研究課題/領域番号 |
20K03827
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
李 徳新 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (40281985)
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研究分担者 |
本間 佳哉 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (00260448)
本多 史憲 九州大学, アイソトープ統合安全管理センター(伊都地区), 教授 (90391268)
青木 大 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (30359541)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | ウラン化合物 / ジグザグ構造 / 磁気異方性 / 電気抵抗 / 磁化率 / 比熱 / 空間反転対称性 / 強磁性ゆらぎ / スピン軌道相互作用 / パリティ混成 |
研究開始時の研究の概要 |
スピン三重項超伝導体UTe2および局所的に空間反転対称性が破れた強磁性超伝導体URhGeなど物質における様々な特異な現象を解明するためには、類似の結晶構造と物性を持つ物質に対して系統的な研究が非常に重要であり、多数の新物質の開発と新奇物性の探索が必要不可欠である。本研究は局所的な空間反転対称性が破れたU2T3X5系化合物を主なターゲットとする新物質を開発すると共に、精密な物性測定を行い、U2T3X5系物質を中心とする新奇物性を探索する。また、新奇物性と局所的な空間反転対称性の破れ、パリティ混成、強いスピン軌道相互作用及び強磁性ゆらぎの関連性の解明を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では、「235」系化合物R2T3X5(R=ウランおよび希土類金属、T=遷移金属、X=Si、Ge、Sn、In、Ga)の新物質の探索および新奇物性の発見に目指して研究を行い、既に複数のR2T3X5系化合物の結晶育成を試みた。特に、ジグザグ構造を有する新物質U2Ir3Si5の単結晶、U2Rh3Ge5および数種類の希土類「235」系化合物の多結晶の育成に成功し、興味深い物理現象が観測された。最近、別の「235」系新規化合物U2Rh3Sn5の多結晶育成にも成功し、その基礎物性の測定が完成した。 U2Rh3Sn5は、U2T3Sn5系物質群でこれまでに見つかった唯一の化合物である。X線回折分析結果、U2Rh3Sn5はY2Rh3Sn5型の斜方晶構造を持つ。磁場中冷却およびゼロ磁場中冷却磁化率の測定により、19.7 K付近で強磁性のような磁気転移が見られた。高温側の磁化率の解析結果は小さい有効磁気モーメントと比較的大きな負のキュリーワイス温度を示す。5 Kで測定した磁化曲線は、約4 kOe未満の磁場領域で急速に上昇し、その後5 Tまで直線的に増加する。約5 kOe以下で明確なヒステリシス挙動を現れた。さらに、比熱測定によると、磁気相転移前後の磁気エントロピーの変化は非常に小さく、二重縮退基底状態が存在する可能性がある。U2Rh3Sn5は、遍歴的な5f電子または近藤効果および面内反強磁性相互作用を持つキャント強磁性体である可能性が高いと推測できる。 一方、本研究では、U2Co3Si5型斜方晶構造を持つ軽希土類「235」系新規物質R2Ru3Ge5(R=La、Ce, Pr)を発見し、多結晶の育成に成功した。低温磁性の測定により、Ce2Ru3Ge5とPr2Ru3Ge5は、それぞれ6 Kと14 K付近で強磁性転移を伴う複雑な磁化挙動を示すことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R2T3X5系化合物の純良単結晶育成の例は、国外も含めて極めて限られている。特に、「235」系ウラン化合物について、超伝導体はまだ見つかっておらず、物性に関連する研究例は極め少ない。我々はこの系新物質の探索および新奇物性の発見に目指して研究を進めている。その過程で、U2T3Si5系の新物質U2Ir3Si5とU2T3Ge5系の新物質U2Rh3Ge5が発見され、それぞれ高品質単結晶と多結晶の育成に成功した。物性測定の結果、強い磁気異方性、複雑な磁気相図、多極子秩序と一次磁性転移の共存と思われる興味深い現象が観測されている。一連の成果を既に国際ジャーナルで発表した。R4年度では、主にU2T3Sn5系列および関連する希土類R2Ru3Ge5(R=希土類)系列中の新物質探索を行った。その結果、U系新規物質U2Rh3Sn5および希土類新規物質R2Ru3Ge5(R=La、Ce, Pr)の多結晶の育成に成功し、それらの結晶構造の解析及び基礎物性の測定を行った。U2Rh3Sn5の磁気特性は、U2Ir3Si5およびU2Rh3Ge5の磁気特性とは大きく異なることが観察された。一方、本研究と関連するU2PtSi3とPrAu2Si2の興味深い物性についても調べた。特に、U2PtSi3における異方的なスピングラス挙動とPrAu2Si2におけるスピングラスから常磁性への遷移に関する研究成果は、国際ジャーナルにも発表した。これまで、我々は20種類以上のU「235」系化合物の結晶育成を試みてきた。 そのうち3つの新物質が発見され、興味深い物性研究成果が得られた。R2年から約2年半は新型コロナウィルスの影響で出張を控える必要があるため、一部の交流磁化率や高磁場磁化の測定には一定の遅延があるが、全体として、現在の研究はおおむね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
R2T3X5系化合物を中心に、未知物質の発見、結晶成長、精密物性測定など現在の研究を継続する。具体的には、以下の四つの過程を通じて研究を進める。 (1)物質探索および結晶育成: これまで、U系化合物U2T3X5(T=遷移金属、X=Si、Ge、Sn)や希土類化合物R2T3X5(R=希土類金属、T=遷移金属、X=Ge、Sn)を中心とする新規物質の探索を行ってきた。いくつかの新規物質を発見し、興味深い物性が観測された。R5年度からは、U化合物U2T3X5(X=In、Ga)および対応する希土類化合物R2T3X5(R=La, Ce, Pr)を主なターゲットとする新物質の探索を行う。また、テトラ・アーク炉および高温電気炉を利用して、これまで成功しなかったU2Rh3Ge5とU2Rh3Sn5の単結晶育成に再度挑戦する。 (2)試料整形・品質評価:X線回折装置を利用して作成した試料の結晶構造を解析し、結晶品質を評価する。X線ラウエカメラを利用して結晶軸を決定し、放電加工機により試料を整形する。 (3)物性測定:育成した結晶に対し、その電子状態を外場(温度、磁場、圧力)によって効果的に制御し、外場制御下で結晶の電気抵抗、磁気抵抗、ホール効果、比熱、acおよびdc帯磁率など基礎物性を測定する。PPMS、MPMSおよび希釈冷凍機を利用する。また、磁場誘起相転移を観測するために、東大物性研強磁場コラボラトリーおよび金研強磁場センターの共同利用装置を利用して、それぞれ60 Tおよび30 T程度まで強磁場下での物性測定を行う予定である。 (4)データ解析・物性考察:データ解析は主に電気抵抗、ホール効果、磁化、比熱、ac/dc磁化率など基礎物性の温度、磁場、圧力依存性を調べる。電子比熱係数、電気抵抗温度係数、相転移温度および関連する動力学指数を決め、外場の制御効果を究明する。
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