研究課題/領域番号 |
20K03962
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
加藤 幾芳 北海道大学, 理学研究院, 名誉教授 (20109416)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 複素座標スケーリング法 / 多体共鳴状態 / 散乱行列 / ソフトダイポール共鳴 / スペクトル表示 / チャネル結合 / 共鳴状態 / 位相差 / coupled channel / complex scaling method / resonances |
研究開始時の研究の概要 |
複素座標スケーリング法を用いて、チャンネル結合系の共鳴状態や散乱状態の特徴的性質を明らかにするために、次の課題を実行する: 1) チャンネル結合系のS-行列, あるいは位相差について、複素座標スケーリングされたハミルトニアンのスペクトル表示を求める、 2)二乗可積分関数を基底にして、複素座標スケーリングされたハミルトニアンの固有状態から共鳴状態の部分幅を求める。 その結果、結合チャンネル系の共鳴 散乱現象について、構造と結びついた理解が容易になり、特に閾値近傍の共鳴機構について極の分布と散乱観測量を結び付けた分析・理解が可能になる。
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研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、複素座標スケーリング法を用いて散乱行列のスペクトル表現を求め、結合チャンネル系の共鳴・散乱状態の分析を行って、共鳴・散乱機構の新たな理解を得ることである。今年度は、これまでの研究成果を取りまとめ、今後の研究の課題を設定することを目指した。 そこで、まず、昨年度開発した複素座標スケーリング法を用いた単一チャンネル系の散乱T行列の計算を引き続き行った。その中で、散乱自由解に対して、複素座標スケーリング法で得られた数値解を用いて散乱T行列を計算すると言うアイディアの重要性と有効性が確かめられ、今後の研究テーマの柱となった。 本年度の公表成果は、昨年度から継続したテーマである中性子過剰核における多体共鳴状態の研究について、8Heと8Cにおけるソフトダイポール共鳴状態の存在を理論的に確定し、その結果を公表したことである。この研究は4He核に4つの中性子或いは4つの陽子が付け加わり、4He核と集団的双極子振動が現れることを示したもので、多体共鳴を扱うことが出来る複素座標スケーリング法によるユニークな成果である。また、共鳴状態の物理量が複素数で記述されることについて、その解釈をめぐる問題を論じた論文を公表し、9Beと9B核における1/2+励起状態の分析を行い、鏡映対称性の破れを指摘する論文を公表した。更に、多体共鳴状態を求める新たな基底関数系として一般化されたコヒーレント状態を新たに提案した。 本研究の遂行に当たっては、コロナ感染の拡大のために、モンゴル、カザフスタン、ウクライナなどとの国際共同研究をインターネットの活用で行って来たが、ようやく感染の収束が見えてきて、カザフスタンへでの国際会議参加を機に直接対話による研究情報の交換や議論が可能になってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の進展が昨年度に引き続きやや遅れた理由は、主に以下の3つの事情に因る。 (1)新型コロナ・ウイルス感染拡大が収束しない為、研究打ち合わせなどの議論・会合をもっぱらインターネットを通じてオンライン会合で行って来たことによる情報交換の不十分性。 (2)関連した他の研究課題の論文発表などを優先しなければならないことが生じた。 (3)学会発表や国際会議などへの参加をコロナ禍のために中止せざるを得ず、予定していた予算の執行が次年度に繰り越すことになった。 これらの事情により研究の進展がやや遅れているが、これまでの研究によって、複素座標スケーリング法は多体共鳴状態の記述を可能すると共に、多体の散乱T行列を求めることによって、構造と散乱の問題を統一的に研究する道を提供することが一層確かなものになった。今後の研究の方向性が明確になったことは、今年度の大きな成果である。また、本年度、本研究と密接に関連する課題に関する研究が進展し、それらの研究成果の論文が多く発表され、本研究の今後の発展にとって力強い後押しになった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果として、漸近波動関数を複素座標スケーリング法で求められる漸近ハミルトニアンの固有関数で記述し、相互作用行列要素が良い近似で得られることを確認することが出来た。これによって、多体散乱T行列の計算を複素座標スケーリング法で行うことの見通しが得られたと考えられるので、引き続き、これまでの単一チャンネル系およびチャンネル結合系に加え、多体系についての研究を進めて行くことを考えている。そのために、次のことを行う: 現在進めている9Be核に対してα+α+n3体系の計算を進め、散乱T行列の計算を行うことによって、共鳴状態の崩壊部分巾を求めることを行う。既に、チャネル結合系についてT行列を計算して部分巾を求めることに成功しており、その論文も発表済みである。その研究を3体系に進めると同時に、本研究で得られた複素座標スケーリングでの漸近波動関数を用いたT行列の求め方を適用することによって、本研究の課題であるチャネル結合系から3体系の課題に進めることが可能となる。
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