研究課題/領域番号 |
20K03881
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13040:生物物理、化学物理およびソフトマターの物理関連
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
田中 晋平 広島大学, 先進理工系科学研究科(総), 准教授 (40379897)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 有機溶媒 / 液滴 / 自己駆動 / ロボット / 多成分系 / 界面活性 / 対称性の破れ / 一粒子状態 / 往復運動 / 自己駆動液滴集団 / 動的集団構造形成 / ロボット設計 / 遺伝的アルゴリズム |
研究開始時の研究の概要 |
水面に置かれた有機溶媒の液滴は、周囲の表面張力を変化させることによって運動することがある。この自己駆動現象は、液滴の組成や性質によって、並進・回転・振動など、様々な様式を取る。我々が最近見出した有機溶媒液滴は、液滴が集合して運動する特異な性質をもつ。本研究は、このような自己駆動する液滴の集団を、「液滴ロボット」として設計し、その機能開発に取り組むものである。この液滴ロボットは、異なる組成をもつ液滴がその要素である。この要素の情報をロボットの「遺伝型」とし、ロボットの挙動を「表現型」として考えることにより、液滴ロボットを生物のように進化させることが本研究の目的であり、研究手法である。
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研究実績の概要 |
本年度は液滴の組み合わせによる多様性を高めるため、これまでの化学物質に加えて新たな物質を利用することを検討した。液滴の集合を用いて機能を発現するためには、まず液滴どうしが引力的な相互作用を有し、かつ液滴間の融合が最小限に抑えられていることが必要である。これを実現するためには、液滴間の融合現象を詳細に調べる必要がある。本年度前半の研究において、液滴間の融合がどのように進行するのかを調べ、まとめた。それによると、液滴の融合は以下の場合に生じやすい。1.液滴が自己駆動力を失うとき、2.化学組成が異なる液滴が同数共存するとき、3.液滴が球状でないとき。これらの結果の物理的要因は未だ完全には理解できていないが、液滴内部のラプラス圧が大きく影響していることは分かってきた。このような液滴間の融合に関する知見は、本研究の目的に対して次のように利用可能である。例えば同じ大きさの液滴を用いて液滴ロボットを構成する際には、化学組成が近く、液滴が球形を保ちやすい条件(比重の重い液滴)を用いるべきである。一方、液滴の融合を許容、あるいは利用する際には、化学組成が異なり、扁平な液滴を用いることができる。 次に本年度後半では、液滴間の融合を積極的に抑制することのできる条件を探索した。本研究ではおもにサリチル酸エチルを自己駆動液滴として用いている。シリコン系の溶媒は、サリチル酸エチルに不溶で、かつ疎水性であるため、これを用いて自己駆動液滴を「被覆」することができる。本年度後半は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を自己駆動液滴と同程度量加えた系を研究し、PDMSが実際に自己駆動液滴を被覆し、かつサリチル酸エチルの自己駆動能を阻害しないことを確認した。これにより、液滴ロボットのデザイン自由度に飛躍的な増大をもたらすことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、自己駆動する液滴を要素として用いたロボットを設計することである。これまでに、二種類の化学組成の異なる液滴を混在させることで、様々な形態をつくり出すことに成功している。また、動的にも中心にあまり駆動しない液滴の集合をもち、外縁により駆動性の高い液滴による鎖状構造をもつ、クラゲ型液滴ロボットの構築には成功している。本年度の研究では、組成の異なる液滴の融合しやすさを定量的に明らかにした。この知見は、液滴ロボットをデザインするためには必須である。当初の予定では液滴ロボットは融合しない液滴を要素としてデザインすることになっていたが、この新たな知見により、液滴間の融合もまた制御可能な現象として利用できることになった。例えば、上述のクラゲ型ロボットの場合では、中心にある液滴の集合は、融合した他より大きな液滴でもよい。また、今年度後半で融合を妨げる技術についても発見することができたため、必要であれば融合させ、また融合しない液滴も同時に系に加えることができる。このような知見の拡大から、本年度はおおむね順調に研究が進展したと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は最終年度であるので、これまでに得られた知見を結集し、具体的な液滴ロボットの構築を目指す。そのために、これまでに成功しているクラゲ型ロボットに、ロボットとして運動させる。つまり、それぞれの液滴の自己駆動を整流し、ロボット全体の並進・回転運動を実現する。これまでの研究により、同一の環境下においても駆動性の異なる液滴を共存させることが可能であること、またそのような状況では駆動性の低い液滴を中心として周囲に駆動性の高い液滴が鎖状の構造をとって集まること、などが分かっている。ただし、今の所液滴が作る構造は大まかに中心対称であり、全体として方向をもって運動するような条件は見つかっていない。よって来年度は、新たに発見したPDMSによる液滴の被覆効果を利用し、液滴の集合体の対称性を破ることを試みる。PDMSによって被覆した液滴はゆっくりではあるが長時間駆動する。よってこれを液滴集合体の片側に配置し、全体を駆動させる。この手法では液滴は完全にはロボットへ自己組織化しているわけではないが、まずは対称性を破ってロボットを運動させることを優先する。その後、液滴を添加する順序を制御することで完全自己組織化への条件を探索する。以上により、液滴ロボットの概念実証を行い、本研究のまとめとする。
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