研究課題/領域番号 |
20K03938
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
石橋 明浩 近畿大学, 理工学部, 教授 (10469877)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | ブラックホール / 一般相対論 / 重力理論 / 宇宙論 / 超弦理論 / 宇宙物理学 / 素粒子理論 |
研究開始時の研究の概要 |
暗黒物質や暗黒エネルギーの正体解明は、現代物理学における最も根源的課題の一つである。これら暗黒物質・暗黒エネルギーは特徴的な重力相互作用しかしないため、その探査には強大な重力源であるブラックホールとの相互作用が引き起こす現象を捉えることが有効である。特に暗黒物質は、超弦理論の低エネルギー有効理論に現れる超軽量有質量ボソン場である可能性が指摘されている。本研究の目的は、ブラックホール時空上での様々な有質量ボソン場のしたがう基礎方程式の新しい定式化を試み、それにより暗黒物質候補である様々な有質量ボソン場のブラックホール時空におけるダイナミクス、特に超放射不安定性現象を詳細に理解することである。
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研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、トポロジカル・ブラックホールと呼ばれる背景時空が局所的に反ドジッター(AdS)時空だが非自明なトポロジーを持ち得るブラックホール時空上での様々な有質量摂動について解析を進めた。すでに様々なボソン的な線形摂動場に対するマスター方程式は得られており、その一般解も超幾何関数を用いて具体的に求めることに成功している。昨年までは、それら一般解に対する可能な境界条件と、安定・不安定性の関係の精密な決定方法について試行錯誤を重ねてきた。今年度は、その方法として摂動方程式に現れる対称演算子の自己共役拡張を具体的に遂行する方法を確立し、現在その方法に基づいて解析を遂行中である。 また、漸近安全な量子ブラックホール時空のブラックホール熱力学との整合性を調べた。厳密繰り込み群を用いた近年の漸近安全性の研究により、エネルギースケール依存する重力定数が紫外極限で非ガウス型固定点を持つことが判明した。これは摂動論的には繰り込み不可能な重力理論が、非摂動的に繰り込める可能性を示唆するものである。この紫外固定点をもつ走る重力結合定数を時空構造に反映させる一つの機構として、エネルギースケールと時空点の同一視する、いわゆる「スケール同一視」の方法が考案されているが、この方法は一意的ではなく、その決定方法には問題が残っている。本研究では物理的に妥当なスケール同一視の決定方法として、ブラックホール熱力学との整合性を指導原理とし、スケール同一視がブラックホール地平面の面積の関数となるべきことを提案した。そして、この提案に基づいた量子補正ブラックホールに対する普遍的エントロピー公式を導出することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本計画の内、局所AdSトポロジカル・ブラックホール時空の有質量ボソン場による摂動安定性については、昨年度までの研究により、摂動のマスター方程式と、その一般解について大域解を構成する段階までは出来ている。この一般解に妥当な境界条件を課して、具体的に安定・不安定性が現れるかどうかを判定するための試行錯誤を続けてきた。トポロジカル・ブラックホールでは、事象の地平面に対応する内部境界と共形無限遠の2つの境界が存在する。内部地平面での境界条件をどのように設定するかについて結論がでず、そのため共形無限遠における境界条件と安定性・不安定性の厳密な関係が不明のままであった。そのような状況に対して今年度は、摂動方程式に現れる対称演算子の自己共役拡張を用いることで、境界条件と安定性・不安定性の対応関係を、数学的に厳密かつ網羅的に示すことができる目途を立てることができた。この計画については、ブラックホールが回転する場合については、まだ解析が進んでいない。 また、量子補正ブラックホールの構成について、厳密繰り込み群を用いて重力定数にスケール依存性を持たせる「スケール同一視」の方法について、回転ブラックホールの量子補正ではブラックホール熱力学と整合的な方法が分かっていなかった。そのような状況に対して、本研究によりブラックホールの事象の地平面の面積関数を用いたスケール同一視を提案し、それにより問題を解決できることを示すことに成功した。また、この方法を用いて、量子補正されたブラックホールに対する普遍的なエントロピー公式を新たに提案した。
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今後の研究の推進方策 |
トポロジカル・ブラックホールの有質量線形摂動安定性解析における内部地平面と共形無限遠との両端での境界条件の厳密な取り扱い方法について目途が立ったので、今後はこの方法に基づいて具体的に解析を進めることが課題である。また、内部境界に対する境界条件については、よく知られたブラックホール準固有振動と整合する境界条件についても安定性・不安定性解析と合わせて考察することが課題である。特に、Nariai型と呼ばれる、ブラックホール地平面近傍をスケール拡大した時空に対する摂動公式の導出と安定性解析が次の課題である。さらに、回転をもつブラックホール時空における研究を進めることも重要課題である。 また、漸近安全な量子重力理論における量子補正ブラックホールについては、回転ブラックホールの場合に走る重力結合定数に対して、ブラックホール熱力学と整合することを指導原理とした新しいスケール同一視の方法を提案したが、その方法により、ブラックホール内部における特異点を量子論的効果により解消可能かどうか明らかにすることが今後の課題である。さらに、正則ブラックホールの摂動安定性解析について、不安定モードを摂動の初期条件として具体的にどのように設定できるかは今後の新たな課題の一つである。
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