュレーションを行った。まず、実験系を空間を離散化したタイト・バインディング・モデルで表し、電気伝導測定と位相測定の結果を数値的に評価する。次に、不純物アンダーソンモデルのパラメーターを、その数値計算結果を再現するように決定する。最後に電子間相互作用を取り入れて近藤効果と位相測定結果を厳密に求める、というものである。この方法によって実験結果と半定量的に一致する結果が得られ、日本物理学会欧文誌に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題「量子ドット集合系にテラヘルツ(THz)光を当てたときの光電流の理論」として、これまでに「並列量子ドットの光電流における超放射現象のモデル計算」を行い、論文を発表した。次に、「単一量子ドットにおける光電流の定式化」、および「並列2重量子ドットの光電流におけるアハラノフ・ボーム(AB)効果」について研究を行い、従来の電気伝導測定では原理的に困難な位相測定が光電流によって可能であることを見出した。現在学術雑誌への投稿論文を準備中である。一方、THz光を古典的に扱った場合の定式化も進めた。まず、単一量子ドットにおけるフォトン支援トンネルを、散乱理論によって時間に依存するシュレーディンガー方程式を厳密に解くことで定式化した。密度行列の方法や非平衡グリーン関数法による先行研究との関連を明らかにした。その手法を、本研究課題のテーマである並列2重量子ドット系に適用し、古典電磁場と干渉効果の競合問題を明らかにした。現在、これらの成果をまとめた論文を準備中である。また、並列2重量子ドットにおける近藤効果の計算手法を構築し、多体効果とAB効果の競合、多端子系による位相測定の評価を行った。さらに、実験系のシミュレーション手法を開発し、2件の学術論文にまとめた。このように、量子ドット集合系における輸送現象に関して理論研究を多角的に進めており、研究はおおむね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
(i)「並列量子ドットの光電流における超放射現象のモデル計算」については、我々が提案したモデルの正当性について議論する。そのために、密度行列を用いた第一原理的な計算を行い、これまでの計算で用いた電磁波の回転波近似の正当性を確認する。さらに、現実の系では不可避である量子ドットの不均一性、位相緩和の諸現象を取り入れ、超放射現象の定量的な評価を行う。高感度テラヘルツ(THz)光検出器としての性能評価を行う。(ii)「並列2重量子ドットの光電流におけるアハラノフ・ボーム(AB)効果」、および「並列2重量子ドットのフォトン支援トンネルにおけるAB効果」に関しては研究成果がほぼまとまっている。両者を学術論文にまとめて発表する。後者については、今後、スピン軌道相互作用の強い半導体量子ドットの系に計算を拡張する。新たな提案として、動的スピンホール効果の可能性を議論する。 (iii) その他の問題として、量子ドット内のフォノン励起の効果を取り入れ、光電流におけるフランク・コンドン効果を明らかにする。また、単分子やカーボンナノチューブなどの光検出デバイスへの利用を検討する。THz光以外に、量子ドット集合系に表面弾性波(Surface Acoustic Wave; SAW)を当てた場合、機械振動子を結合した場合、等の実験状況の考察も本研究課題の対象である。
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