研究課題/領域番号 |
20K03926
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
早川 雅司 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (20270556)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 異常磁気能率 / ミュー粒子 / QCD / 強い相互作用 / 格子ゲージ理論 / 数値シミュレーション / ミュー粒子異常磁気能率 |
研究開始時の研究の概要 |
ミュー粒子の異常磁気能率に対する素粒子の標準模型からの予言値は、実験による測定値との間に無視できない「ずれ」を呈している。この予言値はその一部として、QCD(クォークから原子核を形成する相互作用のゲージ理論)が異常磁気能率に及ぼす量子効果も含んでいる。QCD効果のうちHadronic light-by-light scattering の寄与と電弱-ハドロンの寄与に関しては、QCDからは求められていない値が予言値の一部として組み込まれている。本研究では、数値的手法でこれらの寄与を理解することによって、「ずれ」の有無、つまり、新素粒子構造の有無に関して揺るぎない結論を導く。
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研究実績の概要 |
ミュー粒子の異常磁気能率に対して強い相互作用が光-光散乱を介して及ぼす量子効果(HLbL)の大きさを定量的に決定するため、ミュー粒子・光子部分に無限大体積・連続理論で得られる式を用いて、48x48x48x96の点からなる格子の統計を向上させる目的の計算を遂行した。得られたデータを追加して連続極限を解析した結果、大幅な誤差の削減には至らなかった。 他方、HLbLの主なと考えられている、中性パイ中間子による光-光散乱が誘導する寄与に関する理論的再考を行なった。この寄与の大きさを評価する上で現在常に用いられている理論式は、質量殻上の中性パイ中間子の形状因子と中間子の伝搬関数を同時に含むため、エネルギー・運動量保存を破っていることになる。実際のにはこの理論式は忠実に使用されておらず、中世パイ中間子が質量殻から離れたエネルギー・運動量を参照した上での評価がされた結果がすべての論文で報告されている。近年の形状因子に関する格子QCDによる研究や実験データを用いた考察が活性化する状況下において、そのような質量殻外への外挿は、予言値に新たな理論的不定性をもたらすことになる。強い相互作用のゲージ理論であるQCDの立場から、中性パイ中間子が中間状態として媒介する寄与を定義する限り、標準として使われている式を導くことはできない。なお、本報告書をまとめている段階では短距離的な発散に由来する不定性のために代替する表式を得ることに成功していない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本課題からは、強い相互作用のゲージ理論(QCD)による光-光散乱がミュー粒子の異常磁気能率に対して及ぼす寄与(HLBL)を格子QCDシミュレーションによって評価するため、ミュー粒子・光子部分を無限体積・連続理論で得られるものに切り換えて計算している。これまでの研究の結果は、格子QCDと同じ体積・格子間隔のミュー粒子・光子部分を用いて得た以前の結果と矛盾はしないが、格段に大きい統計誤差を伴っている。総計を変更することなく短距離の揺らぎを抑制するようにミュー粒子・光子部分を構成することによって、この統計誤差の抑制を図ってきた。その上で、48x48x48x96の格子の新たなデータを取得し解析し直したところ、当初見込んだ程の誤差の削減に至らなかった。実質的な誤差の小さい連続極限にはより小さい格子間隔の格子での計算を要する可能性が高い。 他方、長距離のQCD力学からの統計揺らぎの効率的な削減のため、HLbLの主要な寄与と考えられている、中性パイ中間子による光-光散乱がミュー粒子の異常磁気能率に誘導する寄与で長距離部分を近似する可能性を探求している。その過程で、2000年以降この寄与をハドロン模型などで評価する際に使用されている理論式がエネルギー・運動量保存を尊重していない疑いが現れた。QCDからこの理論式の導出を試みたが、場の理論の範疇で中間状態の寄与を吟味した中ではそのような式、及び、代替する式を導くことに至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
ミュー粒子の異常磁気能率に対して強い相互作用のゲージ理論(QCD)による光-光散乱が及ぼす寄与(HLBL)に関しては、48x48x48x96個の格子による新たな計算で得たデータの追加のみでは連続極限の誤差の実質的な削減に至っていない状況にある。小さい格子間隔に相当する64x64x64x128個の格子の統計の向上が現況の打開にとって最も有効であるが、現時点(4月)で相応の計算機資源を調達できるか分かっていない。QCDの短距離での力学に由来する統計揺らぎのより一層の抑制を図るため、ミュー粒子と光子からなる部分の再構築と、参照点の最適化を研究する。 中性パイ中間子から誘導される光-光散乱による寄与はHLbLの主要な寄与であることから、格子QCDによるパイ中間子の形状因子を計算した上で、ある長距離以上を中性パイ中間子による寄与で近似できる可能性を追求してきた。この寄与を形状因子と結びつける上で常に参照されている式は、エネルギー・運動量空間で与えられているが、エネルギー・運動量の保存を尊重していない。空間座標で正しい式を得た上で寄与の評価をし直した上で、近似の妥当性や有効性について調べる。 QCDの短距離のダイナミクスに由来る同様の問題は、電弱-ハドロンの寄与(ミュー粒子の異常磁気能率への弱い相互作用の寄与に分類されるものであるが、QCDも関与する)でも生じている。光-光散乱の寄与の場合では、統計揺らぎを格段に削減するミュー粒子・光子部分を構成できた。しかし、電弱-ハドロンの寄与では、同様の効果を発揮するようなミュー粒子・光子・Z粒子部分を現時点で構成できていない。手計算部分の見直し・妥当性の多面的な検証を早期に完了した上で、その要因を探っていく。
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