研究課題/領域番号 |
20K03930
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
|
研究機関 | 近畿大学 (2022) 京都大学 (2021) 大阪大学 (2020) |
研究代表者 |
松尾 善典 近畿大学, 理工学部, 研究支援者 (30784417)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
|
キーワード | 超弦理論 / AdS/CFT対応 / holographic QCD / 原子核理論 / ブラックホール / 量子情報 |
研究開始時の研究の概要 |
原子核を構成するQCDの相互作用は、強結合であるため直接計算することが難しい。超弦理論におけるholographyの手法では、Dブレインの性質を利用し、強結合の物理を古典重力理論と関係づけて解析することができる。本研究ではこの手法を主に原子核に関する強結合QCDに応用し、その物理を記述する有効理論とその解析手法を確立する。これにより、原子核内部の相互作用を基本的な相互作用から得られた有効理論として理解できるようにする。さらに、この有効理論を用いて原子核などの状態とその性質について記述する方法を開発し、原子核の物理を基本的な相互作用から再現できるようにする。
|
研究実績の概要 |
本研究では、超弦理論のholographyを用いることにより、原子核を構成する核子をD-braneと関係づけ、その有効理論である行列模型を用いて原子核の状態を記述する。令和3年度までの研究において、原子核の魔法数、核子数密度の飽和則、結合エネルギーの飽和則という重要な性質について再現できていた。一方で、当初の研究計画で予定していた通り、今後の研究の進展のためには模型の更なる改良などが必要な状況となっていた。このため、令和4年度は研究の基礎となるholographyなどについて調べた。 まず、holographyに関する研究については、原子核がある種のブラックホールと見なせることから、特にブラックホール周辺のHawking輻射などの場の状態についてholographyによる対応関係を用いて量子情報理論への応用を行った。ブラックホールの状態は量子情報理論で予想されている加法性予想を大きく破る可能性が指摘されていたが、ブラックホール周辺の輻射場について、これらの量子論的真空の持つエネルギーの時空への影響を考慮することで、量子情報理論における加法性予想が成立することを示した。 また、原子核とブラックホールはどちらもカオスの性質を示すことが知られている。そこで、本研究で使用する超弦理論におけるカオスについても調べた。ブラックホールは高温で高い励起状態の弦に遷移すると考えられており、弦のカオス性はブラックホールの熱力学的性質と関係することが示唆されている。そこで、古典的散乱で用いられる過渡的カオスの解析手法を用いて弦の散乱振幅がカオス的な性質を示すか調べた。これまでに弦の不規則な散乱がカオス性を示しているとの指摘があったが、弦の散乱振幅は古典的カオス散乱で見られるようなカオス性を示さないとの結果を得た。 この他に超弦理論のHagedorn温度近傍でのブラックホールについても研究した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、まず第1段階として現在の行列模型を詳しく調べることで現在の手法を改良し、次に第2段階ではD-braneやholographyを研究することで現在の模型を改良するという計画だった。令和3年度半ばまでに、原子核の魔法数、核子数密度の飽和則、結合エネルギーの飽和則の3つの原子核の重要な性質が行列模型によって再現できており、第2段階への移行を行うべき状況と判断した。そこで、模型の改良に必要な知見を集めるため、holographyやD-brane、ブラックホールなどの本研究で使用する基本的な理論についての研究を進めていた。 令和4年度の研究では、これら本研究の基礎となる理論の研究をさらに進めた。また、これまでに上記の3つ以外の原子核の重要な性質として、原子核の持つ量子カオスの性質や、QCDのHagedorn温度での振る舞いなどへの応用を念頭に、本研究で使用している超弦理論におけるカオスに関する研究や、超弦理論のHagedorn温度近傍でのブラックホールの研究なども進めた。 この中で、holographyに関する研究やカオスに関する研究では一定の成果を収めているものの、まだ研究すべき課題も残されている。また、Hagedorn温度近傍でのブラックホールについての研究については令和5年度まで継続する予定である。 研究計画では、これらの基礎となる理論の研究を基に原子核の行列模型の改良や、まだ再現できていない原子核の重要な性質を記述する方法を研究する予定である。これらの原子核の模型への応用は令和5年度に行う予定であるが、令和3年度で基礎理論の研究を開始したことなども考慮すると令和4年度に原子核への応用の研究を開始するのが望ましかった。この点を考慮し、やや遅れていると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の研究では、原子核の行列模型の改良に向けてD-braneやholographyといった本研究で用いる理論についての研究を進めた。来年度の研究ではこれらの結果を基に原子核の行列模型への応用を考える。特に、原子核がある種のブラックホールと見なせることを利用して核子数の大きい原子核の記述に繋げられないかを調べる。 また、これまでの研究で、研究計画で重要な原子核の性質の例として記載した原子核の魔法数、核子数密度の飽和則、結合エネルギーの飽和則の3つについては再現できている。そこで、これら以外の原子核の重要な性質を再現できないかという点についても研究を進める。特に、近年ブラックホールの熱力学的性質とカオスの関係が注目されているが、原子核の励起状態においても量子カオスの振る舞いが現れることが古くから知られており、この点について注目し、今年度の研究では本研究で使用する超弦理論におけるカオスなどについて研究を行った。来年度はカオスに関する研究についても進め、原子核の示すカオスの性質を行列模型から再現できないかについても調べる。 また、近年のブラックホール研究では超弦理論のHagedorn温度近傍での物理についても研究されており、本年度の研究でもHagedorn温度近傍を含む高温領域でのブラックホールの性質について研究した。この研究については来年度も継続する予定である。そして、このHagedorn温度近傍のブラックホールのholographic QCDへの応用についても調べる。原子核の行列模型で用いるholographyの重力側の背景時空上でのHagedorn温度を考えると、QCDのHagedorn温度と関係すると考えられる。このholographic QCDの背景時空上でのHagedorn温度近傍のブラックホールについても調べる。
|