研究課題/領域番号 |
20K03952
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
佐々木 伸 北里大学, 理学部, 講師 (20622509)
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研究分担者 |
木村 哲士 大阪電気通信大学, 共通教育機構, 特任准教授 (20447882)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 超弦理論 / 双対性 / Double Field Theory / 非幾何学的時空 / ブラックホール |
研究開始時の研究の概要 |
量子力学的効果を考慮すると、ブラックホールは熱放射を起こし(ホーキング放射)、有限の時間内で消失する。従来の重力理論であるアインシュタインの一般相対性理論では、マクロな時空構造しか扱えず、ホーキング放射の起源は明らかではない。本研究では整合的な量子重力理論として期待されている超弦理論より派生した新しい重力理論「Double Field Theory」を用いてブラックホールの内部構造を探る。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は整合的な量子重力理論である超弦理論において、弦がプローブする時空に特有の構造を明らかにすることである。本年度では超弦理論に現れるT双対性 (T-duality)に注目し、時空に内在する複素構造と、そのT双対変換について調べた。時空計量や背景場のT双対変換則はBuscher則としてよく知られているが、本研究ではT双対共変な超重力理論であるdouble field theory (DFT)を用いることで、時空間の複素構造に対するBuscher則に類似したT双対変換法則を発見した。この変換則により、互いにT双対であるTaub-NUT空間のハイパーケーラー構造とNS5-brane幾何における双ハイパー複素構造が結び付けられることを具体的に示した。 T双対共変な複素構造は一般化複素構造(generalized complex structure)として知られている。一方、DFTにおけるdouble化された時空幾何はBorn幾何により表現されている。本研究では、一般化複素構造がBorn幾何と整合的になる条件を考察した。我々は一般化複素構造とBorn幾何構造が超複素数系の代数構造に立脚することに注目し、T双対共変な超弦理論背景場、複素構造を表すdoubled幾何構造を構成した。この構造は高次元の超複素数系またはクリフォード代数により生成され、時空の双ハイパー複素構造、ハイパーケーラー構造等をT双対共変な形で内包する。この性質を応用し、時空計量への弦インスタントン効果が双対性によりどのように移り変わるかを考察した。 また、別件として、超重力理論への高階微分について調査し、超対称性とゴースト不在性により強く制限された高階微分効果によるde Sitter時空生成の可能性について研究を行った。 これらの結果を論文にまとめ発表し、学術誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主目的は整合的な量子重力理論候補である超弦理論に特有の時空構造を双対性という観点から調査することで、ブラックホールの内部構造を明らかにすることである。弦理論では広がった対象(弦)が時空に巻きつくことで現れる特有の時空構造が存在する。これは世界面インスタントン効果として知られている。この効果は、点粒子をプローブとして時空間を探るアインシュタイン理論では現れず、超弦理論(量子重力理論)に特有の構造を示すはずである。 前年度までに、本研究ではT双対共変なdoubled空間に現れるalgebroidの積分構造を解析し、時空の大域構造として(プレ)圏の構造を見出した。これにより、本研究目的の一つであったコクシグル問題について一定の知見が得られた。また、R-braneに代表されるlocally non-geometricオブジェクトをDFTの解として具体的に構成することで、その物理的性質を調べた。特に、弦の巻きつき効果として世界面インスタントン効果を集中的に調査してきた。 本年度は弦の巻きつきに由来する世界面インスタントン効果に不可欠である時空の複素構造について、特にそのT双対変換性について詳細に調べた。これにより、世界面インスタントン効果のT双対変換の理解が進み、DFTを用いることで、様々な時空へのインスタントン効果を調べることができるようになった。この技術は本研究の最終目的である弦プローブによるブラックホールの構造解析の際にも重要となる。以上の理由を持って研究は概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終目的は、ブラックホール内部構造を超弦理論における弦の巻きつきに由来する自由度を用いて説明することである。本年度までは超弦理論に現れるT双対性を明示的に含むdouble field theory (DFT)を用いて各種時空に現れる世界面インスタントン効果を調べてきた。世界面インスタントン効果のT双対変換則が明らかになったことで、ある時空多様体における世界面インスタントン補正が、T双対である別の時空多様体へどのように写像されるかがわかったことになる。整合的な量子重力理論では弦の巻きつきによる補正効果がブラックホールにおいても現れるはずなので、最終年度はNS5-F1-P系など、T双対変換可能な具体的なブラックホール時空に対して弦の世界面インスタントン効果を解析し、弦の巻きつき効果がブラックホール時空の内部自由度にどのように寄与するかを調査する予定である。 また、T双対共変なゲージ変換に付随したalgebroidの積分構造がわかったことで、コクシグル問題に対しての一定の知見が得られた。この積分構造は(pre) rackoidと呼ばれており、DFTの整合性条件はYang-Baxter方程式の形で定式化できる。Yang-Baxter方程式はある種の組紐の代数と関係しており、この代数構造が表すブラックホール時空の性質についても調査を行う予定である。
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