研究課題/領域番号 |
20K03880
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13040:生物物理、化学物理およびソフトマターの物理関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
木村 明洋 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (20345846)
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研究分担者 |
伊藤 繁 名古屋大学, 理学研究科, 名誉教授 (40108634)
鬼頭 宏任 神戸大学, システム情報学研究科, 特命准教授 (80722561)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 光合成 / 反応中心 / 光捕集 / 励起移動 / 電子移動 / 進化 |
研究開始時の研究の概要 |
光合成の機能と進化に関する研究において、絶対嫌気性細菌ヘリオバクテリアの反応中心(hRC)は、最古最単純な反応中心の一つであるため、その反応機構解明は重要である。 本研究は、多様な光合成反応中心の構造、機能、色素系の進化に関する関係性を明らかにする。 具体的には、hRCの光学特性や反応過程の全貌を理論的に解明する。励起子ダイナミクスの理論と量子化学的計算手法を組み合わせ、hRCの実験データと比較する。特に、様々なRCが持つ色素種を仮想的に置き換えてその物性の変化を引き出し、機能的差異を見出す。そして、植物や紅色細菌など複雑で色素種も異なる多様なRCそれぞれが持つ反応機構の差異を理論的に検討する。
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研究実績の概要 |
多様な光合成生物が持つ光合成反応初期過程を担う反応中心(RC)タンパク質の立体構造が近年数多く報告されている。本研究課題では、これら新型RCの機能解析を行い、光合成生物の機能的進化を理論的に研究している。 緑色硫黄細菌が持つI型RC(GsbRC)について、I型RCの1次配列で共通して重要なアミノ酸を操作し色素除去することを仮想的な理論モデルとして構築し、その理論的な機能解析と比較をおこなった。その結果、GsbRCがもつ光捕集過程におけるエネルギートラップの状態を理論的に発見し、実験的に遺伝子操作によるRCの人為的改変を行った場合に起こりうるタンパク質の構造的安定性や静電エネルギーの効果に関する重要性を見出した。この研究成果はThe Journal of Physical Chemistry Bに掲載された。 これまでの多様なI型RC機能研究の成果にGsbRCの機能解析で得られた知見も踏まえ、I型RCが持つ光捕集にエネルギートラップを共通して持つことを見出し、それが生物種ごとにどのように異なる特徴を持つか比較検討した。 アシドバクテリアが持つRC(CabRC)の構造解析が2022年に報告された。このCabRCには可視光を吸収するクロロフィルと赤外光を吸収するバクテリオクロロフィルを同数程度持つ珍しいRCであるが、その光捕集機構に関する実験・理論的な研究はされていない。そこでCabRCの光捕集機能解析を行ない、可視光と赤外光をどのようにして捕集しスペシャルペアへエネルギーを移動させるのかを理論的に調査し、重要な物理的機構を見出した。 さらに、光化学系I内の電子伝達体における電子受容体キノン部位へのさまざまなキノン分子色素安定性の数値解析を行い、実測で得られている結果と比較し、数値解析結果が実測と良い相関を示した。キノン部位周辺の安定性に寄与するアミノ酸残基を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
緑色硫黄細菌が持つ非酸素発生I型反応中心(GsbRC)について、天然のGsbRC光捕集機構の理解を目指して、その遺伝子操作による色素除去を仮想的に行なった場合と比較した理論的解析に関する研究成果を海外学術雑誌に無事掲載することができた。 一方、アシドバクテリアの非酸素発生I型反応中心(CabRC)の構造解析が近年発表された。CabRC内の色素配置はGsbRCに非常に似ているが、赤外光を吸収するバクテリオクロロフィルと可視光を吸収するクロロフィルからなる異種色素を同数程度持つ。しかし、可視光から赤外光までの波長域の光エネルギーについて、どのような光捕集機能を有するかは全く解明されていない。そこで、CabRCの光捕集機能解析を理論的に調査し、CabRCが可視光を吸収した場合、その励起エネルギーをどのように電子伝達体のスペシャルペアへ移動させているかの全体像を明らかにし、2023年度中に終えることができた。 光化学系I内の電子受容体であるキノン部位へのさまざまなキノン分子色素についてAutoDoc vinaによる結合安定性の数値解析を行った。数値解析による結合安定性の結果が実測と良い相関を示し、その安定性に寄与するアミノ酸残基を検討した。この研究成果は第61回日本生物物理学会年会で報告できた。
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今後の研究の推進方策 |
遠赤色光型光化学系I(FR-PSI)、アシドバクテリアI型反応中心(CabRC)のそれぞれの機能解析やベイズ最適化による励起子モデルの修正法の開発を行なった研究成果を学術誌へ投稿を目指して準備中である。 本研究課題では、これまでに、ヘリオバクテリア反応中心が持つI型反応中心(HbRC)、赤外光を吸収するクロロフィルdを持つAcaryochloris marina光化学系I(AmPSI)、FR-PSI、CabRCの光捕集機能解析を行いつつ、従来の光化学系Iと比較を行ってきた。これら多様なI型反応中心の機能解析の研究成果で得られた実績から、各I型反応中心に共通した物理的特徴としてエネルギートラップを持つことが明らかになってきた。そこで、今後の研究推進方策として、反応中心が持つエネルギートラップに焦点を当てた光捕集機構に関する機能的多様性とその共通原理について比較検討を進め、多様な光合成反応初期過程の理解の深化を目指す。 光化学系Iの電子伝達体のキノン分子電子受容体の部位にさまざまなキノン分子を仮想的に配置させた場合の色素安定性の数値解析を行ったが、この調査を他のI型反応中心HbRCなどでも調査する。これにより、未だ解決されていないHbRCのキノン分子の存在に関する計算機科学的調査を行うことができる。
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