研究課題/領域番号 |
20K03874
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13040:生物物理、化学物理およびソフトマターの物理関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
義永 那津人 東北大学, 材料科学高等研究所, 准教授 (90548835)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2020年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | アクティブマター / 非平衡物理 / 生物物理 / 自己駆動粒子 / 非線形ダイナミックス / 集団運動 / 流体力学 / ソフトマター / 拡散係数 |
研究開始時の研究の概要 |
アクティブマターは、内部にエネルギー源を持った粒子が自己駆動するメカニズムや、多数の自己駆動粒子が示す集団運動の解明を目指す分野である。これらの現象は多岐にわたり、大腸菌の集団運動のような生命現象から、Janus粒子と呼ばれる異なった性質の表面を持つ粒子でも、自己駆動粒子の集団運動が観測されている。本研究では、アクティブマターの構成方程式はどのように表現されるか。マクロな方程式に現れる係数の計算手法、物理的意味、そして直感的な値の大小を推測するための枠組みを構築する。
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研究実績の概要 |
アクティブマターは、エネルギー注入による粒子や細胞の自発的な運動や変形のメカニズムや、非平衡状態で多数の自己駆動粒子が示す集団運動の解明を目指す分野である。細胞や細菌の集団挙動の理解や、最近では、Janus粒子やパッチ粒子を用いて人工的に作製されたコロイド粒子の動的な凝集構造の理解や応用などの研究が行われている。前年度までに、集団運動中の細菌の拡散と応答の解析を行い、実験結果との比較を行ってきた。 本年度も継続して、VicsekモデルとActive Brownian粒子、そして流体相互作用を模した長距離の回転相互作用を入れたモデルで、集団運動における拡散係数と応答係数の解析を行った。特に、モデルの重要なパラメーターであるPeclet数や配向相互作用の強さを変化させることによって拡散係数や応答がどのように変化するのかを調べた。また、配向の時間変化に対して慣性の効果を取り入れその効果を調べた。拡散係数については、実験で観測されている密度に対してピークを持つことが、Peclet数に依存していることを明らかにし、実験の条件に近い値でピークが出ることが分かった。また、外力を加えた時に応答に関しては、配向相互作用が強ければ、Peclet数にあまり依存せずに高密度になるに従ってより大きな応答を示すことを明らかにした。これは、平均場近似的には配向相互作用が密度依存性を持つことよって説明することができた。細菌を用いた実験結果でも、密度に対して応答係数が単調に増加することが観測されている。慣性の効果は、応答の密度依存性を定性的には変えないが、運動の軌道やノイズ依存性を実験結果と合わせるには必要であることも分かった。これらの結果は理論と実験との比較を含めて論文として投稿し、現在査読コメントに対応している途中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アクティブマターの研究は集団運動が示す動的な構造についての研究が多く、外部の摂動に対する応答についての理解はあまり進んでいなかった。拡散係数や応答係数は、ミクロなパラメーターを変えた時に、系をマクロに特徴づける量であり、ミクロなパラメーターと関係づけることは困難である。そこで、本研究では、機械学習の手法を用いて、ミクロなActive Brownian粒子のシミュレーションデータを教師データとして用いて、粒子の配置と配向を粗視化した密度場と配向場に対して、方程式推定を行うことによって流体力学的方程式を推定する研究を行っている。基本的な手法の開発と機械学習のコードの実装はできており、新しい結果が得られている。その中で、どの時間空間スケールで見れば妥当な流体方程式が得られるかなどの考察によって、アクティブマターのような非平衡物理における粗視化の問題についても知見が得られてきている。これらの結果は、今後様々な方向にアクティブマターの研究を発展させる可能性を秘めていると考えている。 本年度は、コロナウイルスにおける影響は比較的縮小し、オンサイトやハイブリッドの学会が増えたが、それでも、特に滞在型の研究会はオンサイトでやることに意義があるため参加を予定していたニュートン研究所(イギリス・ケンブリッジ)での滞在型研究会への参加は次年度に延期され、それに伴いヨーロッパの研究者との研究打ち合わせの計画の見直しを余儀なくされた。オンラインでの研究会やセミナー、議論には慣れてきたこともあって、前年度と比べると情報収集や研究の成果発表の面では予想以上に進んだのではないかと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
マクロな方程式に現れるアクティブストレスや拡散係数などの係数、そして構成方程式を、粒子スケールの情報から作る手法について研究を行うために、機械学習の手法を取り入れていく。その方向性の一つは、微視的なモデルのデータから粗視化されたモデルを導出することである。これは、微視的なデータを教師データとして、それに合うように粗視化された方程式を推定することによって実現可能であると考えている。二つ目の方向性として、今年度最近の応答について研究したように、外力に対する応答の問題について機械学習を取り入れることも考えている。これは、強化学習の手法を用いて、目的となる応答や状態になるように外力を最適化するという問題である。コロイドの自己凝集現象を用いて強化学習の手法を物理的な問題に解釈し直すということを現在行っており、この結果を応用すればアクティブマターの応答についてより深い理解が得られるのではないかと期待している。 延期された国際研究会については、2023年度に開催されることは決定している。これまでの研究成果を発表し、コロナウイルスの影響があり海外の研究会に参加できなかった期間に、アクティブマターや生物物理の分野でどのような研究がヨーロッパやアメリカを中心に行われていたのか情報収集も合わせて行いたい。また、オンラインでなかなかスムーズに議論することが難しかった海外の研究者達との交流も再開して今後の研究の発展に努めていくつもりである。
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