研究課題/領域番号 |
20K03810
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13020:半導体、光物性および原子物理関連
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
森 道康 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究主幹 (30396519)
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研究分担者 |
小椎八重 航 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 上級研究員 (20273253)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2020年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | 希土類ガーネット / フォノンホール効果 / 結晶場 / 共鳴散乱 / 中性子 / X線 / 中性子散乱 / 熱ホール効果 / クラスター / 多極子 |
研究開始時の研究の概要 |
主にフォノン伝導に焦点をあて、複数の電子で構成された量子クラスターによる磁気熱輸送現象を研究する。フォノンは電荷もスピンも持たないが、複数の電子により構成された量子クラスターが、磁場下においてフォノン伝導を変える可能性がある。そのような量子クラスターによる磁気熱輸送現象を研究することで、磁気による熱流制御とエネルギーの効率的利用を目指す。
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研究実績の概要 |
電子クラスターによるフォノンホール効果を計算するためには、電子系の角運動量変化とフォノンの運動量変化の両方を伴った共鳴散乱振幅を見積もる必要がある。この目的のため、これまでテルビウムガリウムガーネット(TGG)を用いた非弾性中性子散乱実験を行い、磁場と共にエネルギーが増加する結晶場励起を観測してきた。この結晶場励起がTGGにおけるフォノンホール効果の鍵だと考えられる。結晶場励起とフォノンが相互作用するとレベル反発が起こる。この分裂の大きさを観測出来れば、フォノンホール効果の定量的評価が可能となる。そこで、日本原子力研究開発機構にある原子炉JRR-3で、中性子散乱実験を試みた。そして、他の施設での実験結果と整合する結晶場励起とフォノン励起を観測することができた。しかし、施設の問題で偏極中性子を使うことができず、また磁場を加えることもできなかった。これらの測定は次年度へ繰越となった。 一方、TGGと同相のテルビウム鉄ガーネット(TIG)の研究も行った。希土類鉄ガーネットは、スピン熱電効果の実験で広く用いられている。スピン熱電効果の効率を決める要因の一つにスピン流生成が挙げられる。そのため、TIG中の磁気励起の詳細を調べなければならない。しかし、TIGは非共線磁気秩序を示すフェリ磁性体であることが報告されている。非共線磁気秩序であるため、測定や観測が困難になる可能性が考えられる。そこで、TIGが示す磁気構造の本質を抽出した模型を提案して、一つのスピン波励起で運動量に依存してスピン偏極が変化することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
原子炉JRR-3の中性子散乱実験で、J-PARCでの中性子散乱実験結果と整合する結果を得ることができた。しかし、施設の問題で偏極中性子を使うことができず、また磁場を加えることもできなかった。磁場下における偏極中性子散乱実験は次年度へ繰越となったものの、これまでのデータは偏極中性子を用いた実験を行う際に参照する必要があり、大事な手がかりとなる。 非共線フェリ磁性秩序を示すTIGの本質を抽出した模型を提案した。希土類鉄ガーネットは、スピン熱電効果の実験で広く用いられているが、TIGのスピン熱電効果の温度依存性は非単調になることが知られており、注目されている。スピン波励起を線形スピン波理論で計算し、温度効果は平均場理論により取り込んだ。これにより、各モードの磁気分極を決定し、スピン偏極の効果と熱励起によって生成されるスピン流を決定することが可能となった。非共線であるため、各スピン波が非一様なスピン偏極となる点は注目すべきである。また、TIGにはネール温度以下で磁化が消失する補償温度がある。その近傍では、複合スピン状態の形成で開いた混成ギャップが消失することが分かった。また、最低モードのスピン偏極は、レベル反発が起こるエネルギー付近で符号が変化する。これらの結果は、スピン熱電効果などに役立つと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
電子系の角運動量変化とフォノンの運動量変化を含んだ多数の共鳴散乱振幅の一般的な定式化をまとめることができた。テルビウムガリウムガーネットを用いた実証実験が進展しており、今後定量的な評価が可能になると考えられる。また、これまでの計算結果と組み合わせて、簡潔なクラスター模型でのフォノンホール効果の理論を提案する。 結晶場励起とフォノンのレベル反発を見積もる実験が、十分な精度のデータを出せるとは限らない。装置の最適化に時間が必要になる状況も考えらえる。これらの場合に備えて、スパースモデリングによる情報抽出法を検討する。これにより、強度が弱い場合のデータの評価や測定時間の短縮を図る。現在、スパースモデリングや機械学習を応用した測定法が急速に進展している。それに付随して、ソフトウエアの開発も多種多様な進展を示している。これらを活用して、新たな情報抽出手法の開発までをも視野に入れて研究を進めていく。
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