研究課題/領域番号 |
20K03943
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
江幡 修一郎 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (40614920)
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研究分担者 |
吉永 尚孝 埼玉大学, 理工学研究科, 名誉教授 (00192427)
千葉 敏 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (60354883)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2020年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 核分裂 / 原子核構造 / 微視的平均場模型 / 原子核理論物理 / 核データ / 状態方程式 |
研究開始時の研究の概要 |
核分裂生成核種の陽子数(Z)/中性子数(N)比は親核の比からズレがあり、荷電偏極と呼ばれる。荷電偏極は核分裂生成核種から放出される即発・遅発中性子収率等を決定に重要である。原子力工学では限定的な分裂反応の核データを再現するライブラリがあるが、未知の反応系への予言能力は殆どない。そこで任意の核種の荷電偏極を導出する微視的な理論手法を開発し、任意の核分裂性核種の荷電偏極を予想する手法及び荷電偏極のデータ基盤を開発する。
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研究実績の概要 |
本研究課題は核分裂片に現れる荷電偏極を非経験的な理論手法で導出し、任意の核分裂生成核種に適用し荷電偏極の理論データ基盤を開発する事である。 核分裂する親核の陽子数(Z)と核子数(A)比が分裂片でも変化しない仮定をUCD(unchanged charge distribution)仮定と呼ぶ。核分裂時や核分裂後に放出される中性子(即発中性子、遅発中性子)の測定値を再現する為には、実際の核分裂片のZ/AはUCDからズレているとされ、荷電偏極と呼んでいる。ズレは典型的には±0.5程度になると考えられている。ウラニウムの分裂片の核子数が約100程度であり、これに対し荷電偏極は僅かだが、放出される中性子収量に大きな影響を与える。荷電偏極は既存のデータライブラリに採録され応用されているが、原子核理論による裏付けはなく、任意の核分裂生成核種に予言能力はない。そこで非経験的にこの核データを得られる理論的手法の開発を進めている。 2020年度のウラニウム-236の分裂片の結果から、中性子収率に重要な軽い(重い)分裂片の荷電偏極が静的微視的平均場模型(拘束条件付きSkyrme HF+BCS模型)からは再現されない事が分かり、動的効果の考慮の必要性が生じた。2021年度の課題は時間依存平均場模型による、動的効果を含めた核分裂片を記述する模型の開発とした。その結果、初期状態依存性が強い事が分かり、等エネルギー面の初期状態を準備することで、有限の荷電偏極が現れる事が分かった。そこで2022年度では実際に得られた荷電偏極の値を統計崩壊計算に入力し、実際の測定される即発中性子数を導出できるか確認する事を行った。また、分裂に至る変形に対する核ポテンシャル面の相互作用依存性を調べた。以上の結果を国際会議(ND2022)及び学術雑誌Frontiers in Physics にて論文発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画では、2020年度に微視的平均場模型に基づく理論的方法を確立し、2021年度に導出した核分裂片の荷電偏極を、統計崩壊計算に導入し中性子収率を計算する基盤を整備し、2022年度にはWhal's systematicsに採録されている反応系を対象に理論データベースが完成する予定であった。 2020年度において静的な拘束条件付きのSkyrme HF+BCS模型では十分な大きさの荷電偏極を得られず、動的効果の考慮すべきという知見が得られた。この結果を受け2021年度の計画を変更し、動的効果を考慮した時間依存平均場模型に基づく理論的手法の開発を行った。等エネルギー面の初期配位から時間発展を行い、ウラン236の核分裂を対象に荷電偏極を導出した結果、軽い(A<90)・重い(A>140)核分裂片で有限の荷電偏極が現れる事が分かった。またこの荷電偏極はエネルギー依存性がある事も分かった。そこで、2022年度では当初の計画通りに、理論的に導出した荷電偏極を、統計崩壊計算に導入し中性子収率を計算する基盤を整備し、反応系を対象に理論データベースを構築する事とした。 統計崩壊計算に理論的に導出された荷電偏極を導入し、実際の測定値と比較する為、より核分裂片の対象核種を拡大したところ、計画よりも多くの計算時間が必要な事が分かった。粗い配位点を準備し計算を行い、質量数A=90~140の荷電偏極を見積もり、線形内挿して統計崩壊計算へ入力するまで進める事が出来た。結果、実測値とよく一致する値を得る事が出来た。しかしながら、その後に計算機に問題が生じ以降の計算が進められなくなった。計算機のメンテナンスを行う必要が生じたため、研究が遅延してしまった。 以上の結果により、研究計画は変更があり、結果もよいものになったが、やや遅れていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
原子核構造に基づく方法で核分裂片の配位を計算し、その結果を荷電偏極を通して評価する事が可能になった。原子核構造が反映された球形魔法数や八重極変形核の特徴が、荷電偏極に現れる事が明らかになったが、同時に静的な方法による荷電偏極の導出は十分では無い事も明らかになった。動的効果を考慮する為に、実時間依存平均場模型を適用し、荷電偏極を得る方法を開発したが、初期配位に大きく依存する事が分かった。等エネルギーを持つ初期配位を選ぶことで有限の荷電偏極が現れる事また、この荷電偏極にはエネルギー依存性がある事も分かった。核分裂障壁の相互作用依存性があり、特にスピン軌道力と対相関の競合が重要であることが分かった。 今後の研究計画では、より精度を高くし、計算機リソースを十分に利用し、当初予定していたWhal's systematicsに採録されている反応系を対象に理論データベースを構築し研究計画を完了したい。
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